3話
有野の家を出る時にはすっかり日も暮れて辺りも薄暗くなっていた。
目の前の視界がすっきりして、見やすい。
「やっぱりすげー似合うって!孝哉くん顔いいんだし隠すのもったいない
よな!」
「そうね〜、こんなイケメンに産まれたんだから隠さず堂々と見せてやれば
いいのよ!悠も悪くはないつもりだけど…やっぱりね〜」
「それが息子にいう言葉かよ〜」
「あ〜ごめん、ごめん。」
「あの…あ、ありがとうございます」
孝哉はすっきりした顔でにっこりと笑った。
兄の雪弥とそっくりな容姿を持っているだけあって、これは女子に向けられたら
絶対に落ちるだろ!
と思えるほどの破壊力だった。
いつも前髪を下ろして隠していたから眼中にないって感じだったが、これからは
そうはいかないだろう。
「俺ら、友達だろ?いいって事よ!」
「うん、でも…変じゃない?」
「ないない、すげ〜いいよ!」
嬉しそうに俯くのを見ると背を思いっきり叩いてやった。
「もっと顔上げろって!しっかり前見て下向くなって!自分に自信持てよ!」
「そうよ!可愛いんだから下向いてちゃ勿体無いわ!胸を張って歩いて見なさい」
有野の母親に言われた通り、少し深呼吸をすると背を伸ばす。
いつも見ている景色が少し変わった気がした。
薄暗い公園を抜けようと歩いて行くと、駐車場で男女が口論をしていた。
何かもめているようだった。
気づかれずに通り過ぎようとすると、女子の制服に見覚えがあった。
同じ高校の物のようだった。
木の影に隠れると少し様子を伺い、雲行きが悪くなって行く。
「ちょっと話が違うじゃない!離してよ!」
「それはそっちの話だろ?由紀ちゃんの代わりで来たって言ったのは君だろ?なら、
役割りくらいちゃんとこなして貰わないと困るんだよ!こっちは金だって払ってる
んだからさぁ〜」
「そんなの聞いて無いわよ!それにバイトの先輩ってだけで…いやぁっ、離してよ!」
「ほらっ、まずは車に乗れよ!」
「嫌よ!誰かぁー助けて!」
「煩い、黙れって!このっ…!」
その女子に男性が殴りかかろうとしたのを後ろからこっそり近づいた孝哉は咄嗟に鞄
を振り回すとその男の後頭部にヒットさせた。
ガツンッ…
予想外の場所から殴られたせいか、頭を抱えながら蹲ったのを見ると、その場に動け
ずにいる彼女の手を引くと走り出した。
「ほらっ、逃げるよ!走って!」
「う、うん」
見ず知らずの彼女を連れ出すと人通りの多い場所まで走ってきた。
彼女より先に息が切れて座り込んだ。
「ここまで来れば大丈夫だよ。」
「あ、ありがとう。君、同じ高校の?」
「うん、僕は…」
話そうとして目の前の時計を見て慌てて家に帰らなきゃいけない事に気づいた。
「ご、ごめん。早く帰らなきゃ!気をつけて帰ってね!」
それだけ言うと孝哉は走りだしていた。
彼女の声が後ろから聴こててきたが、今はそれどころではなかった。