第二十五章<夜会5>
静寂の中、お義母さまが、コンスタンティーナ侯爵令嬢に淡々と言葉を紡ぐ。
「コンスタンティーナ伯爵令嬢。リリアーネちゃんが言っていた通り、貴女の言動は不敬罪に値するものだった。よって、早急にストゥレクト修道院への入所を命じます。」
お義母さまは何時から私たちのやり取りを聞いていたのでしょうね?
盗み聞きするくらいなら、さっさと出てきてほしかったのですが…
まあ、こればっかりはしょうがない。
立ち位置としては、アレン様や私なんかよりも、ずっと上のお方なのだから。
まあ、後ほどさりげなさを装いつつ文句は言わせていただくが。
「う、嘘でしょう!?ストゥレクト修道院だなんて…追放処分と同じではありませんか!?何故…何故私がこのような処罰を受けなければなりませんの!?私は何も間違ったことなどしておりません!?あんな小国の。しかも、婚約者も繋ぎ止めることができない役立たずが、このフィオの皇太子妃になるなんて、何かの間違いでしょう!?きっと、想像もつかないような方法でアレン様を騙して…」
号泣したことでメイクが流れ、顔がぐちゃぐちゃになってもなお。
彼女は自分の間違いを認めることができない。自分が正しいと。そう、信じて疑わない。
そんな彼女の言動に、私はもはや苛立つことすらできない。ただ、心の底から呆れるのみ。
それはアレン様も同じで、もう何も言うことなく、コンスタンティーナ伯爵令嬢を半目でねめつけていた。
それだけでも、十分怖いのだが。
そんな私たちと異なり、お義母さまは、先程から顔中に、それはそれは艶やかで、蠱惑的な笑みを浮かべている。
その空気をそのままに、彼女は
笑う。嗤う。哂う。
妖しげな空気を漂わせているくせをして、彼女はとびきり生き生きとしていて。
それと同じくらい、腹を立てていた。怒っていた。憤っていた。
見える者には分かるだろう。
彼女が激怒していることに。
自身の息子を、女に騙されるような男だと言ってのけたり。
その婚約者を、さも当然というように侮辱したり。
そんな地雷を踏みまくった令嬢に対し、心底冷めた感情を抱いていると。
お義母さまと私は、今日が初対面だが、茶会の際の雑談で、彼女の人となりはある程度把握したと自負している。
何故アレン様だけでなく、私が侮辱されたことにも怒ってくれていると考えたかというと、その茶会の折、お義母さまは私のことをかなり気に入ってくれたようだからだ。
自惚れでもなんでもなく、そう、思っている。
そのきっかけとして挙げることは、彼女は私に対し、いくつか課題を提示していたことだ。
結果から先に言うと、全問クリアしたわけだが。
実を言うと、そんな課題があったということは、茶会の際の雑談で初めて教えられた。
そんな隠された課題は、アレン様とお義父さまがテレパシーを駆使して、私の考えていることを探り、脳内にて正解を考えていれば良しという、何とも恐ろしいものだった。
余談だが、このお二方のテレパシーは、常に周りの人の考えていることが分かるものではなく、知りたいと願って強く念じることで発動するらしい。
そのため、知りたくないことを知ってしまい、人間不信に陥るような心配はないということだ。
課題の最初は、お義母さまが初対面で馬に乗って登場したことだという。
驚きはすれども、別に変だとか、おかしいとか思わなかったことで好感度が上がったとか何とか。
実際、女性が馬に乗ることが当たり前な国だってあるのだから、自分が育ってきた国の文化と違うからと言って、否定するような者は、皇太子妃として相応しくない。
これには、激しく同感だ。
あと三つあったのだが、これはもはや課題というより知識や思考能力を試されたようなもので、これには合格せずとも、特に問題はなかったらしい。
まあ、合格したのだが。
細かい細工が施された花瓶に、カスミソウ。ひいては、レモンクリームを挟んだラングドシャまで。
色々と凄いと感じたことがすべて課題だったという。
思考を読むことに関しては、お義父さまは関わらず、全てアレン様がやっていたらしい。
私の‘‘役目’’の説明を受けた後。課題について教えられたときは、心底恐怖を感じたものだ。
その一方でお義母さまはとても嬉しそうにはしゃいでいた。
この課題は歴代の婚約者候補にも出していたそうで、半分は一問も気付かなかったらしい。
嬉しいことに、全て合格したのは私一人ということだった。
そのようなことがあったため、私はお義母さまにある程度認めてもらえたのではないかと思っている。
そのように、数時間前のあれこれをぼんやりと思い出していた私は、失念していた。
お義母さまはアレン様の母親であり、怒りを放出する際の表情こそ真逆だが、その中身が限りなく似通っている可能性を。
要約すると、私はお義母さまの怒りまで鎮める羽目になり、更には、コンスタンティーナ侯爵令嬢をウィンター侯爵夫妻に押し付けるまで休むことができなかった、というわけだ。
ちな、休憩室でぐったりしていた私に、アレン様は果実水を持って来てくれた。
分かりずらいが、本当に優しい。
「いろいろと、悪かった。感謝する。」
という言葉と共に渡された果実水は、檸檬の果汁を主にしたものだった。
ここまでくると、今年は温室の檸檬が豊作だったのかと軽く錯覚を覚えてしまう。
アレン様が手ずから運んでくれた甘みよりも酸味の方が強いはずの液体は。
不思議なことに、とても甘かった。
久しぶりの投稿で、無意識にテンションが上がっていたのでしょうか…?
お久しぶりの2000文字越え投稿してしまいました(*´∀`*)




