疑惑_1
翌日、リーンとアンリの祖父であるサーシが王都入りした。
その夜、婚約式前々日の忙しさの合間を縫って、今、リーンとアンリはサーシとともに特別室にいる。
一週間ほど前に二人は父キーツに会った。
そしてキーツから母フィオラの死に関わる衝撃的な告白を聞いた。
キーツによれば、フィオラの死はそもそも自分の暗殺を意図したもので、レキラタによるルトリケ乗っ取りを目的にしていたというのだ。
しかも、その父の見方については、祖父サーシも同じ認識であるという。
二人はその場ではキーツの語りに吞まれてしまったこともあり、その話を信じてしまった。
しかし帰る道すがら二人で話し合うなかで、やはり俄かには信じることはできないという結論に達した。
それでその日のうちに、サーシに早めの登城を依頼する旨とその理由を記した手紙を送ったのだ。
理由とは、つまり、母の死にまつわる話の真偽を確かめるためなるべく早くサーシと話し合いたいから、という内容である。
キーツに会いに行ったこと。
そこで母の死にまつわる話を聞いたこと。
その真偽をなるべく早くサーシに確認したいという意志。
そのために婚約式までのできるだけ早い機会に時間をとってほしい。
そんなことをしたためた。
その結果、婚約式の二日前の夜になって、ようやくこのような話し合いの時間を持つことが実現したのだ。
「お疲れのところ、本当に申し訳ありません。どうしても、それもなるべく早く、おじいさまにご報告とご確認したいことがあったのです」
リーンが切り出した。
「かまわぬ。いらぬ遠慮はするな。お前たちと会えるということは、それだけでわしの喜びじゃ」
サーシが部屋の椅子にどっかりと座り、寛いでいる。
そもそもこの特別室はサーシが王だった時代に、自身で設えたものだ。
この部屋に入るのは久しぶりだということに加え、やはりそこここに愛着があるのだろう。
とにかく上機嫌である。
サーシが来るのに備えて、前々回や前回とはイスとテーブルの配置を変えておいたのが奏功したようだ。
リーンもアンリもよかったというように顔を合わせた。
そしてその機嫌のよさを逃さぬように、すぐにリーンが言う。
「手紙でもお知らせしたとおり、先週、私たちは父上にお会いしました。そして、母上についてのお話を伺いました。その、、おじいさまのお許しを得ずに勝手なことをしてしまい、ごめんなさい」
リーンのそばでアンリもすまなさそうな表情をした。
リーとアンリは、自分たちにかけられた「暗示」がサーシの指示によるものだというキーツの言葉を気にしている。
「暗示」とは自分たちの母が不在であることへの疑問はもちろん、母がどのような存在であったかについての関心すら抱かないようにと魔術師のバルトリスが二人にかけた魔法である。
そんな魔法をかけさせるなんて。
やはりおじいさまは、私たちに母上のことを知ってほしくはなかったのだ。
なのに、勝手に聞いてきたりして。
きっとお怒りなのに違いない。
そんな気持ちがリーンの遠慮がちな言葉に滲む。
「かまわぬ。ほかならぬかわいいお前たちが知りたいと思ったことじゃ。続けよ」
予想外の言葉に、リーンは「ありがとうございます」と礼を言いながら、サーシとさりげなく目を合わせた。
サーシの目に厳しさはない。
リーンは少しだけ気を緩めて
「率直に伺います。おじいさまは母上が亡くなったいきさつをどうお考えになりますか」
と尋ねながら、持参した紙を取り出して、テーブルの上に広げた。
サーシが身を乗り出したので、アンリがサーシに見やすいようにメモを180度回転させた。
メモには箇条書きで
1.母上フィオラは茶を飲んで死んだ。
2.茶は父上キーツに出されたものだった。
3.父上は2週間ほど、その茶を飲んでいた。
4.茶を出したのは母上の侍女である。
5.侍女は母上の実家から連れてきた、
6.父上が何度か母上の死についての調査をレキラタに申し入れたが、すべて受け流されたこと。
7.半年後突然フィオラの実家が取り潰しになったとレキラタから連絡があったこと。
とキーツから聞いた事実だと思われることのみを記していた。
キーツの見解についてはあえて書いていない。
サーシの意見をまず聞きたかったのだ。
サーシはメモを見ながら少し考えるような素振りをする。
やがて、メモを90度反時計回りに回転させてテーブルの中央に置いた。
これで、サーシの側からもリーンとアンリの側からも見えるようになった。
「これは、わしがキーツから聞いたことと全く同じじゃな。相違はない。5.6.7については、実際にこの目で見てもいる」
事実と相違ない、と言うキーツの返事を確認して、
「この、事実とされることからおじいさまがお考えになったことをお教えください」
とアンリが求めた。
「箇条書きの中身は要するに、実家から連れてきた侍女がいつもキーツに出していた茶をフィオラが飲んだところ死んだ。レキラタに調査を求めたが、かなわず、フィオラの実家が取り潰しになったということじゃな」
リーンとアンリは頷く。
箇条書きの紙を短くまとめただけだ。
その通りだろう。
異論の入り込む余地はなかった。




