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疑惑_2

事実についての認識は父上とおじいさまの間に齟齬はない。


サーシが続けた。


「とすれば、フィオラの実家がキーツを殺そうとしていたというのがレキラタの公式見解じゃな。これにも異論はないだろう」


リーンは頷いたうえで


「父上は、レキラタの国としての関与を疑っていらっしゃいます。レキラタは何度も調査依頼に応じず、挙げ句、母上の実家のナリエトロ侯爵家を取り潰しました。それでレキラタが裏にいて、ルトリケの乗っ取りを考えていたのではないかとお考えのようです」


とキーツの見解をざっと紹介した。


「それについては、わしも聞いておる」


「ではやはり」


アンリが身を乗り出す。


「早まるな。話を整理しよう。目的はキーツ暗殺、もしくはキーツの身体的もしくは精神的な無力化でまず間違いないじゃろう。二週間、いやもしかしたらずっとその毒を服用させて、殺さないまでも政務を執れないほどに弱らせるのが狙いじゃ」


「でもたとえ政務を執れないほど弱っていても、生きているとなると、さすがに母上の実家がルトリケに乗り込むのは難しいのでは」


「そうじゃ。しかし、リーンもアンリも幼い。おまけにわしも政治には戻らない。となれば、誰が権力を持つことになる?」


「国内の有力貴族ですか?たとえばおじいさまの時代に力を持っていたアルファス公爵とか」


アルファス公爵は、リーンが数週間前にカラチロに訪問した際にも後見人として同行した。


「たわけ、もっと、王に近い人物がおるじゃろうが」


「えっ、あっ、もしかして」


「母上ですか」


リーンとアンリが大きな声を出す。


「そうじゃ。一番王に近いじゃろうが」


リーンは少し黙ったあと、


「そうですね。母上が権力を持てば、母上の実家のナリエトロ侯爵家も入りやすいかもしれません」


と呻くように言った。


「わしは」


とサーシは言ったあと、言い淀む。


口にするのを躊躇っているのだろう。


アンリが促した。


「おじいさま、母上のことでしょう」


サーシは頷きはしたものの


「おまえたちが傷つくから、わしの考えは墓場まで持っていこうかと思っていたんじゃが」


と、なおも口籠る。


リーンとアンリは顔を見合わせた。


自分たちの母親像を崩すことになる、それをおじいさまは危惧しているのだ。


でも、振り返ってみれば、そもそも自分たちに母親像などなかった。


特に美化することもしていない。


それが何によるものかは明らかだ。


もちろん、母がいたと実感し、その存在を知れば知るほど、思慕のようなものは募る。


だが、それは人間ならごくごく当たり前の感情であろう。


その感情は好意的に受け止めるのみだ。


アンリが言う。


「話してください」


視線を下げていたリーンが


「その虞があったから、心配があったから、おじいさまはバルトリスを使って、私たちに魔法をかけたのでしょう?」


とやや上目づかいで確認した。


サーシが虚を突かれたように二人を見る。


そして「そうだ」と息を吐きながらゆっくりと頷き、


「わしは最初から、フィオラを疑っておった」


と自分自身に強いるように言葉を吐かせた。


そして続ける。


「キーツは盲目的にフィオラを愛している。フィオラのことを危惧するわしの言葉など、決して受け付けないだろう。そしてかつてのキーツならお前たちにも自分のフィオラ像を押し付けていただろう。だから、お前たちをキーツとも引き離したのだ」


それは違う。


父上が仰ったのは、母上に似ている自分たちを見ると、母上を思い出す、ということだ。


だから遠ざけたというのだ。


リーンはサーシとキーツのすれ違いを気にかけながらも、サーシの先の言葉の意味を考えた。


母上に対する疑惑。


自分のこととは切り離して客観的に考えれば、リーンには思い当たる節がないでもなかった。


けれども、そう思うことは、フィオラを今も愛し続けるキーツを蔑ろにすることになる。


それで、これまで肯定することができなかったのだ。


アンリも同じ思いなのだろう、複雑な表情をしている。


「おまえたちはキーツからフィオラとのなりそめを聞いたか」


「はい、カール王の即位八十周年記念祭の夜会で、父上が母上に一目惚れし、その場で結婚を申し込んだと聞きました」


「兄上は授かり婚だとも」


「なぜ、夜会に隣国の王族でもない、一侯爵家の娘が来ている」


「うっ、私に聞かれましても」


「僕、カール王の即位記念祭は周辺の多くの高位貴族がルトリケを訪れると、おじいさまから前に聞きました」


リーンも、以前離宮にサーシを訪ねた時に話題になった話を思い出して言う。


「そういえば、おじいさまもカール王即位六十周年記念行事で、シエラディト辺境伯やハーリード辺境伯とお知り合いになられたのでしたね」


「そうじゃ。記念祭には隣国からも高位貴族が来る。それで、フィオラがわざわざレキラタからルトリケの夜会に来た理由はなんじゃろうな」


アンリは、ちょうど今、婚約式とその夜会に出席するためレキラタから訪れている姫のことを思い出した。


「もしかして、結婚相手を探しに来ていたのですか」


「そうじゃ、それ以外にないだろう」


リーンも思い出す。


昨日、トゥルーシナが言っていた。


“フルーラ様は今回の婚約式の後の舞踏会で何としても婚約者を見つけてくるよう、お母君のミリアーラ様から厳命されているそうです”


ミリアーラ様は母上の従妹だ。


「おじいさま、確かに、今、レキラタからいらっしゃっているフルーラ姫もお母君から婚約者を見つけてくるよう厳命されていると聞きました。しかもアンリを」


「もしかしたら、母上も、お母君、僕たちのおばあさまから、結婚相手を見つけてくるように言われていたのでしょうか」


アンリも踏み込んで聞く。

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