第四十一章<アレン様の私室に連れ込まれました3>
それからしばらくした後、視線を明後日の方向に向けながら、アレン様は言葉を発した。
「私が、お前…貴女を選んだ理由を、話しても良いか?」
私は軽く瞠目し、アレン様を凝視する。
ずっと聞きたいと思っていたことだし、先ほど尋ねる覚悟もしてきた筈なのに。どうしても――怖い。
そんな気持ちがバレバレだとしても、顔にだけは絶対に出すものかと、一瞬で表情を取り繕い、頷いた。
そんな私を心配そうに見つめながらも、アレン様は少しずつ、言葉を紡いでいく。
「私は…母上が貴女に言った通り、幼少の頃から人間の抱える闇というものをぶつけられて育った。私に散々媚びを売っているくせに、心の中では出世の材料に使うためにどうすればいいかという算段を立てていた者もいれば、涼しい顔で私と会話しながらも、娘を嫁がせたいがために私に媚薬を盛る作戦を練っている者もいた。…いくら私や父上がテレパシーを持っていると理解していても、胸の内で渦巻く欲望を止めることができないのが人間だ。それは、取り繕おうとして取り繕えるものではない。全ての臣下が私たちに忠誠を誓っているわけではないということも、知っていた」
……サラッと例に挙げられた事例が重すぎるのだが。
打たれ強い方だと自負している私でも、確実に病んでいる。
腹に一物抱えていると理解しているのと、体感するのとではダメージの次元が違うのだ。
改めて、アレン様の。そして、お義父さまを始めとしたフィオの国王たちの持つ強靭な精神力に驚愕する。
私がそんなことを考えている横で、これでも我が国はマシな方なのだがな、と付け足した彼の表情は、何も映していないのに、泣いているように見えた。
そんな顔のまま、彼は話を続ける。
「…それでも。常に突き付けられる汚れに耐えることは、かなりしんどかった。他人の黒い思考にばかり敏感になり、信頼できるのは、父上と母上だけだと錯覚した。私は…自己防衛のために、人を信じるということを諦めた」
――諦めて、当然じゃないか。
そんなことを口にしようとして…できなかった。
口にしてしまうと、アレン様の思いを否定してしまうと。そう、気づいてしまったから。
何も言うことが出来ずにただ、その言葉の続きを促す。
「――フィオを。この国を守るために、私にこの魔法は与えられた。だが、この国は守るに値するものなのかと。ある時から、そんなことを考えるようになってしまった」
皇太子として、最も言ってはいけない言葉を。
全てを吐き出すようにして、アレン様は口にした。
あまり間を開けずに投稿できました!(*^^)v




