06.ポーション、そしてマナ
薬草園を堪能し終わり、私達はハウラ室長の先導で調合室の中に入る。
「ここを通った時に少し見たかもしれませんが、ここが我々がポーションを作る仕事場ですわ。そして、ここにいる人達が調合師達ですわ」
ハウラ室長が説明していると、調合師達は私達の方へ会釈する。
数としてはそこまで多くなく、数えて十人程度だった。
「調合師って思ったより少ないんですね」
「そうですわね。調合師よりは医療術師の方が圧倒的に多いですわ」
「医療術師?」
またもや新しい名前が。
これについてはジースさんが説明してくれた。
「医療術師とは所謂、マナを使って治癒する医師ですね。ポーションでは補えない怪我や病気などを治癒する者達です」
「成る程、私てっきり調合師が治療してるものと思ってました」
「調合師もある程度の医療は学んでますので、治療は出来ないことはないですよ。ですが、数としては圧倒的に医療術師の方が多いので、調合師は治癒は殆ど行ってないのです」
つまり、調合師はポーションを作る為だけにいる組織みたいだ。
自分は薬を処方する為に診断をして、出来るならば治療もする。高度な医療技術は持ってはないけど、一応医師免許は持っていたりする。
なので、調合師も治療を行うものだと思っていた。
「医療の知識があるのに、なんだか勿体無いですね」
「まぁ、そうですわね。でも騎士団が討伐に出る時は私達も駆り出されるので、別に平気ですわね」
「討伐?」
ファンタジー小説や漫画に出そうなワードがまたもや出て来た。
討伐ってアレだよね、魔物退治とかそういうヤツよね。
今までそういったモノに遭遇しなかったから頭に入っていなかった。
「あのぉ、討伐とはどういったモノを討伐するんですか?」
恐る恐る聞いてみる。
すると、王子が『何言ってんだ? こいつ』みたいな目を向けられた。
( だって、私はそういったモノとは無縁な世界に居たのだから仕方ないじゃない!
そんな、頭大丈夫? みたいな目で見ないでよ!)
そんな事を頭の隅で訴えていると、王子は仕方ないといった表情を浮かべ、説明してくれた。
「この王都から東に向かった所に魔物がいる森がある。そこは商人や運搬で使われている道があって、魔物や盗賊が相次いでいるんだ。そういったモノを討伐しているのが、我が城に仕える騎士団だ」
「…魔物、いるんだね……」
話を聞いた瞬間、落胆した。
どんな魔物かは知らないけど、あまり聞きたくなかった情報だった。
そんな暗い顔をしていると、ジースさんが心配してか、明るい情報を教えてくれた。
「大丈夫ですよ、カリンさん。我が城に仕える騎士団は皆優秀ですので。強力なマナの使い手を揃えています。
それに魔物や盗賊団などは、そう易々と王都に入って来ることは無いので安心して下さい」
ジースさんのフォローに少し安心する。
まぁ、あまり地方に出るなんて事ないだろうし、魔物や盗賊に遭遇するリスクも早々無いだろう。
そもそも行かなければいい話だ。
明るさを取り戻した所で、私は改めて調合師達の仕事を観た。
見た目は理科の実験室みたいで、試験管やフラスコなどがあった。おそらく、調合する際に使う道具なのだろう。
「ポーションは薬草を聖水に付け、熱した後にマナを注ぎ込んでいくんですわ。一見、簡単のように見えるかもしれないですけど、マナの注ぎ方がとても重要で、強過ぎても弱過ぎてもダメなんですわ」
ポーションを作るのにマナはとても重要な工程みたいだ。
それこそ、繊細さが問われる仕事のようだ。
「ポーションに種類があるのはご存知かしら?」
「あっ、はい。ジースさんに少し聞きました。確か、初級ポーション、中級ポーション、上級ポーションですよね?」
「ええ、そうですわ。ポーションに種類があるように、私達調合師も階級が設けられていますわ。まず、見習い、初級、中級、上級となっていまして、見習いは初級調合師と一緒に初級ポーションを作っていますわ。中級調合師は中級ポーション、上級調合師は上級ポーションとそれぞれ分かれてポーションを作っていますわ」
周りを見ていると、確かそれぞれ分かれて作業している。
その中に十代ぐらいの女の子二人がポーションを作っている様子が見受けられた。
おそらく見習いであろう。
一人はキビキビ動いているが、もう一人の眼鏡の子はオドオドとしていた。
ジーっと見ていると、キビキビしている子と目が合い、会釈をする。
すると、ムッとした顔になり顔を背けられてしまった。
(えっ? 何か無視された?)
呆然としていると、横から子憎たらしく鼻で笑う王子がいた。
「なっ、何よ!?」
「いや、あんな娘にまで完全無視されるお前に、つくづく可愛いそうなヤツと思ってな、つい小馬鹿にしてしまった」
そう言って、憐れな目でこちら見る。
(わっ私が何したって言うのよ!? 何でこんな事言われなきゃいけないのよ!! 相変わらず腹が立つぅーーーー!!!!)
この毒舌王子を睨み付けながら、私は腹立たしい感情をなんとか抑える。
ここで感情を爆発でもしたら、調合師達のお仕事を邪魔してしまう可能性が出て来る。
取り敢えず、今は我慢をして、見学に集中する。
「あの子達は三ヶ月前に見習い調合師としてここへ来たんですけど、少しクセがある子達で……。
あまり気を悪くされないでくださいね」
ハウラ室長は苦笑しながら答えた。
まぁ、『ん?』ってなったけど、怒る程でもないし、別に気にしていない。
「クセのある子達ですが、マナはとても強くて、見習いとしてはとても優秀ですわ」
「今年はマナの強い者が多く出ましたからね」
喜ばしそうに、ジースさんは語る。
それに対し、王子は厳しい目線で突いてきた。
「今年だけマナの強い者が出ても、次に強いマナの持ち主が現れるとは限らん。毎回マナの強い弱いの変動が激しい。それでは我が国の士気が下がる」
その言葉に、王子も国の事を考えなきゃいけないから、大変な立場なんだなぁとしみじみと思ったのだった。