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武器ショップにて店長のとっておきだという言葉を信じて、ある近接武器を購入した俺はドックにてフィーネの調整を行っていた。
「店長のとっておきねえ」と声に出しながらパイルバンカーを見つめて購入時の会話を思い出していた。
「いくら何でもこれはねえだろう」
「振り回して当てれねえなら突撃するしかねえだろう」
同じ速さまたはより早い相手にぶつかりにいきワンチャン狙う至極当然の帰結である。
その答えにまたもぐうの音も出ない俺は、無言で必要物資を購入しドックに帰ってきたのである。
一応汎用性機体としているフィーネだが、自分の腕前を考えると近接範囲に入られてしまった時点で負けであるため近接武器は申し訳程度の高周波ナイフのみとなっている。
こればかりは、プレイヤーの操縦センスによるものなのでいかんともしたいものであると考えながら、フィーネの右腕部にパイルバンカーを取り付ける。
「げぇバランスがかなり寄っちまったなぁ」
重量バランスを取るためににどうするかと考えながら所持武器の一覧をスクロールしながら眺める。「目撃場所は荒野しかも砂塵が吹き荒れているかぁ」と一つの物が目に留まる。
「これならいけるかなぁ?」
荒野にソレはいた。
ずいぶんと獲物が多く寄ってきたが、どれもこれも何を満たすことがないまま衝動だけがその身を焦がす。
ソレは待ち望む自らを傷つけられる存在を、この衝動を満たすことができるものが現れることを荒野にて待ち望むソレは再び現れた獲物を狩り始めた。
俺はフィーネを操縦しながら、再びスレッドに目を通していたあれから時間がたったためか多くの目撃情報がスレッド内に寄せられていた。
そのどれもがユニークに対する不満をぶちまけるものだったのが、多くのプレイヤーが敗れていたことを物語っていた。
その硬さと回避不可能な鳴き声から、運営はプレイヤーを勝たせるつもりがないのではないかという声まで上がっていた。
「ここまで来るとちょっとした炎上だな」
運営に対しメールを送ったなんてやつもいたしと、スレッドの内容に目を通しながら移動していると目標ポイントの近くにたどり着く。
「このあたりだな」
砂塵が常に舞うこの荒野では、レーダーの類の感知能力が著しく下がってしまうため目視または音での確認が重要になってくる。
周囲の確認を行っていた時である、ダダダダダダッと近くから銃弾を飛ばす音が聞こえてきた。
タイミングが良いと思いながら音のする方向に近づいてみる。
そこにいたものは、正しく狼であった。
いや、正確に言えば狼に近い何かだった。
狼が吼えるたびに機体が吹き飛ばされ、全損した機体がその場から消えていく。
その爪が牙が尾が振るわれるたびに機体が消えていく、鉄の玉の雨をものともせずに暴れる狼は暴嵐のようだった。
心臓がうるさいバクバクとなっているように聞こえる。
これがVARの悪いところだ、仮想空間のはずがまるで現実のようではないか、これは現実ではないのだから恐怖する必要なんかあるまいと考えたところで、俺は自分が仮想で恐怖を覚え脅えていることを自覚した。
あれは、暴嵐だ理不尽に出会ったものすべてを破壊しつくすまで止まることのないもなのだと思った。周りの機体を全て呑み尽したソレと目が合った気がした。
お前は来ないのかと、問われているような気がした。
多くの苦情メールやあらゆるツールにより苦情が届いていると聞いた時、それはそうだろうとスタッフの多くが思った。
だが、開発者のトップである金堂氏はそれで良いのだと言った。
今までのMWM世界では強敵と呼ばれるMOBは居てもランカーの腕によって簡単にクリアされてしまっていた。
それは、この世界における宣戦布告なのではないかと金堂氏は言った。
もはや、MWM世界は運営とプレイヤー同士の戦争を行う場所なのだといった。
その結果、生まれ落ちたのが7体のユニークMOBであるその存在が認知され、ランカーが戦いを仕掛け敗戦を重ねていることは予め知っていた。
なぜならば、ユニークMOBに使われているAIは今までのMWM世界のプレイヤーの動きを反映させたものであるからだ。
金堂は笑うユニークMOBは強いぞ、下せるものならば下してみろと。
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