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辺境伯の告白_1

アンリが先ほど使った「本来の場所」という言葉は、今日ここに来たリーンの挨拶に対してシエラディトが返した言葉である。


“陛下はルシィを、いや、フォールシナ姫を本来いらっしゃるべき場所に帰してくださいました”


シエラディトは確かにそう言ったのだ。


アンリから問われたシエラディトは身動ぎもせず、何かを考えるように一点を見つめている。


そして、ややあって、口元を緩めながら言った。


「国王陛下、そして王弟殿下。もっと率直に話しませんか。そもそも、少なくとも私はそのつもりでこの場に参っております」


リーンは内心ひどく焦った。


この男は何を言っているのだ。


率直に?


どういうことだ。


動揺を隠し通そうとするが、言葉はそのまま出てしまう。


「どういうことだ?なんのことを言っている?」


シエラディトは落ち着き払っている。


「先ほど、王弟殿下はフォールシナ姫、すなわちルシィのことをお尋ねになったはず。陛下もルシィについてお聞きになりたいのではありませんか。そのために今、この時間を利用しているのでは」


図星だ。


リーンは頷くしかない。


「あ、ああ」


なすすべもなく、リーンは肯定する。


「本日は私もハーリード殿も、ルシィのことについて包み隠さずお話しするつもりです」


シエラディトが平然としてそう言うと、ハーリードもやや姿勢を崩して頷いた。


リーンは意外に思った。


シエラディトはルシィのことを公にしたくはなかったのではないか。


だからこそ、スイネ教会に残っていた記録も詳細をぼかしていたのではないのか。


そして、リーンが出した「青い傷のある人物」についてのおふれにも応じなかったのではないか。


「なぜだ。なぜ、そのような気持ちになったのだ」


シエラディトは躊躇わない。


「それは陛下がルシィを見つけてくださったからにほかなりません」


リーンは不思議に思う。


私が見つけなければ、ルシィはそのままだったのか。


いやそんなことはあるまい。


「私が見つけなくとも、そなたかハーリード殿が名乗り出ればよかったのでは」


ところが、シエラディトがふっと余裕のある笑みを見せて言った。


「どこの誰ともわからない少女を誰に向かってなんと名乗り出るのです」


リーンとアンリが顔を見合わせて驚く。


「なんと。そなたはルシィがどこの誰とも知らなかったと申すか」


「はい、名前はもちろんどういういきさつかも聞いておりません」


「ではどこの誰とも知らずに保護し、スイネ教会に預けたのか」


「どこの誰とわからなくても、自分に託されれば保護しますし、自分が世話をすることができなければ信頼する筋に預けます」


確かに、例えば門前に生まれたばかりの赤ん坊が捨てられていたら、保護ししかるべきところに託すかもしれない。


しかし、口で言うことはたやすいが、行うことは難いのだ。


しかも捨て子ではなく、託しに来たのであれば、断ることも可能だ。


リーンはまず、その心がけに心打たれた。


「それで、誰が託したのか、聞いても」


それは、わかっている。


わかっているが。


リーンはもうすでに知っていることを、答え合わせするつもりでシエラディトに尋ねた。


案の定、


「私の娘です。セレナと申します」


とシエラディトが答える。


やはりそうか。


それならこれは自分の口から言うべきだろう。


「私もセレナという名前には聞き覚えがある」


リーンはルシィを探すきっかけになったいきさつを話し始めた。


「ルトリケ中に出したおふれのことを知っているか。首筋から右肩にかけて青い傷を持つ人物を探すおふれだ」


シエラディトは首を振る。


ハーリードは


「私はおふれのことは知っておりました。けれど、右肩にまでかかるような大きな傷があるとは思わず」


と言い訳のように言う。


けれど、しらを切っているようには見えなかった。


「それはもうよい。それで、そのおふれを出した後、名乗り出たのがセレナ・ハニウェルという女性だったのだ。これはそなたの」


「娘に相違ありません」


シエラディトが即座に肯定した。


リーンが続ける。


「彼女は名乗り出た時、十八年前にカラチロとルトリケの国境の森に青い傷のある生まれて間もない赤ん坊を捨てたと言っていた」


「その赤ん坊はルシィですね。正確には国境の森に捨てたのではなく、国境の森近くにある私の邸に連れてきたのですが」


「そうか、彼女は必ずしも嘘を言っていたとも言い切れないのだな」


アンリが口を挟む。


「それで、そのとき、ハニウェル夫人はシエラディト辺境伯になんと告げたのですか」


シエラディトは今度はアンリに向かって


「子どもについては何も。ですから、どこの誰ともわからなかったのです」


と答えた。


そして


「ただ、ひどく青い顔をしておりました。事情を聞くと、過ちを犯し、皇妃さまのそばにいられなくなったと」


と言う。


「過ち、過ちとはどんなことだったのでしょう」


アンリが重ねて聞く。


シエラディトはその時を思い出そうとするように、と訥々と話した。


「それについては何も語りませんでした。と言うよりも、、そんな時間すらなかったのです。切羽詰まっているように見えました。そして逃げるようにして子どもを置いていきました」


「なるほど、話す間もなく逃げて行ったと」


「はい、追われているかのように。その際、娘を思い身分証と紹介状、そして当座暮らせるだけの路銀を渡しました。過ちを犯したとはいえ、また庶子だとはいえ、娘であることに変わりありませんから」


と答えた。


「セレナを大事に思っていたのだな」


思わずリーンが呟く。


その声がシエラディトに届いたかどうか。

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