07.要請、そして野次の中の二人
王子の言葉に感心していると、突然勢い良くドアが開いた。
「ハウラ室長っ!! 至急の連絡があります!!」
開け放たれたドアの前で、息切らせているのは兵士っぽい格好をした青年だった。
皆突然な事に驚いて、兵士っぽい青年をただ見つめていた。
「どうかしたのか?」
一瞬にして静まり返った空気を打ち破ったのが、王子の一声だった。
皆、兵士っぽい青年から王子の方へと視線が移る。
「でっ、殿下!! お話中にも関わらず、失礼しました!!」
兵士っぽい青年は王子がいる事に気付き、直様敬礼をした。
「敬礼はいい。何があった?」
王子は至って冷静に聞く。
兵士っぽい青年は敬礼をしたまま、ことの経緯を説明した。
「じっ、実は、東の森で討伐に向かっていた第三騎士団と応援に向かった第四騎士団が先程戻られたのですが、討伐の際、負傷者が多く出た模様で、医療術師だけでは間に合わない状況でありまして、今直ぐ調合師にも応援に入るよう要請を受けて来ました!!」
急いでる事もあり、早口になっていたが、どうやら大変な事態になっているらしい。
「分かりましたわ。上級ポーションを持って、直ぐに向かいますわ」
ハウラ室長は急いで、それぞれに指示を送る。
それを受け、調合師達は一斉に動く。
(これって私も行った方がいいのかしら?)
話の内容からして、人手不足なのは明らかだ。
私は決意を固め、ハウラ室長の方へ向かう。
「ハウラ室長!! 私も手伝わせて下さい!!」
その言葉に、王子とジースさんが驚く。
ハウラ室長も一瞬驚いた顔を見せたが、少し考える素振りをして、私の方へと視線を戻す。
私は真剣な眼差しでハウラ室長を見詰める。
一時の沈黙が流れ、やがてハウラ室長はゆっくりと口の端を緩め、答えた。
「……お願いしても、いいかしら?」
それを聞いて私は、笑顔で答えた。
「勿論です!!」
こうして、私は調合師と共に現場へと向かった。
現場に辿り着いた私達の目の前に現れた光景は壮絶なものだった。
「……酷い……」
切り傷、火傷、中には意識不明な者までいた。
医療術師であろう人達が、忙しなく動き回り、患者の手当をしていた。
ハウラ室長は近くに居た医療術師に声を掛ける。
「先程応援の要請を受けて来ましたわ。お手伝いたしますわ」
「あっ、調合師の方達ですね。ありがとうございます。まだ手当が終わってない者があちらに大勢居ますので、手当の程宜しくお願いします!」
「分かりましたわ!」
ハウラ室長は速やかに指示を出し、分散させた。
私も後を追うように、手当が終わってない患者の所へ向かう。
「大丈夫ですか? 怪我の方を見ますね」
「っ……ああ……」
怪我は火傷の様に爛れていて、皮膚が剥がれて剥き出し状態となっていた。それが、顔、腕、足と全身爛れていた。
(爛れが酷いわね。早く処置しないと感染症起こしかねないわね)
私は肩に掛けてる鞄を下ろし、中を漁り始める。
中には前もって作ってあった薬が幾つか入っており、その中に火傷や切り傷とかに効く軟膏も入っていた。
近くにいる医療術師に包帯とガーゼを貰い、ガーゼに軟膏を塗り手繰る。
「すみません、少し滲みると思うので我慢して下さいね」
私はそっと患部にガーゼを湿布させる。
「うっ!!」
痛いのか、小さな呻き声が聞こえた。
それでも我慢してくれたのか、暴れる事がなかったので、早く処置が終わった。
「取り敢えず、処置は終わりましたけど、他に痛いところとかありますか?」
「……いや、他は大丈夫だ。ありがとう」
「いえ、もし何かありましたら声を掛けて下さいね」
処置を終え、次の患者の方へと向かう。
皆同じような怪我をしていて、只管患部に軟膏入りのガーゼを湿布していった。
(少しは患者減ったかしら?)
周りを確認すると、思った以上に患者の数が減っていなかった。
一体何人者の患者がいるのだろうか。
調合師が応援に行っても、まだまだ人手が足りない。
それでも弱音を吐く訳にはいかない。
辛いのは患者なのだから。
私は必死に動き回った。
「処置は終わりましたが、まだ安静にしてないといけないので、動かないで下さいね」
「ああ、ありがとう」
「いえ」
そして次の患者の方へ向かおうとしたところで、一際騒がしくしている所があった。
そこには人集りが出来ていて、私は様子が気になり、野次馬の中に入って行く。
野次の中心に居たのは、見るにも無惨な姿の男性と、その男性を辛うじて支えていた男性だった。
「誰か!? こいつを早く助けてやってれ!! 重症なんだ!!」
男性は必死に叫ぶ。
だが何故か、周りに居る人達は見ているだけで誰も助けようとしない。
(どうして皆助けないのよ!?)
皆、霰もない姿の男性を見て、コソコソと耳打ちし合っている。
中には見て見ぬ振りをし、その場から離れる人まで居た。
「お願いだ!! こいつは俺を庇って……」
大の男が涙を流しながら、周りに居る医療術師に頼んでいた。
それでも彼らは、そんな様子を顕現そうな顔で見詰めていた。
その様子に限界を感じ、私は迷わず、男性の元へ駆け出した。
「私が診ます!!」
その一声に周りに居る野次や助けを乞うていた男性までもが驚いていた。
「いっ、いいのか?」
助けを求めていた本人が不安そうに聞いてくる。
「いいも何も、あなたが助けて欲しいって言ったのよ! こんな酷い状態の人を見て、ほっとけないわよ!」
「……あっ、ありがとう……」
男性は更に涙を流し、お礼を言った。