30.入国、そしてヴァルト陛下と対面
もう一つの休憩ポイントとする町で一泊し、早朝再び出発した私達はやっと目的地であるウェンディース国城門前に着いた。
入国をするには手続きが必要らしく、大きな門の前には行列を成していた。列を見るに殆どが行商人の様だ。
「ウェンディース国は商業が盛んな街だからなぁ。先の事件で入国禁止令が出されてたから、解除されて皆商売の為にゾロゾロと来たのだろう」
行商人達を横目に王子は語る。
「私達は入国手続きとかしなくてもいいの?」
私達の乗る馬車は列の方に並ばず、列の横を通り、そのまま門の方まで向かっていた。
「俺達は既にウェンディース国に伝えてある。通行書もウェンディース国から貰ってるから、門番に見せれば入れる」
つまり優遇されている訳だ。
門の前に着いた私達は門番に通行書を見せて、楽々と門を潜り抜けた。
門を潜った先には多くの水が行き交うとても綺麗な街が現れた。ここが水の都と言われるウェンディース国である。
城下は王子の言う様に商業が盛んな為か、お店がいっぱい並んでいた。王子のいる国とはまた違う活気があった。
私達は中心に聳え建つ大きなお城の方まで向かった。
城の前の門を潜り、庭園を抜けた先で馬車は停止した。
「殿下、カリンさん、着きましたのでどうぞ!」
ジースさんは馬車のドアを開け、私と王子は馬車から降りた。
「カリンさん、ここがウェンディース国のお城、ミステリューズ・フェデオ城で御座います」
目の前に建つお城は王子の住むお城と変わらないぐらいの大きさだった。
それにしても凄い名前のお城である。聞くところによると"神秘的な水の妖精"という意味らしい。確かに意味を聞けばピッタリな名なのかもしれない。
城の扉の前にはメイドが数人とモノクルを掛けた白髪の執事が立っていた。
「ようこそお越し下さいました。私この城の執事をしております、クロノスと申します。
陛下の下へご案内致しますので、私に着いてきて下さい」
私と王子、ジースさんはこのクロノスという執事の後を追い、城の中へ入った。
ティナとアレク団長は荷物を卸して、控えているメイドと共に私達の泊まる部屋へと運んで行った。
城の中は色々な装飾品が施してあり、絵画や高価な花瓶まで飾られていた。王子の城はシンプルで少し落ち着いた雰囲気だが、ここの城は兎に角煌びやかとしていた。
「相変わらずの高価な品々で御座いますね。前に伺った時よりも増えている様に思うのですが」
「陛下は骨董品や絵画がお好きですから、集めている内に年々と増えまして、宝物庫に仕舞われるのは勿体無いと、城中に飾っているので御座います」
城中にこんな高価な物を飾ってると掃除の時、壊したり割れたりするのが怖くて気が気じゃない感じがする。いつも緊張感を持って無いといけないと思うと、私だったら疲れてしまいそうだ。ここのメイド達は凄いと思った。
高価な装飾品を横目に進んでいると、広い庭園の中に入った。庭園には薔薇が沢山咲いていて、剪定も綺麗にされていた。
暫く薔薇園を歩いていると、開けた場所に着いた。中心にはテラスが設置されていて、そこで優雅にティータイムをしている人が二人居た。
「陛下、アルカ殿下がお見栄になりました」
クロノスさんが「こちらに」と促し、私達は二人の前に立つ。
「ご無沙汰しております、ヴァルト陛下」
王子は腰を低くし、頭を下げる。ジースさんも王子の一歩後ろで同じ様に頭を下げる。
私は少し戸惑いながら、同じ様にした。
ヴァルト陛下は優しい笑みを浮かべ、顔を上げる様に促した。
「いやいや、今回頭を下げるのは私達の方であるぞ。我が国の危機を脱してくれて本当に感謝する」
「私も感謝いたします」
ヴァルト陛下とその横に立つ女性が揃って頭を下げる。
「ヴァルト陛下にセリヌ陛下、頭を上げて下さい。我が国にも被害があり、調べに調べて見つけ出したもの。禁書庫にあった古い文献と私の異能が役に立ちました」
王子とヴァルト陛下の会話に私は「ん?」となる。
チラッと横に居るジースさんの方を見ると、視線に気付いたジースさんがニコッと笑顔を向けて、人差し指をそっと口元へ持って行く仕草をした。
(……何か事情があるって訳ね)
私は敢えて何も聞かず、気付かないフリをした。
「ところでそちらの女性は?」
ヴァルト陛下が私の存在に気付く。視線が一気に私の方へと注がれた。
(え? これって自己紹介した方がいいの?)
一人戸惑っていると、ジースさんが紹介してくれた。
「こちらは殿下の専属をしております、カリンさんで御座います」
「あっ、えっと、カリンです! よろしくお願いします!」
私は慌てて挨拶をする。緊張していて少し声が裏返ってしまった。
「ほーぅ、専属を付けられたのだな。しかし女性とは驚いた」
ヴァルト陛下は顎に蓄えた白い髭を触りながら珍しそうに私と王子を見た。
前にジースさんに聞いた事がある。大体の専属は男性がやるのが基本で女性はメイドや身の周りのお世話訳が殆どらしい。王族に関わる役職に女性が入るなどあってはならないというのが古くからの習わしでいた。それ故、女性は政治的な発言や意見を述べる事が許されないでいたのだ。
しかし、そんな古くさい考え方では望む様な国にはならないと王子は考えている。女性だとか男性だとか性別など関係ない平和な世の中を創りたいと王子は思っている。
それでその一歩として私に与えられたのが、王子の専属なのだ。
「アルカ殿下の考えは良い事だと我も思うのだが、何せ気難しい者ばかりでねぇ、中々実行に移せんのだよ」
「私も一女性の身であるますから、アルカ殿下のお考えはとても素晴らしいものだど思っておりますわ」
ヴァルト陛下もセリヌ陛下もそういった偏見は持っておらず、王子の事を称賛していた。
「まぁ、何はともあれ遥々と足を運んで来てくれて感謝するぞ。夜までまだ時間があるからゆっくり休むといい」
「ありがとうございます」
王子は二人に軽く会釈をし、私達はその場を後にした。




