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第十章<旅立ちの前の晩>

「え?正気ですか?父様。お医者様呼びましょうか?」

「私は常に正気だ。」

「そういうことではなく、明日旅立つって…父様って旅をしたことありましたっけ?」

「あるぞ。あれは私が二十歳のころだったなあ…」

ここからの話は興味ないから放っておくとして、旅の経験あるんかい!じゃあこの時間から準備して間に合うわけないって重々承知だろ!?というか自分が娘に無茶振りしてるってことわかってないのかなこの父様くそオヤジは。わかってないならルーク様並みに世間知らずだわ。瞳にさらに殺気がこもった私には気づかず、父様は明るい声でこう言った。

「大丈夫だ。準備はもうできている!」

「はい?」

「アレン様が向こうに全て用意して下さったようだ。あとはどうしても持っていきたいものだけ用意すればいいとのことだ。多いようなら別で運ばせると。」

え…待って。いくらフィオが超が10個くらいつく大国でも、これは好待遇が過ぎません?

「あと、私たちも一ヵ月くらいしたらそっちに引っ越すからな。」

へ…?一家でフィオに移住?

「向こうでは中級貴族くらいだとは思うが…。この国には愛想が尽きたしな!」

満面の笑みで言ってくる父様。

なんかもう今日は毒舌的思考と毒舌の大量発生のせいで疲れて、もう問い詰める気力も反論する気力もないわ…

「というわけだ、今日はもう寝て明日に備えなさい。」

はい、しょーちしましたおとーさま。あ、初めて「お」を付けたな。まあどーでもいいや。

一礼して、アンナを連れて部屋を出た。入浴して自室へ向かう。途中で兄様ことルーファスとすれとがった。その口角は吊り上がっており、明らかに面白がっている。もう寝ようと思っていたのに、面倒臭いことこの上ない。

「聞いたぞ、社交界での話。」

「面白がらないでください、兄様。これまで溜まりに溜まっていた不満を少しぶつけただけですわ。アレン様も味方して下さったことですし、何の問題が?」

「はあ、いつまでたってもお前の毒舌は健在だな。アレン様に愛想をつかされないようにしろよ。あ、でもアレン様に何か言われたらすぐに言え。兄様が文句言いに行ってやるから。」

なんだかんだ言って甘い。今は良くても、将来嫉妬深い嫁が来たとする。その時嫁さんの前で私にそんな態度取ってたら嫉妬されるの私だからね!?この愚兄が選ぶ嫁が優しい方でありますように。無表情の下でそんなことを願い、すぐに打ち消した私は、口角をやや上げて、こう言った。

「ありがとうございますね。ですが、明日は早いですし、私はもう休ませていただきますね。」

笑顔が効いたのか、兄様は微笑み返して

「ああ、おやすみ。」

と言って離れていった。

ふう、軽くため息をついた私は、そのまま部屋に直行し、眠りについた。明日からの旅に備えて。


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