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第31話 何しに来たの?

 停車場に着くと、既にジムさんが迎えに来ていた。


「ジムさん!遅れてごめんなさい!」


馬車に駆け寄るとジムさんが驚いた顔を見せた。


「何を仰っているのですか?アンジェラ様は時間通りにいらっしゃいましたし、御者の私に気を遣う事はありませんよ」


「だけど…」


前世での日本人の記憶がある私にはどうにも『人を待たせる』と言う事は受け入れがたかった。


「さ、お乗り下さい。『トワール』の店へ行かれるのでしょう?」


「ええ、そうね」


そして私が馬車に乗り込むと、ジムさんは手綱を握りしめ、馬車を走らせた―。



****


ガラガラガラガラ…



 まるで中世の美しい街並みを走ってるかのような景色を窓の外から私は眺めていた。私は自分の住むこの『ブーゲン』の町が大好きだ。綺麗に並べられた石畳、まるで絵本の世界に入り込んでしまったかのような景色は私の創作意欲をかきたてる。


「フフフ…次はどんな作品を作ろうかしら…」


私は馬車の中で微笑んだ―。



「アンジェラ様。到着致しました」


ジムさんが馬車の扉を開けてくれた。


「ありがとう」


馬車から降りると私の行きつけの店『トワール』が眼前にあった。


「それじゃ、買い物をしてくるから…」


遠慮がちに言うとジムさんは笑顔で頷いてくれた。


「ええ、大丈夫ですよ。1時間だろうと2時間だろうとお待ちしておりますので」


「そ、そんな1時間も2時間も買い物しないわよ。出来るだけ早く終わらせるから待っていて」


それだけ伝えると私は扉を開けて『トワール』の店へと入って行った―。




カランカラン


ドアベルが鳴り、若くして店主になったイヴォンヌさんが出て来た。


「いらっしゃいませ…まぁ、アンジェラ様。いつも御贔屓にありがとうございます」


「こんにちは、イヴォンヌさん。また来てしまったわ」


「何を仰るのですか。アンジェラ様は大得意さまでいらっしゃいますから。それで?今回は何をお買い上げですか?」


「ええ、刺繍糸と麻布が欲しいんです」


「なら、こちらはどうですか?」


イヴォンヌさんのお得意の接客が始まる。


こうして私の買い物が開始された―。



****



40分後―


「ありがとうございましたー」


イヴォンヌさんに見送られ、私は両手一杯の荷物を抱えて店の外へと出て来た。


「アンジェラ様!凄い荷物の量ですね?お持ちしますよ」


ジムさんが御者台から降りてくると荷物を持ってくれた。


「ありがとう」


「いいえ、とんでもありません。それにしても今回も凄い買い物の量ですね」


ジムさんは馬車に荷物を入れながら話しかけて来た。


「ええ。イヴォンヌさんは商売上手だから、ついあれこれ勧められて買ってしまうのよね。商売上手なのね。私も見習わないと」


馬車に乗り込みながら私は言った。


「大丈夫ですって。アンジェラ様の手作りの品はどれも素晴らしいですから、絶対うまくいきますよ」


馬車の扉を閉めながらジムさんが言う。


「ありがとう。それじゃ行きましょうか?」


「はい」


ジムさんは御者台に乗り込むとすぐに馬車を走らせた―。




****



 帰宅したのは17時を過ぎていた。



「ただいま戻りました」


たまたまリビングルームで読書をしていた母に帰宅の挨拶をした。


「お帰りなさい。アンジェラ」


母は読みかけの本を閉じると顔を上げた。


「遅かったのね。今日も『トワール』に行っていたの?」


「はい、そうです」


「そうなのね…実はまたしても先程までニコラス様がいらしていたのよ」


母がため息つきながら言う。


「えっ?!ニコラス様がっ?!」


昨日の今日で一体何の用があるのだろう?でも帰ってくれて良かった。もうすぐ私の店がオープン間近だと言うのに、愚かな婚約者に付き合う程私は暇人では無いのだ。


「全く…一体何の用事で来たのだか…お相手をする気にもなれなかったからこの部屋に放置しておいたわ。随分ふてくされていたようだけど文句ひとつ言わず待っていたようだけど…。結局待ちきれなくて帰って行ったけどね」


昨夜の一件から、母も随分ニコラスに対する態度が適当な扱いになって来た。


「ええ、放っておいていいんですよ。ところでお父様はいらしてますか?」


「ええ、執務室にいるわよ。何か用事でもあるの?」


「はい、大事な相談事があるのです。では少し行ってきますね」


「ええ」


こうして私はリビングを出ると父のいる執務室へと向かった―。

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