第30話 悪女と叫ぶ女
放課後―
私は帰り支度を急いでいた。15時半に迎えに来てくれるジムさんを待たせてはいけない。パメラにシビルが停学処分を受けたことだけ告げてすぐに停車場へ行かなければ。
その時、クラスメイトの女子生徒が声を掛けて来た。
「アンジェラさん、貴女に会いに他のクラスの女子が来ているわよ」
「え?」
出入り口を見るとそこには仁王立ちになり、何故か私を睨みつける様に立っているパメラの姿が目に入った。
「そう、ありがとう」
「いいえ」
お礼を告げるとクラスメイトは自分の席へと戻っていく。
ガタン
席を立って、カバンを持つと私はパメラの元へ向かった。それにしても丁度良かった。彼女のクラスに行く手間が省けた。しかし、何故パメラが私を睨みつけているのか、それだけが理解出来なかった。
「…来たわね」
私がパメラの元へ向かうと、彼女は口元を歪めて私を見た。
「ええ、来たわ。貴女の立っている場所は出入り口だし、丁度用事があったのよ」
「へぇ。偶然ね。私も貴女に用事があったのよ。それじゃ中庭にでも行きましょうか?」
パメラは腕組みした。本当に庭が好きな女だ。
「中庭?冗談じゃないわ。そんなところに行かないわよ。私は忙しいんだから。用件はすぐ済むからここで話すわ」
するとパメラは眉間にしわを寄せた。
「また貴女は…っ!いつもいつも『私は忙しい』ばかり口にして…ひょっとして私やニコラスを暇人だとでも思って馬鹿にしているのねっ?!」
「馬鹿になんかしていないわ。私は本当に忙しいのよ。取りあえず、報告があるわ。今日、シビルは私の物を盗んだ罰を受けて1週間の停学処分になったから」
「な、何ですってっ?!どうりで昼休みが終ったあとから姿が見えないと思ったけど…」
ひょっとするとパメラはシビルの行方を尋ねに来たのかもしれない。
そしてパメラはキッと私を睨みつけると言った。
「やっぱり貴女は酷い女ね。シビルは盗んだ物をちゃんと返したのに教師に言いつけたのね」
「…」
私は呆れて物が言えなくなってしまった。もとはと言えばパメラから彼女を職員室に連れて行くかどうか尋ねて来ておいて、いざ連れて行って罰を受けさせればこのような言い方をするなんて…もはや相手にするだけ時間の無駄だ。
私はパメラに返事する事無く、昇降口へ向かって歩き始めた。今日はこの後、ジムさんに『トワール』の店へ連れて行って貰うのだから。
「ちょっと!無視する気なのっ?!」
パメラは私が歩き始めたのに驚いたのか、後から追いかけて来る。
「話は済んでいないのよ。一体どこへ行こうって言うのよ!とにかくシビルは盗んだ物を返したのだから、貴女の方からシビルの謹慎処分を解くように教師に言いなさいよっ!」
あまりの言い分に流石に我慢出来なくなった。
「ふざけないで頂戴。一度盗んだ物を返したからと言っても犯罪は犯罪よ。罪を犯した人間は罰を与えないといけないわ。そうじゃ無ければまた同じことを繰り返すに決まっているもの」
そして私は足を止めるとパメラの方を振り向いた。
「いい?貴女は私がシビルを訴えないだろうと高を括っていたかもしれないけれど、今回ばかりは許せないわ。貴女はとんでもない事をしてくれたのよ?シビルは貴女の罪をかぶって停学処分と言う罰を受けたわ。これ以上私に嫌がらせをしようものなら同じような目に遭うわよ?」
私の言葉に青くなるパメラ。
言いたい事は告げたので、再び歩き始めると背後からパメラの声が追いかけて来た。
「や、やっぱり貴女は酷い女よっ!この悪女っ!」
しかし、私はその言葉を無視して歩き続ける。
あんな女、相手にするだけ時間の無駄だ―。