第35話 似合うでしょう?
翌朝―
太陽の光と小鳥のさえずりで、ぱちりと目が覚めた。
「う~ん…」
ベッドから身体を起こすと思い切り伸びをした。
「外はいい天気みたいね…まさに絶好の突撃日和だわ」
そしてベッドから起き上がると早速朝の支度を始めた―。
コンコン
部屋の扉がノックされ、ミルバの声が聞こえて来た。
「アンジェラお嬢様、起きてらっしゃいますか?」
「ええ。起きてるわ。入っていいわよ」
「失礼致します」
扉が開いて、ミルバが姿を現した。
「おはようございます。アンジェラ様」
「ええ、おはよう。ミルバ」
「アンジェラ様。本日は土曜日なのに随分とお早いお目覚めですね?」
洗顔用のタオルと新しいベッドカバーを持って現れたミルバが尋ねて来た。
「ええ。だって今日は朝からパメラの鼻をへし折ることが出来る記念するべき最初の第一歩を踏み出す日なのよ。おちおち眠ってなんかいられないわよ」
何と言ってもパメラに今までの借りを少し?お返し出来る日なのだから楽しみで仕方ない。
その為、昨夜はこれから起こる出来事に興奮するあまり、良く眠れなかった。
にも関わらず、今の私は活力に満ちている。
「それは確かにおめでたい日ですね。うまくいくようにお祈り申し上げます」
「ええ。祈っていて頂戴。必ずうまくいくわ。だってお父様もお兄様も一緒なんですから」
そして私は本日着る服をクローゼットから取り出すと、ミルバが眉を潜めた。
「アンジェラ様…まさか、本日の御召し物はそれを着るのですか…?」
「ええ、そうよ。最高でしょ?」
私はウィンクしてミルバを見た―。
****
ダイニングルームでの一家団欒の朝食の席―
「うん。今日の朝食は卵の焼き加減が絶妙だな」
父がスクランブルエッグを口にしながら満足げに頷く。
「このマフィンも蜂蜜の甘さが丁度良い味だ」
お兄様はマフィンを美味しそうに口にしている。
「この搾りたてのオレンジジュースも甘くて美味しいですよ」
私はオレンジジュースを飲んで感想を述べた。
すると…。
「あなたがた…一体今朝はどういうつもりなのですか?そのような身なりで食事をするなんて…」
母が眉をしかめながら私たちを見渡す。
「変か?」
「何か問題でもありますか」
「おかしいでしょうか?」
父、兄、私の3人が同時に母に尋ねた。
「おかしいと言うか…何故、そのような服を着ているのか尋ねているのです」
「「「服…」」」
私、父、兄は同時に自分の着ている服を見た。私の着ている服は木綿の白いブラウスにくるぶし丈の若草色のエプロンスカート、兄は白シャツに茶色のサスペンダー付きのズボン姿、そして父は白シャツに麻布のグレーのベストにズボン姿だった。
「そんな…まるで農作業にでも出るかのような服を着て食事をされると違和感しか感じられませんわ」
母の言葉に父が笑いながら言う。
「まぁ、たまにはこういう服装もいいだろう?どうだ?平民に見えるだろう?」
「ええ、どこからどう見ても平民に見えますね」
兄は父の姿をじっと見る。
「そう言うお兄様も平民にしか見えませんわ」
「あなたもよ。アンジェラ」
母が最後に付け足す。
「母さん、これはウッド家を油断させる為の作戦なんだよ。噂によるとそこの主はかなり傲慢な人間で、自分達より下の立場の者を見下しているらしい。逆に相手が貴族になると媚びへつらう。相手の本性を暴くには貴族の姿ではまずいんだよ」
父が母に説明する。実は昨夜父から伝言を受け取り、なるべく平民に見える服を着ていくように言われていたのだ。
「まぁ…そう言う事なら仕方ありませんけどね…」
母は渋々返事をした。
その時―。
「お食事中失礼致します」
フットマンが現れ、私を見ると言った。
「アンジェラ様。ニコラス様がいらっしゃいましたが…いかが致しましょう?」
…悪いタイミングでニコラスがやってきた―。