二人の辺境伯_1
客室にはすでに四人がそろっていた。
中央に大きなテーブルが置かれている。
テーブルの向こう側に置かれた3人掛けのソファにシエラディト辺境伯、ハーリード辺境伯が腰かけていた。
テーブルの両サイドにはひじ掛けソファが置かれていて、エルベルト王子、フォールシナ姫が座っている。
どうやら和気藹々と談笑していたようだ。
扉の外側まで和やかな雰囲気が伝わってきていた。
それはそうだろう。
エルベルトは二人の辺境伯の年若い友人であり、フォールシナ姫の婚約者だ。
また両辺境伯は姫のスイネ教会時代の恩人である。
気の置けない者どうしだ。
となれば、おそらくは久しぶりであろう再会にさまざまな話に花が咲くのも当たり前のことだろう。
今回四人が顔を合わせる機会をつくったのはリーンだった。
前の夜にサーシから両辺境伯が今日来ると聞いて、急ぎ、エルベルトとフォールシナに声をかけたのだ。
そして、その流れでエルベルトにシエラディトらを紹介するように頼んでおいた。
最初はサーシに両辺境伯との間を取り持つように頼んでいたのだが、若い頃の知り合いだと言うサーシ自身も二人に会うのは久しぶりだと話していた。
旧知の仲だとはいえ、いささか頼みにくいと思っていたのだ。
それで、最近の二人のほうと親しく、また、リーンもアンリも話しやすいエルベルトに依頼したというわけである。
リーンとアンリが入室すると、中にいた四人はおしゃべりをやめ、みな居住まいを正して立ち上がった。
「どうぞ、そのままで」
とリーンが言うと、エルベルトが
「陛下、その節はいろいろとお世話になりました」
と簡単に挨拶したあと、シエラディト辺境伯に向かい、
「こちらがカラチロ国シエラディト領主のユール・シエラディト辺境伯様です。そしてこちらがルトリケ国王陛下と王弟殿下です」
と紹介した。
リーンが
「このたびは他国の王の婚約式によく来てくれた。礼を言う」
と言うと、シエラディトも
「はじめてお目にかかります。ユール・シエラディトと申します。お招きいただき、光栄に存じます。ありがとうございます」
と返す。
シエラディトの面差しはどことなくカルドリを彷彿とさせた。
年齢はシエラディトが十歳以上うえのはずだが、あと五年もすればカルドリもこんな感じになるのではないかと思われるような若々しさがあった。
そのカルドリ帝はシエラディト殿をなんとなく避けるようにしていた。
おじいさまもシエラディト殿を要注意人物だとおっしゃっていた。
しかし、
とリーンは思う。
どことなく風格のある容貌は威厳もあるが、それ以上に何とも言えぬ穏やかさを湛えている。
その穏やかさの正体にたどり着けないまま、次にリーンはハーリード辺境伯に向かって
「ハーリード、久しいな。このような機会を大変うれしく思うぞ」
と声をかけた。
三週間ほど前に貴族会議で顔を合わせてはいた。
しかし今回のように個人的に話す機会はリーンの即位前はもちろん、三か月前に即位してからも一度もなかったのだ。
ハーリードも
「このような機会を設けていただき、恐悦至極に存じます」
と返す。
通り一遍の挨拶が終わったところでリーンが着席を促し、みな席に着いた。
腰を掛けるや否や、リーンはずっと心にわだかまっていたものを口に出した。
「まずは、シエラディト殿とハーリード殿に詫びを言いたい。シエラディト殿には手紙にも書いて送ったが、スイネ教会で穏やかに暮らすフォールシナ姫を勝手に、攫うようにして、連れ帰ってきてすまなかった」
リーンから謝罪されるとは思ってもいなかったのだろう。
シエラディトが慌てたように言う。
「そんな、陛下が謝罪なさる必要はございません。陛下はルシィを、いや、フォールシナ姫を本来いらっしゃるべき場所に帰してくださいました。こちらは感謝こそすれ」
フォールシナ姫が本来いるべき場所に帰す?
本来いるべき場所とはどういうことだ?
シエラディト辺境伯はやはり何かを知っていたのか。
リーンはアンリが自分の方を向いて目配せするのに気づく。
踏み込んで聞いてもいいかと尋ねているのだろう。
リーンは首を素早く振って、それを止めた。
カルドリからはセレナについてはもういい、と言われている。
それを抜きにしても、少なくとも今は聞くべき話ではない。
聞くにしても別の方面からだ。
とりあえず、四人がそろっている今、まず話題にすべきは明日のことだろう。
リーンはアンリに別の話をさせるように仕向ける。
「アンリ、まず、あの話を」
シエラディトとハーリードへの依頼だ。
「実は、明日の婚約式では、フォールシナ姫のお披露目を予定しています」
一同頷く。
アンリも頷きながら、エルベルトを一瞥し、
「そのあと、エルベルト殿下がフォールシナ姫に結婚の申し込みをする手はずとなっています」
ハーリードが思わず
「それは何と手際のよい」
と呟いた。
エルベルトが弁解するように
「いや、それはカルドリ帝の意思でもあるのです。皇女がもう一人いたとなると、求婚者が殺到するだろうから、先手を打てという」
と人差し指で頬を掻く。
エルベルトの横顔を見つめていたフォールシナが恥ずかしそうにうつむいた。
シエラディトが
「なるほど、カルドリ帝らしいな」
と呟く。
かまわずにアンリが続けた。
「それで、お二人にお願いしたいのは」
シエラディトとハーリードがふむふむと頷く。
頼みごとそのものは大したことではないので、話はすぐ終わった。
打ち合わせが終わると、まず、フォールシナが
「それでは私はこれで失礼いたします」
と、立ち上がる。
リーンとアンリが来るだいぶ前から四人で話をしていた。
積もる話もでき、フォールシナも満足したのだろう。
また、彼女は明日の準主役だ。
当然準備も必要で、しかも多いだろう。
リーンは「ああ、また明日」とその場で言い、フォールシナはお辞儀をして退室した。
三人になったところで、リーンがアンリを見る。
アンリが
「実はお二人には伺いたいことがありました。産業や領地経営の考え方について。もちろん、エルベルト殿下もテリクの状況やご自身の考えについて可能な範囲でお話しくだされば」
と、ずっと聞きたかったことを話題にした。




