11.古代文字、そして王子の優しさ
王子の側まで行くと本を渡された。
「手を出せ」
少し躊躇いながらも手を前に出した。
すると王子がそっと手を添えて来たのだ。
「っ!?」
びっくりして思わず、手を引っ込めそうになるが、王子が手をしっかり掴んだもんだから出来なかった。
「動くな」
そう言って、私の手を開かせ、指の方に手を持って来た。
そして次の瞬間、チクッとした痛みが指の先で感じた。
「っ!!」
指を見ると小さな赤い玉が出来ていた。
いつの間にか王子はまち針の様な物を手にしていた。
どうやらそれで私の指を刺したみたいだ。
「ちょっ、痛いじゃない!! 何するのよ!!」
「いいから、俺の言う事を聞け」
有無を言わせない程の一方的だ。
何も言い返せないまま、続ける。
「本の背表紙にその指でゆっくりなぞれ」
さっき受け取った本の背表紙を自分の方に向ける。
この題名も何も書かれていない背表紙に、王子に刺された指を押し付け、上から下へ、ゆっくりなぞっていく。
すると、なぞったところから金色の光が溢れ、字が浮き出て来たのだ。
「えっ、ちょっ、これどうしたらいいの!?」
あまりにも突然の事でどうしていいのか分からず、一人慌てていた。
そんな私の慌てっぷりにも動じる事ない王子は、何事もない様に先に進める。
「浮き出てる字を読め」
読めと言われ、字を見る。
「…………」
「……どうした?」
いつまで経っても読まない私に、王子が聞いてくる。
「……読めない……」
「は?」
「読めないの!」
そう、背表紙に浮き出て来た文字が読めなかったのだ。
ここの世界の文字はお爺ちゃんの残した本で辛うじて読める様になったが、この文字だけは読めなかった。
「お前、字も読めないのか?」
そう言って、浮き出てる字を王子も見る。
「…………」
そして、王子も黙る。
「殿下、どうされましたか?」
今度はジースさんが聞く。
「……ジース、お前が読め」
ジースさんは疑問になりながらも、王子の命に従う。
そして文字を見た途端、ジースさんは納得した。
「成る程、そういうことですか。カリンさん、これは古代文字ですね」
「古代文字?」
「はい、遙か昔に使われていた文字でして、専門的に教えがないと読めない文字なんです」
「ジースさんは読めるんですか?」
「はい、私は代々王家のお側に仕える家系ですので、そういった教養も叩き込まれているのです」
なんだかジースさんが凄い人に見えて来た。
私は背表紙に浮き出た文字を読んでもらうことにした。
「これはですね、"我、赤き血にて契約を解かん"ですね」
私はジースさんが言ったことを復唱する。
「我、赤き血にて契約を解かん」
すると本が全体的に光を放ち、表紙が勝手に開かれた。
開かれたページには古代文字で何か書かれていた。
「"汝、契約を守りて我に使わん"と書かれていますね。恐らくですが、この本の持ち主であるお爺様と交わされた契約なのでしょう」
「でも、契約って何の契約なんですか?」
「それは、この本を見る限り書かれていませんね」
それではどんな契約内容か分からないではないか。
「それはまた後でいいだろう。今は治療法を探すのが先だ」
王子に言われ、確かにと思い、ページを捲る。
幸いにも本の内容は古代文字では無かったので読めることが出来た。
ペラペラと捲り、それらしい文がないか、必死に探す。
そして――――。
「…これっぽくないですか? ここにイフリートって書いてある」
王子とジースさんが開いてあるページを見る。
そして王子に促され、ジースさんがその書いてある内容を読み上げる。
「曾ての古に生きしモノ、炎獄の神の持つ術、地獄の業火による負傷者が幾人も現れた。その特効薬を求め、遂に特効薬となる薬を見つけ出すことに成功した。その特効薬となる薬の原料とは、ヒカゲノカズラ、ヒガンバナ、オリーブ、聖水、これらを擦り潰し出来た物を患部に湿布する事により緩和される、と書かれています」
話の内容からして手に入る物ばかりだった。
「ハウラ室長、これらの材料を至急用意出来ますか?」
「ええ、用意出来ますわ」
ハウラ室長はそう言って、薬草を取りに急いで向かった。
私は心配そうにしてるアレク団長とその横で今も苦しんで治療を待つフォレス団長の側に行く。
「安心してください。何とか治療法見つけましたので、もう暫く辛抱してて下さい」
「はい。ありがとうございます……」
私は取り敢えず、ハウラ室長が戻って来るまでアレク団長の火傷などを治療する。
暫くするとハウラ室長が戻って来た。
「持って来ましたわ!!」
走って来たのだろう、肩で息をしているのが見えた。
「ありがとうございます!」
ハウラ室長が持って来た材料で私は急いで薬を作り始めた。
すり鉢の中に本に書いてある材料を入れ、擦り潰していく。
そして私はカバンの中からある物を取り出した。
「おい、それ……」
「そう、あなたが気に入って食べてた貴重なハチミツよ」
私はそれを躊躇無くすり鉢の中に入れた。
「かっカリンさん!? 本には書かれて無い材料ですよ!? 大丈夫なんですか!?」
そう、本には何処にもハチミツを入れるなんて一言も書いていない。私の独断で入れたのだ。
「ハチミツには保湿成分やビタミンCが豊富なの。それに粘土質だから少し入れると湿布しやすくなるのよ!」
ハチミツが薬と馴染むまで混ぜる。
「出来た!!」
私は急いでフォレス団長を蝕む黒いシミに塗る。
その上から清潔なガーゼで押さえて湿布していく。
そして全部の箇所に貼り終え、一息付く。
「……これでもう大丈夫だと思いますよ」
「あっ……ありがとう……ございます……」
「いいですよ。それより、あなたも黒いシミ移ってるみたいだから治療しますね」
そう言って、アレク団長の治療も行った。
幸いにも、フォレス団長より酷くなかったので治療も早く終えた。
「本当にありがとうございます。治りましたら改めてお礼を言いたいので、名前を伺っても宜しいでしょうか?」
当たり前な事をしたので、別にお礼なんて良かったのだが、アレク団長の推しが強く、教える事にした。
「薬師をしているカリンです」
「薬師のカリンさんですね。では、治りましたら改めてお礼に参ります」
そう言って、アレク団長は深々と礼をして、眠っているフォレス団長と共に別棟の方へと移動した。
さっきまで居た野次も散り散りになり、皆自分の持ち場へと戻っていた。
私もまだ治療が終えてない所へ行き、手伝う。
丁度薬がなくなる頃には、皆の治療がある程度終えていた。
窓の方を見るといつの間にか空が茜色になっていた。
(もうこんな時間経っていたのね)
私は一気に緊張が解けた。
その場が落ち着いた頃、私の背後から二人が現れた。
「カリンさん、お疲れ様です!」
「……ジースさん」
「よくやった。アレの治療法を見付けたのはお手柄だ。その事は早急にウェンディース国に伝えるよう手配したから、感染が抑えられるだろう」
「カリンさん、あなたは国を一つ救ったんですよ! とても凄い事ですよ!」
「ああ、本当によくやった」
そう言って、王子は優しく微笑み、私の頭を撫でて来た。
「っ!?」
不意を突かれ、思わず見惚れる。
(そっ、その笑顔は反則よっ!!)
普段は口の悪い意地悪王子だが、顔は超整ったイケメンなので、やはりドキドキしてしまう。
そんな私の心境なんてつい知らず、王子はスッと手を離した。
「ジース、ある程度終わらせたらこいつに部屋に案内をしてくれ。あと食事と風呂も」
「はい、畏まりました」
そう言って、王子は部屋を出て行ってしまった。
「殿下はこの後、書類整理等、お仕事が残っていますので」
「忙しいのね」
「本来は終わらせてる仕事なのですが、今日は色々ありましたからね。それにカリンさんが少し心配だったんではないかと思います」
「なっ、そんな事ないですよ! あの王子が私の心配なんてする筈ないですよ!」
「そんな事ありませんよ。普段あんな態度ですから勘違いされてしまう事が多いですが、本当はとてもお優しい方なんですよ」
ジースさんは王子が出て行った方を見詰め、優しく語る。
確かに、意地悪な部分は多いけど、さっきもそうだし、神眼だって自分の身を削ってまで使ってくれた。ジースさんの言う通り、優しい人なのかもしれない。
それでも私の為とは到底思えなかった。
一人悶々としていると、側にハウラ室長がやって来た。
「カリンさん、今日は本当に助かりましたわ」
「いえ、お手伝い出来て良かったです」
「患者の方も少なくなって来ているので、此処はもう大丈夫ですわ。今日はゆっくりなさって下さい」
そう言って、ハウラ室長は笑顔でお礼をして、また持ち場へと向かって行った。
「カリンさん、お部屋の方へ案内しますので着いて来て下さい」
「あっ、はい!」
ジースさんに促され、私は慌てて後ろに着いて行った。




