第五十章<私の毒舌な婚約者1>
ここからアレンsideです!
時間が少し巻き戻しますので、ご注意を。
何故、どうしてと叫びたいのに、声が出ない。
――そんな夢を、何度も何度も見た。
自分が、何に対して叫びたいのか、理解することもなく――
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ランスから帰還し、早速開かれた夜会が終わった後、皇太子アレンは一人、自室で酒の入ったグラスを傾けていた。
繊細なガラス細工のグラスの中で、赤紫の液体が揺らめく。
彼はそれをゆっくりと口元へ運び、一度に半分ほど飲み干した。
まだ液体の残るグラスを、最も近いテーブルに置くと、彼は開け放たれた窓辺へと歩いてゆく。
春とはいえ、夜の空気は未だ冷たく、キン、と張りつめていた。
ひゅうっと、氷のような風が部屋へ入り込んでくる。
だが、酒だけでない胸の高鳴りに火照った身体には、それが心地よい。
夜風に当たっていれば、知らず知らずのうちに、自身の婚約者、リリアーネの姿を思い浮かべていた――
アレンが初めてリリアーネの存在を知ったのは、数日前の夜会だった。
そう、数日前までは赤の他人とまではいかないが、そこまで深く干渉することもない存在だったのである。
だが、彼女と出会った日が、何故かとても遠い昔のように感じている。
それほどまでに、彼女が彼にもたらす影響が大きいということだろう。
――私が、このような感情を抱くことになるとはな。
内心、自嘲する。
あの日、小国・ランスの夜会へ強引に招かれたアレンは、自ら望んでその場所にいたわけではなかった。
父、ロイと母、レイモンドの助言により、渋々参加していた。ただ、それだけ。
ランスは、元々フィオの属国の一つで、数代前に独立を果たした小国だ。
そのため、属国時代から長い時が経った現在でも、フィオとの一定以上の繋がりを保ちたいという思いは分かる。
だが、多くの属国を従え、最強の王国の名を恣にするフィオの王族は、何がどうなろうと多忙である。
あちこちの国・家の夜会に招待されるし、その上、自分の心が読まれていると知りながらも、下心から秋波を送る者は後を絶たない。
これを憂鬱と言わずに何と呼ぶのだろうか。
男だろうが女だろうが関係なく、誰もがアレンに気に入られようと、纏わりついてくる。
その態度が、己の評価を下げていることも知らずに。
そのため、アレンは夜会に招待されることも、参加することも嫌いだった。
ランスでの夜会も、適当なところで何らかの理由を付けて早々に引き上げるつもりだった。
……そこで、自分の婚約者を見つけることになるとも――その婚約者に、恋、という感情を憶えることになるとも、知らずに。
気が付けば、前の投稿から一週間……早いものですねえ(遠い目)




