02.薬草採取、そして救助
あれから何ヶ月経っただろうか。
お爺ちゃんに薬師になれと言われ、日々薬草採取に出掛けている。
この世界の薬草は私のいた世界の薬草とは違く、名前を覚えるのに苦労した。でも、見た目や効能が似ているのもあり、覚えるのにそれ程掛からなかった。
生活も徐々に慣れて来て、今居る山も薬草採取で知り尽くしてしまった。
山はそんなに広い訳では無いけど、環境が良いお陰で薬草がある程度揃う。所謂、薬草の宝庫だ。
薬草オタクにとってこの生活はめちゃくちゃ最高である。
「さあて、今日も薬草採取に出掛けるか!」
毎日ワクワクしながら楽しく暮らしていた。
ある程度薬草は揃っているが、色々な種類の薬草が取れるので楽しくてついつい出掛けてしまう。
今日はもっと奥の方まで行ってみようと思う。
「そう言えば、私この山以外出た事ないんだよねぇ」
いずれは山から出て町や村で薬屋始めたいと思ってるけど、薬屋始めるのに土地の商談やらお金やらが必ずいるはず。
でも、私は今一文無し。
今まで食べ物も水も山で採れてたからお金無くてもやっていけたけど、町や村に行ったらそうはいかない。
「果たしてどうしたものか……」
そう言えば、異世界って言ったらモンスターとか居るのだろうか。
(見た事ないけど)
魔法とか使えるんじゃないのだろうか。
(使えないけど)
「……まぁ、その時になったら考えるか」
考えるのを諦め、薬草採取に専念する事にした。
山の奥には毒草がいっぱい生えてる。
何も薬草は治す為だけではない。毒や麻痺といった武器として使える事もある。
これは自分用であって売る訳ではない。
異世界に来て平和に暮らしているが、何が起きるか分からない。用心の為にお守りとして持っといて損はしないだろう。
この青くて綺麗な花を持つ薬草は《青い死者》と言われている毒草だ。私の世界ではトリカブトと似ていて、毒草としてはかなり有名な感じだ。
「これだけあれば良いかな」
バスケットに入れてある空のビンにいっぱい詰めて持ち帰る。
「さぁーて、家に帰ったらいっぱい毒作るぞー‼︎」
側からみたらヤバい奴だろう。毒草採ってはしゃいでる私は嘸かし奇妙な光景だろう。
だが、ワクワクを隠せずにはいられない。
何故なら毒を作るのは初めてだからだ。
今まで薬に関する知識はお爺ちゃんに教えてもらっていたが、毒に関しては教えてくれなかった。毒には興味あったしお爺ちゃんには内緒でこっそり毒に関する本を読んでいた。お陰で毒の知識は人並み以上だ。
「ど〜くど〜く、毒毒ど〜く!」
変な歌を口ずさみながらスキップしてる可笑しな少女。そんなレッテルを貼り付けられてもおかしくない有頂天ぶりだ。
ルンルンと気分上々に掛けていると奥の茂みからガサッと音がした。
「ん?」
音がする方を見る。
動物か何かだろうか。
薬草採取してる時、偶に動物が出て来る。それは小さい動物から大きい動物まで出ることがある。
私は小さい頃から何故か動物が目の前に現れても襲われたりした事は無く、どんな動物でも懐かれてしまうのだ。
この山に居る動物達も既に懐かれており、正直どんな動物が現れても怖くなかった。
音の大きさからして熊だろうか。
でもそれ以降音はせず、私は奇妙な面持ちで音のした方へと近づく。
茂みを掻き分けながらそっと歩み寄って見ると、そこには人が倒れていた。
「っ!!」
私は急いで倒れている人の側に近寄る。
「ちょっと、貴方大丈夫!?」
返事は無い。
倒れている人をゆっくり仰向けにして、腕を取り脈を取る。
「脈はあるわね」
次に顔色、口の中、身体の状態を診ていく。
痙攣に脱水症状が診られる。それに脈を診たところ、血圧が低くなっていた。それらの症状を元に考えるとこれは……。
「毒キノコ!!」
私は急いでバスケットの中にある解毒剤を取り出した。
薬草採取の際、いつも試し喰いをする癖がある。それは毒も同じで少量だが食べる時がある。それでいつも解毒剤は常備していた。
私は倒れている人の口元に解毒剤を流し込む。
「あとは水ね」
確か近くに川が流れていた。
私は空のビンを持って川の方へと走った。
(解毒剤飲んだとはいえ急がないと!)
足場が悪いのにも関わらず軽やかに走る。山の形状を知り尽くしてる上に山の道も慣れてる。木や枝を支えにして走れば転倒はしない。
走っていると川が見えて来た。
「あった!」
川の側まで行くと水を手で掬う。
ここの川は綺麗な水が流れている事が多い。一応、汲む前に飲んでみる。
「大丈夫そうね」
急いで水を掬う。
水が溢れないようにしっかり蓋をして元の道へと走った。
倒れている人の方に着くと急いで水を口の中に流し込んだ。
解毒剤も効いてきたのか血色が良くなり呼吸も安定していた。
「取り敢えず、一安心ね」
瞬時に対応が出来てよかった。もし見つかるのが遅かったらこの人は死んでいたかもしれない。
「それにしても綺麗な顔の人ね。男よね?」
綺麗に輝くブロンドヘアーに白く透き通る肌、服も何処かの貴族みたいな格好だ。
「さすが異世界ね。こういう美形がぞろぞろ居るんだわ」
私のいた世界では中々いない美形男子だ。小説や漫画に出る様なイケメンっぷりだ。
取り敢えず、地べたに寝かせるのもあれだったので、膝枕をしてあげた。
さすがに成人男性を抱えて家まで運べる程の力は無い。
目が覚めるのを待つ事にした。
木陰でとても涼しい。
小鳥の囀りが聞こえ、とても心地良い気分だ。
「偶にはのんびりして過ごすのも良いかもしれないわね」
ここずっと薬草採取やら山散策やらでのんびり過ごす事をしてなかったと気付いた。休もうと思えば休めたのだが、好きな事をするとどうしても夢中になって突っ走ってしまう。
私の悪い癖だ。
良くそれでお爺ちゃんに怒られていた。
だが、癖を直せと言われてもそれは中々直せるものでもはなく、これは私にとっての個性なのだと前向きに考えていた。
だから直す気はない。
周りはかなり迷惑掛けていたと思うけどね。
色々な事を思い出していたら懐かしくなって来た。
「みんな元気にしてるかなぁ」
急に居なくなってるからきっと向こうの世界は大騒ぎだろう。親も心配してるだろう。
でも、ある意味私はこの世界に来て良かったと思っている。お爺ちゃんの死で心が空っぽになっていたから、この世界は唯一私の心を明るくする切っ掛けとなった。
まぁ、親不孝者と言われても仕方ない発言だけどね。
そんな事を思っていたら、男の人が少し動いた。
「あっ、目覚めました?」
男の人の目がゆっくりと開く。
「……っん、ここは……何処だ?」
どうやら気が付いたようだ。
綺麗なルビー色の瞳が私の方へと向けられる。何処か吸い込まれそうな瞳だ。
「あっ、えっと……身体大丈夫? 痺れとかない?」
思わず見惚れてしまった。
動揺を隠しながら男の人に聞く。
「…ああ、大丈夫だ」
男の人は手を握ったり開いたりして動作を確かめる。
「痺れもない」
それを聞いて安心した。
毒を食べて後遺症が残る人もいる。早い対応で良かった。
「……お前が俺を救けたのか?」
「あっ、うん。薬草採取の帰りに貴方が倒れていたのを見掛けてね。でも早く対応出来て良かったわ。貴方、毒キノコ食べて倒れてたのよ?」
「毒キノコ?」
「そう、覚えてない?」
男の人は記憶を辿ってるのか考え込む。
「…そう言えば、腹が減ってそこに生えてる綺麗な模様のキノコを食べた気がするな」
「多分それね。キノコは殆ど食べれない物が多いから、専門な知識がないとダメなのよ。特に綺麗な模様とか鮮やかな色のキノコは大半が毒キノコだから絶対食べてはダメよ!!」
一応キノコにも詳しい。良くお爺ちゃんと一緒に山菜やキノコを取りに行って詳しくなった。
「…それよりお前は誰だ?」
「あっ、えっと私はカリン、この山の麓に住んでるの」
「この山の麓に?」
「うん、薬師をする為この山で薬を作ってるの。この山薬草が大量に摘めるから」
まぁ、いつかはこの山を離れないといけないんだけどね。
「薬師?」
"薬師"と聞いた途端、急に目の色が変わる。
「う、うん」
少し戸惑う。
(なんだろう。この人の目を見てると見透かされる様な不思議な感じがして目を逸らしたくなる)
それでも身体が凍りついてるかの様に目が逸らせない。
男の人は私の答えに少し考える素振りをして、次にニヤリと口の端を上げた。
「お前気に入った!」
「えっ?」
「お前、俺の側にいろ!」
「……へ?」
男の人は不敵な笑みで私を見る。
聞き間違いだろうか。今俺の側にいろって聞こえた様な……。
「あのぉ、もう一度お願いしますか? 私聞き間違えをしたみたいで……」
「この俺に二度も言わせる奴はお前だけだぞ。まぁいい、もう一度言ってやる。俺の側にいろ!」
この美形で麗しい顔した男が悪魔のように笑みを向け、私を見る。
聞き間違いだと思いたかった。でも、聞き間違いでは無かった。
(なっ、どっ、どう言う事なのおおぉーーーー!!)
叫ばずにはいられなかった。
ちょこちょこ執筆してるので中々投稿に時間が掛かると思いますが、これからもよろしくお願いします。