第49話 誰に向かってそんな口を聞いている?
パメラは私の激昂する姿を初めて目の当たりにして気が削がれたのか、一瞬怯んだ姿を見せた。
「な、何よ…。そ、そんなに興奮しちゃって…。だけど、その様子だと私が言ったことは本当なのね?図星を指されたから誤魔化すために大声を出したんでしょう。そうよ、そうに決まってるわよ!」
パメラはまたしても人の神経を逆撫でする事を言ってくる。
「お前…っ!」
兄が口を開く前に私は再びパメラを怒鳴りつけた。
「黙りなさいっ!パメラッ!誰に向かってそんな口を聞いているのっ?!貴女はまだ自分の立場を理解していないようねっ!私が今までおとなしくしていたからといっていい気にならないで頂戴っ!仮にも私は子爵家の人間なのよ?!平民の貴女が楯突いていい相手では無いと言う事が愚かな貴女にはまだ理解出来ていないようねっ?!」
…私の前世は日本人。本当は権力を笠に着たくは無かった。何故ならこの地位は私が元々貴族の娘として生まれて得たものであって、自分の力でなし得た物では無かったからだ。けれど、伯爵家のニコラスの許嫁にされてしまったということで、私は散々嫌がらせを受けてきた。それでも我慢していたのは私が騒いで双方の家を巻き込みたくは無かったからだ。
それに所詮前世の私から見れば、あの程度の嫌がらせは目を瞑っていられる範疇だった。けれども今回、パメラはやってはいけないことをしてくれたのだ。私の夢だった手作り雑貨のお店に並べる試作品を自分よりも格下の弱い相手に盗ませ、その罪を被せて逃れようとしたのだから。
「な、何よ…子爵令嬢だからって…威張ったりして…それを言うなら…あ、貴女だって自分の立場を理解していないようじゃないのよ」
愚かなパメラはそれでもまだ生意気な口を叩いてきた。
「ええ、そうよ。確かアンジェラさん…だったかしら?うちの娘は確かに今はまだ平民かもしれないけれど、パメラとニコラスは恋人同士なのよ?それを分かって言ってるの?」
すると今度は愚かな母親までもが出張ってきた。そんな母親にも一言物申してやろうかと思った時…。
「ほう…。お嬢さんがニコラス様と恋人同士だとどうなるのですか?是非ご意見をお聞かせ願えませんかね?」
何と今度は父が全面に出てきたのだ。
「お父様…!」
すると父は私に素早く目配せした。まるでこの場は自分に任せろと言っているようだった。
「お父様?まさか…!」
「え…?アンジェラさんの…?」
そこで母娘は初めて父の正体に気付いたようだ。
すると次に今度は何故か兄までもが前に一歩進み出てきた。
「こちらにいらっしゃる方が農園組合の経営管理をコンラート伯爵家から直々に依頼を受けているベルモンド子爵でアンジェラの父だ。そして私はダンテ・ベルモンド。アンジェラの兄だ」
「な、何ですって…?!」
「ニコラスのお父さんからの…依頼…?!」
2人の顔が青ざめたのは言うまでも無かった―。