第100話 家族への報告
応接室―
今、この部屋には私とデリク、そして家族全員が揃っていた。
「な、何だって?ニコラス様がパメラと一緒に住んでいる?しかもその家を借りているのは夫人だと言うのか?」
私とデリクの話に父は驚いた様子で目を見開いた。
「全く…ニコラスは出会った時から馬鹿だと思っていたが…どうやらその馬鹿な血は母親から受け継がれていたのかもしれない。母息子揃って馬鹿だったとは…。後は伯爵が馬鹿でないことを祈るばかりだ」
腕組みしている兄はかなりイライラしているらしく、父やデリクの前だと言うのにも関わらず、『馬鹿』と言う単語を連呼している。
「それでは夫人が私達に見せたあの態度は…演技だったのかしら…?」
母がため息交じりに言う。
「演技…そうですね。信じたくはないけれども、やっぱりそう考えざるを得ないかもしれません…」
デリクの言葉に私達は頷いた。
「デリクさん、それではこの話を伯爵に伝えるのですね?」
父がデリクに尋ねた。
「ええ、そうですね。出来れば夫人には内密にまず伯爵に報告したいと思っています」
「もうコンラート夫人は家に帰っているかし…?」
私は首を傾げた。
「どうだろう…?でも大丈夫だよ。伯爵と2人きりで話せるチャンスはいくらでもあるから。それでは僕はそろそろ行きますね」
「私、デリクさんを見送ってきます」
私は立ち上がると家族に声を掛けた。
「ああ、そうだな」
「うん、2人で話もあるだろうし」
「デリクさん、またいらして下さい」
父、兄、母が次々と声を掛けてきた。
「はい、それでは失礼致します」
デリクは改めて頭を下げた。
「それじゃ行きましょう?」
そして私達は応接室を後にした―。
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廊下に出ると、私はすぐに自分の不安を口にした。
「ねぇ、デリク…コンラート夫人がニコラス達に絡んでいたとなると、貴方を襲ったのも、私の店を覗いていたのも、夫人の差金なのかしら…?」
とてもそんな風には考えたくは無かったが、どうしても不安がこみ上げてきてしまう。
「どうなんだろう…。両方とも夫人が関わっていないかもしれない。ニコラスとのパメラの独断でやった可能性もあるし…まだはっきりと断言は出来ないけど」
「そうよね…」
だけど、これだけははっきりしている。私もデリクも完全にニコラスとパメラから逆恨みをされていると言うことが。
「とにかく、コンラート家に戻ったらすぐに伯爵に報告するよ」
「伯爵はどう思うかしら…」
「うん…。でも…恐らくニコラスやパメラだけでなく、あの2人に手を貸したということで、夫人もただではすまないかもしれないね。最もこれは伯爵が関与していない場合の話だけど」
「デリク…」
「とにかく、アンジェラのお店の開店まで後3日だ。安心してお店を開けられる様に、不安な要素は取り除いておかないとね」
「ありがとう。デリク」
いつの間にか、私達はエントランスまでやってきていた。扉を開けると、私達を乗せてきた辻馬車が待機していた。
「それじゃ、アンジェラ。また明日学校で会おう」
「ええ、又明日」
デリクが馬車に乗り込むと、すぐに馬車は走り出した。
そして彼を乗せた馬車が見えなくなるまで私は手を振って見送った―。