第36話 ご用件は?
困った…この姿のままでニコラスの前に出れば何を言われるか分からない…。
「どうした?ニコラス様に会ってくるのかい?それとも断るかい?」
父が尋ねてきた。
「ええ、そうですね。ニコラス様に会って来るのは別に構わないのですが、こんな姿で現れたらどんな文句を言われるかと思うと困ってしまって…」
「何故困らなければならないんだ?別にアンジェラはあの馬鹿に罵声を浴びせられれば婚約破棄を申し出ればいいだけの事だろう?むしろ婚約破棄されて困るのはあの馬鹿の方だ。いいか?これは僕の裏情報から入手した話なのだが、仮にアンジェラに捨てられた場合、あの馬鹿は親から廃嫡処分を受けるらしい」
上品な顔立ちの割に『馬鹿』を連呼する兄にも驚きだが、ニコラスが廃嫡処分を受けるかもしれない話の方が驚きだ。
「え?!そうなのですかっ?!そんな話が出ているのですか?!」
「ああ、その噂話なら私も聞いているよ。どうやらニコラス様はアンジェラに捨てられたら親にも捨てられてしまうらしい。遠縁から養子を貰う話が具体的に出ているそうだよ」
「ええっ?!お父様!そんな重大な話、初耳ですよ?!」
「あ…そう言えばそうだったね。でも…まあ、これはあくまで噂話でしかないからね。気になるならアンジェラからニコラス様に直接聞いてみるといい」
成程…確かに本人から直接話を聞いた方が良いかもしれない。
「そうですか、なら決めました。この格好のまま会ってきます」
「まぁ…本当にその地味な服でニコラス様に会ってくるの?」
母が心配そうな顔で見る。
「はい、会ってきます」
むしろ、この格好で会いに行ってニコラスに罵声を浴びせられれば、しめたもの。堂々と婚約破棄を告げる事が出来る。
「何だって?アンジェラ。あの馬鹿に会ってくるのかい?!」
兄が目を見開く。
「はい、一応まだニコラス様は婚約者ですし、昨日も訪ねて来られたのですから何か重要な話があるかもしれません」
「そうかしら…?ニコラス様は何も考えていないような人に見えるから重要な話があると到底私には思えないけれど…」
「うん…私も母さんの言う通りだと思うが…まぁお待たせしてまた屋敷で暴れられるのも迷惑だし…では行っておいで」
なかなかの毒舌を吐く家族。今の話をニコラスに聞かせられないのが残念だ。
「はい、お父様。では行って参ります」
そして私はこの格好のまま、フットマンに連れられてニコラスの元へと向かった。
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「お待たせ致しました、ニコラス様」
ニコラスが待たされている部屋に入った途端、ニコラスは乱暴に席を立った。
「おそっ!…い…じゃなく…い、意外と早く来たじゃないか。アンジェラ」
ニコラスは作り笑いをして私を見た。
「はい、急いで参りました。それで本日はどのようなご用件でいらしたのでしょうか?」
「ああ、実は…今日来たのは…ところで何だ?お前が着ているそのみすぼらしい服は。ひょっとするとそんな服しかもっていないのか?」
ニコラスは眉をしかめながら私を見た。
「いいえ、そう言う訳ではありませんが…それよりも本日いらした御用件を伺いたいのですが」
するとニコラスは腕組みしながら言った。
「ああ。喜べ、アンジェラ。この俺がお前をデートに誘いに来てやったぞ」
え…?
私はその言葉に耳を疑った―。