第十三章<旅の終わり>
「もう少しだな。」
フィオの城壁を囲む森に入った時、何気なくアレン様が呟いた。
「そうですね。でもランスの森よりもずっと綺麗です。」
お世辞などではなく、本当にそう思う。
なにせ、ランスの城壁を囲む森は、手入れもろくにされていない、ただ城壁を森で囲むという風習に従っただけ感の漂う、虚ろで陰気な場所だった。
だが、今、馬車が走るこの森は、自然なのだけれど、必用な手入れを怠らずにいることがよくわかる。
木の葉の間からは木漏れ日が差し込み、可憐な花を咲かせている低木も多い。
鳥のさえずりがどこかから流れ、小動物もちらほら見かける。
ランスの森は、手入れを怠けすぎてカオスになってたからなあ。
思わず見とれていると、アレン様が、いつの間にかすぐ傍に近付いて来ていた。
前の失敗は繰り返さない!
そう思ってバッと振り向くと、アレン様は穏やかな笑みを浮かべた。
破壊力が凄い彼の笑みも、この数日でドキッとする心臓を表に出さなくなる程度に慣れた。
「それほど気に入ったのならまた来るか?」
笑顔のまま、そんなことを言ってくるアレン様。
「いいのですか?」
「もちろんだ。」
「では…喜んで。」
思わず顔が綻んだ。そのことに、自分でも驚く。なにせ、笑顔を作ったのは、6年ぶり。そう、12歳のあの日以来だったからだ。
そして、驚いたのはアレン様も同じだったようで、暫く固まってから、ふいっと視線をそらした。
何よ。婚約者が笑っただけでここまで驚く必要ある?まあ、ルーク様は表情の変化を知ろうともしなかったから、それに比べたらマシよね。というかあの馬鹿野郎とアレン様を比べるなんて、アレン様に失礼ね。
と、胸の内で少々毒づいたが、それが照れ隠しであることは、なんとなく察していた。
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「王太子殿下、お帰りなさいませ!!!そしてリリアーネ様、ようこそおいで下さいました!!!どうぞ殿下を、末永くお頼み申しあげます!!!」
と、まず門番と入国審査官から熱烈な歓迎を受けた。
町を走っていても、人々が次々に集まり、
「おめでとうございます!」
や、
「頑張ってください!」
など、お祝いとエールの入り混じった歓声を受けた。
これは…もしかしなくても、例の、アレン様の婚約失敗談が関係しているのでしょうか…?
チラッとアレン様の方を向くと、気まずそうに目をそらされた。
やっぱり関係、あるんですね…
だが、余計な闇を炙り出したくないので、少々気になることがあっても、黙っておく。
ただ、その「気になること」は、数時間後に詳細を知ることとなる。
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王宮に到着し、当然のようにアレン様が手を差し伸べ、馬車から降りるのを手伝ってくれる。
宿(といっても超高級の)に止まった時もこうしてもらったが、何回やっても慣れることはなかった。
そして、謁見の間に移動しようとしたところで、何かが走ってくる。よくよく目をこらすと、それが馬で、人を一人乗せていることが分かった。
それは一気に二人のほうに近付き、ギリギリのところで止まった。どうやら、乗っているのは女性のようだ。ズボンをはいていたため、最初はよくわからなかったが、落ち着いて見ると、物凄い美人だ。
あれ、でも誰かに似ているような…?
何者?
不信感でいっぱいの私に対し、アレン様は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
そして、彼女は満面の笑みで口を開く。
「お帰りなさい、アレン。そしてようこそ、リリアーネちゃん。私は王妃、レイモンドです。よろしくね!」
へ…?お、王妃様?
フィオに着いて早々に、私の思考は停止した。
なかなかに強烈なキャラですね…




