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女子ばいくぶっ!  作者: 吉田松陰
3/3

キャブレターそのにと廃車証明書

作中でこんなこと言ってるけど葉加瀬の元になった人には感謝してます。

 でも実験バックれたのは絶対許さん。



 「全部買ってきて取り付けたぞ」


 翌日昼過ぎ、昼食を済ませた私は葉加瀬に連絡を入れ、手筈通りにメインジェットとパイロットジェット(スロージェットじゃなかった。違いはパイロットは燃料のみを規制し空気と混ぜるのは別のところが行う)を取り付けた。


 『で?もう試したでしょ』


 「ダメだった」


 『キルスイッチは____


 「ONだったしコックも確認済み。なめんな」


 ____でしょうね。取り敢えずアイドリングスクリューとエアスクリューを確認してみて』


 ※キルスイッチ:アクセルが開きっぱなしになった時や転んでしまった時などの緊急時にエンジンを止めるスイッチ。初心者がエンジンがつかないと言ってる時はこれを確認してみるといい


 ※コック:燃料コックのこと。タンクからキャブレターに燃料を送る際の供給経路を開閉するバルブであり、ON、OFF、ON状態でガソリンが切れてしまった時の緊急用にタンクの隅までガソリンを吸い込むことができるRESリザーブの3つがある。初心者がエンジンがつかないと言ってる時は以下略。


 ※アイドリングスクリューとエアスクリュー:キャブレターについてる2つのねじ。アイドリングスクリューはアイドリング時の回転数を、エアスクリューは混合気の空気とガソリンの割合をキャブレターの外からねじの開け閉め調整できる。


 そういわれ、キャブレターを覗き込む。

 流石にバーディーで慣れたもんだ、と思っていたがどうにもおかしい。


 「おい、みたことのない穴があるぞ。プラスのネジと、なんか変なもんが入ってる奴の2つだ」


 『は?ネジがないとかあり得ないでしょ』


 「ないもんはないんだわ」


 『ちょっと待って写真送って』


 そういわれたので写真を撮って送る。


 すると一瞬の沈黙の後にため息が聞こえてきた。


 『あー、これホンダの特殊ネジだわ』


 「特殊ネジ」


 『多分D型。店持ってかなきゃいじれないよ』


 「何故そんなことを」


 『店に持ってきてもらうため』


 「銭ゲバめ」


 つい心根がもれた。

 しかしどうするか。


 『多分特殊ネジの方が混合機の割合だからプラスの方をいじってみよう。まず1回全部閉じてから少しずつ開けながらセル回してみて』


 そういわれ、いわれるがままにやってみたがエンジンはうんともすんとも言わず。

 葉加瀬は『圧縮があるならキャブだと思うんだけどなあ』とかぼやいてた。

 

 「取り敢えず今日はここまで。明明後日に実験あるけど絶対来いよ」


 『わかってるわかってるって。じゃあまた3日後ね』

 

 相変わらず不安である。

 まあ取り敢えずは今日はここまでにして、本文である学生としての勉強をするとしよう。

 そう考えながら通話を切り、工具の片付けを始めた。






 「ああ、葉加瀬のこと無視していいから」


 そしてその3日後。

 佳奈による葉加瀬の全否定から第6回チキチキ以下略は始まった。

 理系特有の前準備にクソほど時間がかかり後始末とレポート提出にその倍くらい時間を費やす実験という授業を終え、二徹の眠さを引きずりながら食堂に招集をかけてみたところ、佳奈が来てくれた。

 大学生は遊べるとか言った奴どこのどいつだ。


 「前のオーナーからエンジンの腰下死んでるって言われたから動くわけないのよ」


 「あいつただでさえ実験に顔出してないのに整備でも役に立たないとか存在価値あるのか」


 ※エンジンの腰下:エンジンのピストンやクランクシャフトという、エンジンのピストン運動を回転エネルギーに変換する役割を持つ軸とそれらをつなげるコンロッドが入っている部分のことを指す。


 案の定、同じ電気工学専攻で実験のグループも一緒の筈の葉加瀬は実験にすら顔を出していなかった。

 今度会ったら血祭りにあげてやる。

 なお佳奈の専攻は化学。

 バイクにほとんど掠らなそうなのに何故詳しいのかは、単純に実家がバイク屋をやっている。


 「というわけだから早いとこエンジンの載せ替えした方がいいよ。スペアエンジンは渡したでしょ」


 「一人でできるかね」


 正直不安だ。

 小さい頃にラジコンカーを直そうと分解して結果的に最後の一撃を加えたことになってしまったのを思い出す。

 あれは切なかった。


 「結構簡単よ。エンジンの方も同じだし外した時の逆の手順でつければいいだけだもの」


 「それなら一人でやってみようかね」


 「なんかあったら連絡入れてくれれば力になるよ」


 「助かる、それじゃあいい加減眠いし帰るわ」


 そのまま席を立つ。

 そろそろ眠気も我慢できなくなってきた。


 「気をつけてね」


 「そっちもね。あと葉加瀬見つけたら指の骨全部折るって言っておいて」


 「そこまでしなくても……」


 「アイツがいないせいで実験おわんなかったんだよ」


 「訴訟も辞さないわ」


 そんな言葉を背中に受けながら食堂を出た。

 せっかくだし明日はナンバーでも取り行ってみるかな。






 そんなこんなで無事帰宅し惰眠を貪ったのだが、次の日。


 「書類がないんだが」


 『譲渡証明書書けばいいじゃないの』


 まずナンバーを取りに行こうとした際、書類がないことに気づき即時佳奈に連絡を入れた。

 てっきりシートの下あたりにでも挟んでるものだと思ったのだが、どこをみても見当たらない。


 「いやそんな簡単じゃないだろう」


 そもそもあの原付にナンバーがつくかどうかが怪しくなってきた。


 「電話で聞いたんだよ役所に。そしたら廃車証明書がないとって」


 『あらま。こっちなら車体番号の石刷り有ればナンバー取れるのに』


 ※石刷り:車体番号の上に紙などを貼り、上から鉛筆で擦ると車体番号が紙に写る。書類をなくした際などに車体の証明として代用される。


 簡単に言ってくれる。

 地方自治体によってナンバーを取る難易度は違うと聞いてはいたが、ここまでシステムや意識ともに差があるとは思わなかった。

 もう面倒になってきた。


 「ていうか廃車証明書はどこ言ったんだ?それさえ有れば解決だろ」


 『前のオーナーが無くしたって』


 「それもう詰みでは」


 いやそうはならんやろと言いたいが、既になっているのがどうしようも無い。

 てかこれどうすんだ。


 『それなら石刷り送ってくれればこっちでナンバー取ろうかそれでそっちに書類ごと送れば』


 「こっちで届け出を出せばいいのか。名案だな」


 『そーゆーこと。それなら大丈夫でしょ』


 なるほど頭いい。

 なんか法の穴をついてるような気分になるが、悪いことをしているわけではない。


 「じゃあ任せてもいいかな」


 『何も知らないのに現状でぶん投げたのは私だしね』


 「すまん。恩に着る」


 『いいってことよ。じゃあね』


 そう言って通話を切った。

 それじゃあ早いとこ石刷りを取ってしまおう。






 といっても、やることは簡単。

 まず車体番号の刻印を探す。

 マグナ50の場合、燃料タンクの左側のフォークとの間にある。


 ※フォーク:バイクの前輪をフレームと繋げている部分のことを指す。衝撃吸収のため中にサスペンションとよばれる大きなバネのついた部品が入っている。


 そこに紙を貼り付け、鉛筆で軽く擦るだけだ。

 この時力はあまり加えず満遍なくやるといい。

 また、私の場合だが鉛筆はあまり硬すぎず、濃いタイプを選ぶとやりやすかった。

 そうして取れたものを封筒に入れる。

 その際あまり書いた部分にできるだけ触らないこと。

 触ると文字が滲んでしまう。

 あとは宛名を書いて郵便で送るだけだ。


 「切手なんて久々に見たな……」


 平成1桁台の記念切手を封筒に貼り付ける。

 そのまま近くのポストへ出しに行った。

 しかし、まさか廃車証明書がないとは……

 まさか盗品なんてことはないだろうが、面倒なことにならなければいいが。






 その懸念は正しく。


 【あのマグナ、廃車されてなかったらしいんだわ】

 


 すこぶる面倒なことになったのである。

  

エンジンハンガーボルトどっかいったンだわ。

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