第二章<運命の変化は夜会で1>
――さて、今日はルーク様から婚約破棄を言い渡されてから、初めての夜会である。
あんなことがあった直後だ。本音を言えば、参加したくなどない。
きっと皆、私の噂話に花を咲かせるに違いない。それも毒を含んだ花を、だ。
しかし、参加しなければ参加しないで、その毒はさらに濃くなり、危険度も増す。
正しく、無限ループである。
そんな話をされても、私個人としては別にかまわない。
誰かの悪口でも言わないと、皆とてもやっていけないだろうし。
現に私だって、外に出さないだけで、胸の内ではかなりの毒を吐いている。
だけど。
父様や母様、兄様……私の家族が、傷ついてしまう。
彼らもまた、自分が何と言われようと気にしないのに、自身の家族が嘲笑されることにはひどく憤るのだ。
また、家族が傷つくよりも現実的な問題として――大貴族ルミナス公爵家のひとり娘が婚約を破棄されたともなれば、公爵家の評判も落ちてしまうというものがある。
頂点に居たものが些細な失点をきっかけに蹴落とされ、転がり落ちてしまう。
――社交界は、そういう場所だ。
だから、私が公爵家の汚点となってしまったことは本当に辛いし、心から申し訳なく思っている。
――だが、今更ルーク様に媚びを売るなんて御免だ。
死んだってやってやるもんか。だいたい、婚約を打診してきたのは向こうだというのに、他に想い人ができたからと言ってあっさり破棄するなんて、非常識もいいところだ。
――でも、私にとっての事実なんて、噂話には関係ない。
他人にとって、私という存在は、無能だからルーク様との婚約を破棄された、秀才気取りの嫌な女なのだから。
***
そんなことを考えているうちに、時間が来てしまった。
急いで、淡い藤色のドレスに袖を通す。基本、身支度は侍女に行ってもらうのだが、なんでも自分ひとりでできることに越したことはない。
それに、もう第二王子の婚約者でもないのだ。
無理をして豪華なドレス――複雑で、数人がかりで着せる必要があったり、規格外な重さだったりする――を着る必要はない。
着替えが終わると、すぐに専属侍女のアンナが部屋に入ってきた。
「ああ、お嬢様。着替えなさるのなら、一言言ってくださればお手伝いしたものを」
そんなことを言われた。
「別にいいでしょう。さっさと行って、さっさと帰りたいんですもの。髪型だけお願い。出来るだけ簡単にね」
そうそっけなく返せば、何故か彼女は一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに何かを決意したような表情に変わり、私に反論してくる。
「いいえ、だめですよ。心無い噂が飛び交っている今、加害者だという内容を覆すためにも、外見には心を配らなければ」
「無駄よ」
そう私は一蹴する。アンナは驚いたような顔をして絶句しているが、構わず私は言葉を続ける。
「どんな格好で行ったって、皆王族を敵に回したくないのですもの。出る話題は、私の悪口が半分以上を占めているでしょうよ。それに、悪口を言う人は、そういうことで自分の保身をしている弱い虫以下の方々ですもの。気に病むことはなくてよ」
そう言い切った私に、アンナはまたか、という顔をし、こう言った。
「お嬢様、そういった言葉使い、他所でやっていないでしょうね」
「安心して。ぼろを出したことはなくてよ」
そう言うと、やれやれという風に頭を振ったアンナは、私の髪を結い始めた。
この時は思ってもみなかった。まさかこの後、私の毒舌が公衆の面前で披露されることになるだなんて――
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2022年12月6日、改稿。
文章が下手くそすぎたのです……(´;ω;`)