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第三章<運命の変化は夜会で2>

 アンナが、できましたよ、と言って、私に手鏡を渡す。そこに写っているのは、明らかに手の込んだ髪型をした、仏頂面の私だった。

 

 「簡単にと言ったでしょう?」

 

 アンナの方を振り向いて、軽く睨みながら文句を言う。

 きっと、こんなに奇麗な髪型を作ってくれた相手に文句を言うような女は、国中探しても私しかいないだろう。

 

 しかし、アンナは少しも気に留めず、

「私の魔法はものの形を操ることですもの。これくらい、簡単です。」

 

 と、屁理屈を言ってきた。

 彼女は魔法を使って私の髪をセットするので、どんな髪型にしようがかかる時間は変わらない。

 しかも鏡の前でセットしてくれないので、セットされるまでどんな髪型になるのかわからない。

 

 そんなわけで、私がいくら簡単にと言っても、いつも手の込んだ髪型を作るアンナだったが、ほどくのも面倒なので、結局いつもそのまま出かけている。

 

 ――まあ、いい。

 

 どんな姿で出かけても、私が陰口を叩かれることは決まっているのだから。

 

 支度が全て終わったところで、父様が、そろそろ出たいのだが、と言ってきた。

 

 「今行きます。」


 返事をして、何か忘れ物がないか確認する。大丈夫そうだ。

 

 そして私は顔を上げて、部屋を出た。

 

 ***

 

 「ルミナス公爵夫妻及び、ルミナス公爵子息、ルーファス殿、ルミナス公爵令嬢、リリアーネ嬢のご到着~」

 

 ラッパを吹いて高らかに叫ぶ衛兵の声が、とても遠くに感じる。

 

 ――やっぱり、緊張はしていたのね。

 

 ……この扉の先は、戦場だ。軽く息を吸い込んで、中へ入る。

 予想通り、聞こえてくる話は私のことばかりだった。

 

 「リリアーネ嬢ですわよ。ルーク様からご婚約を破棄されたばかりですのに、よくこのような場所に出てこれますわね」

 

 「なんて図々しい」

 

 「何を考えていらっしゃるのでしょうね」

 

 ――参加しなかったら参加しなかったで、また何か言うのでしょうに。


 喉まで出かかった声を全力で飲み込んで、代わりに笑顔の圧を送ってみる。

 

 彼女たちの肩がビクッと上がった。

 そそくさと逃げていく彼女たちを見ると、少しだけ溜飲が下がった。

 

 ――しかし、それもつかの間。

 “彼”と“彼女”が入ってくるのを見た瞬間、背中に冷たい汗が流れた。

 

 続いて、聞きたくもない声が聞こえてくる。

 

 「第二王子、ルーク様及びレオポルト男爵令嬢、アメリア様のご到着~」

 

 耳を塞ごうにも、指一本動かせない。頭から、冷静な部分が削り取られていく。

 

 表情を変えぬよう気を配りながらも、ひどく動揺してしまう。

 

 そんな私に、いかにも仲良さげに手をつないだ二人が、笑顔の仮面を貼り付けて近づいてきた。

 

 そして、ルーク様が私に話しかけてくる。

 

 ――放っておけばいいのに。

 捨てた女のことなど、放って、おけば。

 

 「やあ、リリ。元気かい?」

 

 ――元気なわけないがないでしょう。それに、愛称で呼ぶな。

 決して、口には出さないが。

 

 「本当は君のことなど視界の端にも入れたくないのだけど、曲がりなりにも、僕の元、婚約者だからね。挨拶をしないのも悪いと思って」

 

 ――視界に入れたくないなら、入れないで下さい。それに関しては歓迎します。あと、挨拶されるのがストレスになるので、今すぐやめてください。

 口を開くつもりはないが。

 

 「今日は、正式にアメリアとの婚約を発表しようと思っているんだ。この前、君との婚約破棄を発表した時、一緒に発表してもよかったんだけど、それだと君の面目が立たないだろうと思ってね。一刻も早く発表したいのを、君のために我慢してあげたんだから、感謝してくれてもいいんだよ」

 

 「そうですわ。少しも想っていない相手にここまで尽くされたルーク様の気持ちをお察しくださいね。私だって、ルーク様と正式に婚約するのを、今か今かと待っていたのですから」

 

 ――ルーク様が私との婚約を破棄したときの夜会でも、彼の横にはアメリア嬢がいた。

 今二人がしているように、腕を絡ませあって。

 そしてルーク様は、婚約破棄を告げたのだ。

 まるで、自分の隣に立つにはふさわしくないとでも言いたげに。

 

 一緒に発表しなかったから、私の面目を立てた?少しも想っていない私に対して尽くした?

 

 ――噓つき。

 

 私を貶めようと画策していたくせに。

 

 忍耐力の限界が近づいてきたころ、とどめを刺すようにルーク様は次の言葉を発した。

 

 「だいたい、君のようなかわいげのない女を一度は婚約者にしてあげた僕に、感謝の言葉もないの?薄情だなあ」

 

 ――ぷつり。

 

 そんな音が、聞こえた気がした。

 次の瞬間。

 

 「は?何言ってんの?」

 

 口からこぼれ出た言葉は、かなりドスの聞いた、大きな声だった。

 

 「「「へ?」」」

 

 会場中の人間全員の声がそろった。

 そして、全員例外なく絶句しているのをいいことに、私の毒舌が炸裂する。

 

 「そもそも婚約話を持ち掛けてきたのはそちらですよね?その上で婚約破棄とかふざけてるし、婚約してあげただけで感謝しろ?答えなんか決まっています。お断りしますわ。たとえ、どんな願いも叶えて下さると言ってもね。それに、私の面目なんて、公衆の面前で、ほかの女性連れて婚約破棄を言われた時に粉々に砕け散ってますよ。そんなことも分からなかったのですか?それはあまりに世間知らずが過ぎますね。ああ、それとも、彼女との生活が楽しすぎてそんなことも分からなくなっているのですか?それなら、恋をするというのは、人を退化させることと同義なのですね。ええはい貴方の言い分はよく分かりましたとも。ですが、分かったということと理解するということは全く別ですからね。これで失礼いたしますわ。これ以上話していても時間の無駄ですから。ではごきげんよう。」

 

 一息で言い切った私は、振り返らずに外に出た。

ちょっと長くなってしまいました!毒舌炸裂するセリフ書くの、メッチャ楽しかった…


2022年12月6日、改稿。

この頃のリリアーネの心の声、びっくりするくらい口が悪かったです。。。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったけど毒舌がもっと欲しいです( ≧∀≦)ノ
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