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25.陛下登場、そして混乱とドキドキ

 

 まだ朝日が昇らない時間帯に私とティナは城の裏門の前に立っていた。

 周りは深い霧が立ち込めていて、視界が真っ白に染まっていた。


「……遅いわね」

「そうですね」


 裏門で待つ事十五分。王子とジースさんが中々現れない。待ち合わせ場所を間違えてるのかと思ったが、ティナが聞き間違うとは思えず、ただその場で待っていた。

 正直朝は冷え込んでいた。ずっと動かず待っているのが辛かった。


(早く来てよぉー……)


 白い息をハァーハァー言わせながら手を温める。

 見兼ねたティナが荷物から手袋を出してくれた。


「カリン様、手袋を用意しておりましたのでお使い下さい。それと(わたくし)のでありますが、このケープもお使い下さい」


 ティナは私に手袋とケープを着けてくれた。手袋もケープもふわふわしていて暖かかった。


「私が使っちゃっていいの? ティナだって寒いでしょう?」


 メイド服とは言え、ティナだって寒い筈だ。心配をする私に対し、ティナは平気な顔で大丈夫と答えた。


(わたくし)の住む地域はとても寒い気候な所なので寒さには強いのです。ですのでカリン様は心配なさらなくても(わたくし)は平気ですので、どうか安心なさって下さい」


 私を安心させる為か、ティナは笑顔を向ける。その笑顔に私は少し安心する。

 暫く待ち続けていると門の方から馬車の走る音が聞こえて来た。やっと来たかと思い、文句でも言ってやろうと音のする方向を見ると、何故かティナが私の目の前に立ち姿勢を正していた。

 どうしたんだろうと疑問に思い、ティナに声を掛けてみる。すると馬車が私達の横に停車したと同時にティナは深々と頭を下げ始めた。

 更に訳が分からなくなり、馬車の方へ目を向けると、そこには王子ではなく知らない男性が乗っていたのだ。男性は年齢が少しいっているのか、顎に髭を蓄えていた。それでも容姿がとても良く、ダンディなオジ様な感じだ。


(誰だろう?)


 疑問に思いつつ、馬車の窓から覗くオジ様を見詰めていると、オジ様の目が合い、少しドキッとしてしまった。オロオロしていると馬車のドアが開き、そのオジ様が降りて来た。


「こんな所で何をしてるんだね?」


 少し威厳を感じさせる面持ちだ。

 ティナは頭を下げたまま答えた。


「お帰りなさいませ、()()(わたくし)は殿下の側にお遣いする使用人で御座います。殿下に隣国までお供する様申し付けられましたので、此処で殿下をお待ちしておりました」


 ティナの()()という言葉に私は目を見張った。


(へっ陛下って、つまり王様!?)


 私は驚愕して口をパクパクする。

 すると王様は目線をティナの方から私の方へ移った。


「それで? 君も使用人か何かかい?」


 急に話を振られ戸惑っていると、ティナが更に私を後方へと追いやる。まるでこの王様から私を隠すかの様に――――。


「こちらの方は使用人では御座いません。殿下のお客様で御座います」


 ティナは冷静な態度で説明する。

 だがティナの丁寧な説明に対し、王様は皮肉を含ませる言い方で返して来た。


「ほぉーう、アイツは客を隣国まで連れて行くのか。随分と気に入られている様だねぇー」


 王様は私の方をジロジロと見ながら、顎に蓄えた髭を触る。


(なんか……嫌な感じ……)


 この人は根本的に苦手だと思った。あまり人に対して苦手意識を持つことはないのだが、人を試す様な、馬鹿にする様なジトーッとした視線が不愉快で堪らなかった。

 私は一歩後ろへ下がる。この人から早く離れたい。


「ん? どうしたんだい? 顔色が悪い様だが――――」


 私の様子の変化に気付いた王様が、私の方へゆっくりと手が伸びて来た。

 私は咄嗟に目を(つむ)り、顔を背けた瞬間だった。


「父上!!」


 その声と共にその場の空気が一変した。

 私はゆっくりと目を開いてみると、私の方へ伸びていた王様の手が止まっており、王様はある一点の方を見詰めていた。

 私も王様の見詰める先を見てみると、そこには馬車から降りた王子の姿があった。

 王子はゆっくりと私達の方へ近付いて来る。


「父上、そこに居る女性には触れないで頂きたい」

「……何故だね?」

「この女性は私の連れです。お引き願いたい」


 王子は王様の前で止まり、いつもとは違う顔付きで話す。

 王様は眉間に皺を寄せ、王子の方を見る。

 そこへ王様が乗っていた馬車の御者が割って入って来た。身なりからしておそらく王様付きの執事であろう。


「殿下! 幾ら殿下とは言え、陛下に対して失礼でありますぞ!」


 執事は王様の背後に立ち、王子に注意をする。その際、執事の掛けているモノクルが反射して光る。


「お言葉ですが、殿下! あなたは――――」

「もうよい」

「ですから…………はい?」

「もうよい、セバス行くぞ」

「はっ、はい!!」


 執事は慌てて馬車の方へ向かう。

 王様は最後私の方へ目を向けたが、そのまま踵を返し、眉間に皺を寄せたまま馬車へ乗り込んだ。


「……」


 私は張り詰めていた緊張が解けた所為か、身体の力が抜け、その場でよろけてしまった。


(……駄目、チカラ……入らない……)


 目の前がスローモーションに流れてく。もう倒れてしまうと思い目を瞑ると、グッと持ち上げられる感覚とフワッと柔らかい感触が肌に伝わるのを感じた。


(……あれ? 痛くない……)


 それに微かに香るシトラスが鼻を掠める。

 私はゆっくりと目を開ける。


「大丈夫か?」


 声のした方を見上げると、そこには王子の顔があった。あまりにも顔が近かったのもあり顔が急激に熱くなる。


「なっ!?」

「ん?」


 動揺する自分とは対照に、王子は毅然とした態度だ。おそらく慣れているのだろう。王子は何をしてるんだと私を呆れた目で見ていた。

 私は急いで体勢を戻す。


「あっ、ありがとう……」


 動揺し過ぎて王子の顔が見れない。

 すると馬車の方から小走りで近付いて来る人影が見えた。私は少し顔上げ目を凝らして見ると、そこには慌てた様子で駆けて来るジースさんだった。


「カリンさん、遅れてしまい申し訳有りませんでした! まさか陛下がこんなにも早くお帰りになるとは思わなかったものですから……」


 ジースさんは本当に申し訳ない顔をして頭を下げる。

 私は慌ててそれを制した。


「だっ、大丈夫ですから頭を上げてください! ちょっとビックリしましたが何かされた訳でもないですし、そんなに気にしないでください!」

「ですが……」

「本当に大丈夫ですから、それに王子が間に入って来れましたので私は平気です!」


 私は少しでもジースさんを安心させる為、笑顔で答えた。

 私の笑顔が少し効いたのか、ジースさんはこれ以上何も言わなかった。


「それでは(わたくし)は馬車を回して来ますので少々お待ち下さい」


 ジースさんは馬車の方へ向かう。


「殿下、申し訳有りません。(わたくし)が付いていながら何もお役に立てませんでした」


 ティナもまたジースさんと同様に申し訳ないといった顔色をして頭を下げていた。

 だが王子はそれを咎めることはしなかった。


「いや、ティナが側に居て助かった。礼を言う」


 王子がお礼をする姿が余程珍しかったのか、ティナは目を丸くして驚いていた。


「今後もコイツを頼むぞ」


 王子の期待に応えるべく、ティナは再び頭を下げた。

 そうこうしている内に馬車が側までやって来た。


「それではカリン様、(わたくし)は荷物を積みに参りますのでお先に失礼します」


 ティナは自分の荷物と私の荷物を持ち、馬車まで運んで行った。


「俺達も乗るぞ」

「あっ、うん」


 私は王子の後に続こうと足を動かすもチカラが出ず、膝がカクンッとなった。


「あっ!!」


 また転ぶと思っていると、王子が気付き、私を支えてくれた。


「お前、全然大丈夫じゃ無いじゃねぇか」

「うっ、うん……本当にごめん……」


 情け無い気持ちと申し訳ない気持ちが入り交じり、何だか悲しくなって来た。

 私は取り敢えず体勢を戻そうとしたが、それを王子が許さなかった。

 急に王子が私の腰を抱え、身体がフワッと宙に浮いた。所謂、お姫様抱っこだ。


「っ!?」


 お姫様抱っこなんて人生初な為、どうしていいか分からず混乱する。


「おい、しっかり捕まっていろ。落ちるぞ」


 王子はなんてことないのか、整然としている。私だけが慌てていた。そんな態度に何だかムカつく。それでもドキドキと恥ずかしさが上で、顔は真っ赤だ。

 私は恥ずかしくて俯きながら、控え目に王子の首に手を回す。

 王子はそれを確認すると馬車の方へと向かった。



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