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第63話 彼の言葉

「どうぞ中へお入り下さい」


私は早速デリクさんを招き入れた。


「はい、それでは失礼します」


デリクさんは丁寧に頭を下げると店の中へと入って来た。


「この椅子に掛けて下さい」


カウンターの奥からクッション付きの籐製も丸椅子をデリクさんの元へ運び、勧めた。


「ありがとうございます」


腰掛けたデリクさんは早速カウンターの上に置かれた縫いかけのパッチワークに目を留めた。


「これは一体何ですか?」


「はい、これは『パッチワーク』と言って、様々な柄や素材、そして大小大きさの違う端切合れをつなぎ合せて、1枚の大きな布にする技法なんです。こうやってつなげれば小さくて使い物にならないような布も活用できますよね?」


「パッチワーク…。うん、素敵な響きですね」


笑みを浮かべて頷くデリクさん。パッチワークという言葉には反応しなかった。やはり彼は転生者では無いのだろうか…?


気を取り直して私は言った。


「実は、今日は新作を用意したのです。これを誰かに見せるのはデリクさんが初めてですよ」


私は持ってきたエコバッグから最新作を取り出した。

グリーン系の落ち着いた色合いで作ったはB5サイズほどのポーチで、内側と外側に様々なサイズのポケットがついている布雑貨だ。デリクさんの前に置くと説明した。


「これは『バックインバック』といってカバンの中に入れて使う布雑貨なんです。大小様々な大きさのポケットがついているのでカバンの中身がごちゃごちゃせずに使うことが出来るんですよ」


「『バックインバッグ』ですか…。すごいですね、こんなに沢山ポケットがついているなんて…作るのにさぞ苦労したのではないですか?」


デリクさんは手に取ると、あちこちの角度から眺めながら言った。


「ええ、そうなんです。時間はかかりましたね。なのであまり一度に沢山作ることが出来ないのですけど」


「そうですか…。でも素晴らしいですね…。とても便利な道具ですよ。きっと売れ筋商品になるのでないですか?」


「…」


私はデリクさんの言葉を黙って聞いていた。まただ。またデリクさんはこの世界では使われたことも無い言葉を使った。私はこの世界でただの一度も『売れ筋商品』と言う言葉は聞いたことが無い。


やっぱりデリクさんは…前世は私と同じ日本人だったのではないだろうか…?


「アンジェラさん?どうかしましたか?」


私が黙ってしまったからなのか、不思議そうな顔でデリクさんが私を見つめてきた。


「い、いえ。何でもありません。それで、こちらの商品は…」


私は他にも幾つか新作をカウンターの上に並べてデリクさんに説明した。

デリクさんはその度に真剣に頷いて話を聞いてくれて、私にとってはとても楽しい時間だった―。



****


ボーン

ボーン

ボーン


デリクさんと話をしていると、お昼を告げる12時の鐘がなった。


「あ、もうこんな時間だ。どうもすみません。貴重な時間を作って頂いて。それでは私はこれで失礼しますね」


椅子からデリクさんが立ち上がった。


「あ、あの!」


私はすかさず、呼び止めた。


「はい、何でしょう?」


「あ、あの…も、もしよければこちらでお昼を食べていかれませんか?お時間があればですけど…」


「それは嬉しいお誘いですが…でも宜しいのですか?ご迷惑では…」


「いいえ、迷惑なんてとんでもありません。実は、もう2人分のお弁当を用意してあるんです」


「お弁当ですか?それは楽しみですね」


デリクさんは笑顔になると、再び椅子に腰掛けた。


「それでは一緒に頂きましょう」


持ってきたリュックからお弁当の入ったバスケットを取り出し、蓋を開けた―。



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