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祖父と父

リーンはその時のサーシの真意を確認したいと思った。


「おじいさま、おじいさまは敗戦後、父上に、無能を装って、膿みを出し切れとおっしゃったと聞きました」


「言ったな。確かに]


サーシは頷いた後、リーンを見据えた。


「リーン、聞くが、敗戦後も王の権威はそのままだと思うか」


「いいえ、権威は地に落ちるでしょう。場合によっては責任を取って退位するように迫られると思います」


「ではもし退位を迫られたら、キーツは誰に譲位すればよい?」


「おじいさまは?法律上無理なのでしょうか」


「国王は六十歳で退位と決まっておる。また、現在、一度退位した王が再び玉座に就くことに関する法律もない。なによりわし自身がそんな法律を作る気もないし、そもそも再び王位に就くことも考えていない。とすれば、誰に譲位する?」


「当時、王太子であった私でしょうか」


「当然そうなるな」


「ですが、私には後見が」


「そうだ。お前には後見となる有力貴族はまだいなかった。わしの治世が長かったせいもあり、どの貴族が味方についてともに民を導いてくれるか、どの貴族が反発し、背こうとしているか見えなくなっておった。そんな中で後ろ盾のないお前が即位したらどうなると思う」


「貴族たちは割れますね。私につくか、アンリを立ててすぐさま私を引きずりおろしにかかるか。あるいは即位する前にアンリとの跡目争いがあるかもしれません。いずれにしても国が割れます。即位したあとも、私自身が思うように動くことをよしとしない貴族が少なからずいたかもしれません」


「つまりそういうことじゃ。キーツを権威のないまま王の座に留まらせば、悪辣な貴族の所業がいずれは明るみに出るだろう。一方で、キーツのほうが都合がいいからお前とアンリの後継者争いに走るものもいない。キーツには辛い三年間だっただろうが」


横でずっと黙って聞いていたアンリが、「キーツには辛い三年間」という父を思う祖父の言葉に反応して


「おじいさま、そのお気持ちを父上には」


と尋ねた。


「いや、特には」


「どうか、父上にお話しください」


と、アンリが懇願する。


リーンが思い出したように提案した。


「そうだ、おじいさま、今度父上と私たちの四人で、母上の墓参をいたしましょう」


母上を今も疑っているというおじいさまには厳しい言葉かもしれない。


けれど、おじいさまの領地に母上の墓はあるのだ。


一瞬サーシの顔に驚きの表情が宿る。


だが静かに


「そうしよう」


と答えた。


アンリが遠慮がちに聞く。


「おじいさま、僕はフルーラ姫にどのように接したらよいでしょう」


アンリは、レキラタの姫が母君から自分を結婚相手に射止めるよう命じられていると聞かされていた。


そして今、レキラタの陰の実力者であるサイザリス家の存在を知った。


それで、自分がどう動くべきなのか迷っているのだろう、とリーンは考えた。


サーシが言う。


「前にも言ったが、現在のレキラタに表立った動きはない」


「兄上はカラチロの姫君と結婚します。私はレキラタやテリクの姫君を娶る必要はないのでしょうか」


アンリの言葉にサーシは目を見開いた。


「キーツのように、レキラタの姫君を好ましいと思い、その姫を求めるのであれば、反対はしない」


と言い切ったあと、今度は


「だが国のことを考えるのならやめておけ。フルーラ姫の後ろにはサイザリス家がある。好きでもないのなら、わざわざルトリケにサイザリスを招き入れる必要はない。また、こちらから無理にフィオラの死の真相を暴く必要もない。今のところは関係も良好だし、四国協定も有効だ。レキラタとは婚姻や武力ではない、相互援助の道を探れ」


と言い聞かせるようにアンリに微笑んだ。


アンリがさらに問う。


「では、テリクの姫君とも距離を置いた方がいいでしょうか」


サーシが苦笑する。


「レキラタとテリクとは事情がだいぶ異なる」


「と言いますと」


「今のテリクはレキラタと近い。テリクの王太子は筆頭公爵家の令嬢と婚約しておるが、その公爵はレキラタとの同盟を主導した男だ。しかもレキラタ側で取り仕切ったのがサイザリスときておる。要するに王太子はレキラタに近いのだ」


「では」


「まあ、聞け。対し、第二王子と王女は王太子とは母親違いだ。しかもエルベルトは王位継承権すら剝奪されて、テリクの政治から外されている。クリスチノがそのあたりをどう考えているがわからんが、レキラタの姫に対するほどは警戒の必要はあるまい。もちろん、アンリが好きでもない相手を選ぶ必要がないことは言うまでもないが」


トゥルーによれば、クリスチノ姫の一番の望みは身持ちのよい男だ。


誠実な男であれば、身分も気にしないという。


もちろん、テリクの王から命じられればそれに従わざるを得ないのだろうが。


サーシの話に頷きながら聞き入るアンリの横顔を見て、どんな相手であれ本当に大切に思う人と結ばれてほしいとリーンは切に願った。


帰り際に、サーシが思い出したように言う。


「そうじゃ、明日はユールとシリルも来る」


ユールとはシエラディト辺境伯、シリルとはハーリード辺境伯のことである。


サーシによれば、三人は若い頃からの知り合いだという。


リーンとアンリは、以前離宮にサーシを訪れた時、二人の辺境伯と話をする機会を作るようにサーシに頼んでいた。


聞かせてほしいと思っていた領地経営の話に加え、明後日の婚約式に依頼したいこともあった。


どうやら、明日、それが叶いそうだ。


一方で、リーンは思った。


セレナの関与やフォールシナ姫について聞きたいこともあるが、それは止そう。


カルドリ帝が「セレナのことはもういい」とおっしゃったのだから。

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