6話
朝は着替えて降りて行くと、食事を済ませた孝哉が弁当を鞄に入れる
と雪弥の分をもって渡してくる。
「これ、ゆきのだよ!」
「あぁ。」
「ちゃんと朝食べないとダメだよ?」
「別にいいだろ?ほらっ、行くぞ」
一緒に家を出ると学校に向かう。
電車はいつも混んではいるが、孝哉と同じ時間に出れれば、まだマシ
だった。
この後二本くらい遅れようものなら満員で押し潰されるハメになって
いた。
まだ早い時間なので自分の席でのんびり過ごすと孝哉は図書室へと向
かう。
借りていた本を返すのだろう。
流石に興味がない雪弥は机に突っ伏して人が来るのを待った。
昨日遅かったせいでまだ眠い。
親のお説教もあってかぐっすり眠れなかったのだった。
ざわざわと騒がしくなってきた教室でやっと起きると前の席には市川
慎也が来ていて、横の席の女子と話していた。
「お!起きたか?」
「あぁ、何をしているんだ?」
「今日、学校帰りに新しくできたクレープ屋に行こうかって話してた
んだよ」
「あ〜駅前のか?」
「知ってるのか?」
「いや…通りかかった時に行列が出来てたから…」
「だよな〜、あそこすごいもんな〜」
佐伯涼が来るとその話題に乗ってきた。
「それならいい方法があるぞ?」
「ん?なんだよ、いい方法って…」
「とっておきの方法だ。並ばなくて買えるとっておきだよ!」
もったいぶって話すが、教えてはくれなかった。
「奢ってくれるなら見せてやるよ!」
慎也に言いよる涼に慎也の方が根負けした。
「分かった!絶対に待たせるなよ!」
慎也が言うと、雪弥もそれに乗った。
「なら俺のもよろしくな!」
「えーいいな〜私も行っていい?」
聞いていた女子もそれに乗っかる。
そんな時、教室が騒がしくなった。
「おい、あれって…。」
「竹中君?あれ…でも、雪弥君はこっちにいるし…」
「弟君じゃない?えーーーイケメンじゃん。」
いつもと違う雰囲気に周りがわきだった。
昨日髪を切った孝哉を見て雪弥が思った感情を、クラス中が思ったの
だろう。
「おー竹中!髪切ったのか?弟くんって顔隠さなきゃ可愛いじゃん!」
「…!」
いきなり話しかけられるとビクッとして自分の席に座るとすぐに俯い
てしまう。
これだけは変わっていないらしい。
内向的な性格の孝哉にはいきなり話しかけられて答えるだけのスキル
はない。
雪弥は大きく息を吐くと、声を荒げた。
「なに?俺の弟に話でもあるの?」
「いや…なんか雰囲気変わったなって」
「そんなくだらない事で時間取らせるなよ?怖がってんだろ?聞きた
い事があるなら俺に聞けよ!」
「あぁ…なんでもねーよ」
クラスの視線は一斉に雪弥に集まったのだった。
クラスの女子の中にはヒソヒソと話す者もいるし、今までノーマーク
だった孝哉に興味を持つ者もいるだろう。
そんな現状に苛立ちを感じた。
「なんだ?弟にみんなの興味を取られて気に入らないのか?」
「別にそんなんじゃ…」
「大丈夫だって!雪弥はイケメンだし、かっこいいぜ!」
「そうだぞ、自信過剰なのが取り柄だろ?」
「おい!…それ褒めてねーぞ?」
担任の角田寿史が入ってくると教室中が鎮まり帰った。
「おーい、席につけよ〜。鐘鳴ったの聞こえなかったのか〜」
出席を取って、連絡事項を述べるとそのまま授業へと入る。
「今日は小テストをやると言ってた通り、実施する!30点以下の者は
居残り決定。と、サービスで宿題もつけるぞ!」
「えーーー!!」
「先生〜それ酷い〜」
各場所から声が飛び交う。
「いつもの授業をちゃんと聞いてれば答えられるだけの簡単なもんだぞ?
お前らまだ2年だと思って油断してないか?3年になれば受験生なんだぞ
?今からしっかり勉強しなくてどーするんだ〜?」
小テストと言っていたが、ちゃんとした試験のような作りだった。
始め!という合図で始まり20分くらいしたら回収されたのだった。