第五十三章<私の毒舌な婚約者4>
――かわいげのない女を、婚約者にしてあげた?
ふざけるな!
そう、声を上げそうになった。
リリアーネ嬢の心の中を覗いたアレンとしては、どうしたって屁理屈をこねているようにしか聞こえないから。
たとえ、ルークの中では、それが屁理屈でも何でもない、“正論”だったとしても。
しかし、アレンが口を開きかけたとき。
「は?何言ってんの?」
涼やかで耳に心地よいながらも、ドスの効いた声が、会場に響いた。
一拍後。
「へ?」
会場中の声がシンクロした。
アレンも、その一人だった。
まさか、リリアーネ嬢が言い返すとは、想定していなかったから。
そんな会場中の動揺をよそに、彼女は自身の心の内を惜しげもなく曝け出す。
その内容は聞くに堪えない酷いものでありながら、彼女は至って冷静な表情で、淡々と述べていた。
声にドスこそ効いていたが、感情らしい感情が滲むのは、それだけで。
淡々と、正論を述べていた。
長い文章を一息で話し切ると、リリアーネ嬢は優雅に膝を折る。
今までに見た中で、最も美しい礼だった。
そしてわき目も降らずに扉の外へと進んでゆき、やがて皆の視界から姿を消した。
そんな彼女を追いかけようとする者は、誰一人としていない。
皆一様に、ポカンとした間抜け面をしているような状態だった。
特に、ルークとレオポルト男爵令嬢の表情はかなりの見ものだったが――アレンは彼らを視界に入れようともしなかった。
彼は一瞬の驚愕から素早く我に返ると、身を翻して扉へと向かう。
探知でリリアーネ嬢の位置を探したが、まだそこまで遠くには行っていない。
内心、安堵の息を吐く。
それを表情に出すことなく、彼は扉の外へ出た。
自身がなぜ、彼女を追いかけようと思ったのかすら、知らずに。
***************
リリアーネ嬢を探すことには、思ったよりも時間を取った。
探知で位置の検討こそ付くものの、彼女はただでさえ照明が少なく、暗い中庭の死角に位置するベンチに腰掛けていたためだ。
ようやく彼女を見つけたアレンは、その瞳に水滴が溜まっていることに気づいた。
そして――とても困った。
元来、アレンは女性に苦手意識を持っている。
幼いころから多くの女性に言い寄られて辟易していたため、極力見合い以外の場で関わらないように務めてきた。
そうしているうちに、女性の心の機微や、扱いに疎くなり、ただでさえ纏まらない縁談が更に上手くいかなくなった。
だからこんなとき、どんな言葉を掛ければ良いのかも、わからないのだ。
無表情で当惑していれば、彼の気配に気づいたのか、リリアーネ嬢が振り向いた。
瞼の淵から零れ落ちた水滴が、月光に照らされてキラキラと輝く。
彼女は、自分が涙していたことにすら、気づいていないようだった。
そんな彼女は、少しばかり困惑した様子で、アレンに尋ねる。
「どうかされましたか?」
アレン視点……終わりは見えた筈なのに( ノД`)




