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第32話 父への報告

 父の執務室は2階の中央の部屋にある。そこへ向かう途中、何人もの使用人達にすれ違った。


「お帰りなさいませ、アンジェラ様」

「今日は遅いお帰りでしたね?」

「また新しい作品出来たら見せて下さい」

「今夜はアンジェラ様の好きなメニューですよ」


等々…。


そして私も声を掛けてくれた使用人達全員に挨拶を返す。その関係が心地よかった。


 ベルモンド家の使用人の人達はまるで大家族の様な関係だ。他の貴族たちは使用人と自分達との間にしっかりとした境界線を引いているのかも知れないが、我が家は違う。少なくともベルモンド家では貴族と使用人という関係よりは雇い主と雇用者の様な関係と言えるかもしれない。なので使用人達も皆気さくに語りかけて来る。彼らにとって、とても働きやすい環境だと言える。その証拠にベルモンド家は使用人達の離職率がとても低く「理想の職場」と言われていた。


そして厳しい上下関係を強かない父の事が私は大好きだった。



****



 父の執務室の前に辿り着くと、私は呼吸を整えて、部屋の扉をノックした。


コンコン


「はい、誰だね」


「アンジェラです。お父様。」


「ああ。お入り」


「失礼します」


カチャリと扉を開けて室内に入ると父は大きな書斎机に向かって仕事をしていたが、私が入室すると顔を上げて笑みを浮かべた。


「お帰り、アンジェラ」


「ただいま、お父様」


「珍しいこともあるもんだな。学校から帰宅後、私の所へ来るとは。取りあえず、そこに座りなさい」


父が執務室に置かれたソファの方に目を向ける。


「はい」


言われたまま、座ると父が尋ねて来た。


「何か私に相談事があって来たのだろう?」


「さすがはお父様。良くお分かりになりましたね?」


「それは当然分るさ。何しろアンジェラは帰宅後はすぐに自分の部屋に籠って食事の時間になるまで姿を見せないからな」


「そ、それは申し訳ございません。これからはなるべく家族の団欒にも参加します…」


顔を赤らめながら言うと、父は笑った。


「いや、今のは本の冗談だから気にする事は無いよ。それで?どんな相談があるのだね?」


「はい。実はニコラスの恋人の件についてです」


「あぁ…確か名前はパメロ…だったかな?」


「パメラ・カストロフ・ウッドです。お父様」


「ああ、パメラだったか。それで?彼女がどうしたのだ?」


「実は本日学校でパメラに呼び出された隙に、彼女の取り巻きに私の作った試作品を盗まれてしまいました。昼休みに私の作った物を学食で他の女子生徒達に見せびらかしているのを発見し、盗んだ犯人はパメラだと発覚しました。問い詰めたところ結局は返してもらいましたが」


「何?確かニコラス様の恋人は幼馴染で…平民の少女ではなかっただろうか?」


父の眉が少し動いた。


「はい、そうです。お父様には黙っておりましたが、私は今までニコラス様とパメラに言いがかりばかり付けられて学校内で嫌がらせを受けておりました。理由は私がニコラス様の許婚だったからです。けれどもお父様にわざわざ報告する程の物ではありませんでしたので今まで黙ってました」


「成程…けれどまさかニコラス様が幼馴染と2人でお前にそのような事をしていたとは…この事はコンラート伯爵は御存じ…ないだろうな。恐らく」


そして父は溜息をついた。


「ですが今回ばかりは流石に目に余りました。何しろあの試作品はもうすぐ開店する私の店で販売予定の品だったのです。それを盗まれてしまったのですから。盗むように命じたのはパメラで取り巻きの1人が盗みました。彼女の父はパメラの父親が経営するに農園で働いており、言う事を聞かなければ父親をクビにすると脅迫していました。そこで嫌々私の作品を盗んだそうです。実行犯は彼女の取り巻きですが、主犯格はパメラです。結局パメラはシビルと言う名の取り巻きに罪を被せました。そこで私は仕方なしにシビルを連れて職員室へ行き…彼女は1週間の停学処分を受けました」


「成程…それで私の所に報告に来たのか?」


「はい、そうです。そこでお父様にお願いがあります」


「私に…どうして欲しいのだね?」


父は口元に不敵な笑みを浮かべて尋ねて来た―。



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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば婚約者じゃなくて許嫁なんて珍しいなと思ったら 一方的に男性側が女性と結婚する契約してしまうのが許嫁だから 上位貴族の男性側から婚約しろと迫られて下位貴族の令嬢側は 断れなかったパタ…
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