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女子ばいくぶっ!  作者: 吉田松陰
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プロローグ

わからんことばっかりなんです。


 東京都の北西側の隅にある日本でも有数の狭い街がある。

 都内の栄えた地域へは車で楽にいける程度には近く、また山梨や埼玉などの自然豊かな場所にも近いためそこそこ気に入っている街だ。

 その更に隅の一軒家に、私は住んでいた。

 まあまあの女子大の工学部に入り、惰性で過ごしていた時に私はバイク部に出会った。

 小さい頃、父親がスティード400に乗っていたのに憧れていたこともあり、私は大学に入学と同時にバイク部に入ったのだが、残念ながらバイクの免許を取るほど暇もなければお金の余裕もなく。

 結果、唯一の自動二輪免許未取得の部員としてなんとなく部活に通っていた。


 「カナ、SE方向に敵いるぞ」


 『りょーかいヒロミ、ちょっと死んでくるね』


 「なんでやられる前提なんだよ……」


 現在は8月上旬、立秋の候である。

 もうこの時期になると大学生の夏休みはやることも無くなってくる。

 となると、結局クーラーの効いた涼しい部屋でゲームしてるのが一番いい時間の使い方だ。

 そういうわけで、私こと浅田裕美は同じ部員の吉田佳奈とオンラインでゲームをやっていたのである。


 『そういえばヒロミはあのポンコツバーディーまだ乗ってるの?』


 「あれが壊れたら無収入になるんだが」


 私が今年の3月ごろにネットオークションで買ったSUZUKIのバーディー。

 2004年式でセル付きのはずがなぜかキックだけという曰く付きの一品だ。


※セル:セルフスターターの略称。電力でスターターモーターを回しエンジンを始動するためスイッチひとつでエンジンがかかるがバッテリーが放電しているとエンジンがかからなくなる。


※キック:キックスターターの略称。足踏み式のレバーを踏むことによってエンジンを始動する。物にもよるが電力を使用しないため、セルが作動しない際の予備として小排気量のバイクによく取り付けられている。


 バイク部に入っておきながら何もバイクを持ってないのもどうかと思ったのと、最近流行りの自分のバイクで配達するタイプのバイトに興味があったり、また趣味の昆虫採集での足が欲しいこともあって購入してみたのだがこれがなかなか使えるのだ。

キャブレターからのオーバーやチョークレバーの固着などあったが、友人で家がバイク屋ということもありバイクに詳しい佳奈の助けもあり普通自動車免許しか持ってない私も素人ながら直して乗ることができている。

 ちなみに佳奈は普通自動車の他に普通二輪も持っている。


 『あんなポンコツがよく持つよなあ。排気が2ストかってくらい臭うし、いつとまるかわからないよ?』


 「新しい原付がタダで生えてくれば直ぐにでものりかえるんだがな」


 ※2スト:2ストローク機関の略称。本来4つの行程でエンジンが動く4ストローク機関が主流だが、2ストは2つの行程でエンジンが動く。構造が単純で安価な上小型で作れる割に出力が大きいが、排気ガスに未燃ガスが混じり匂いがひどくなるほか燃費も悪い。


 原付はちゃんとしたところで買おうとすると総額20万前後かかることもある。

 東京都の最低賃金が1000円を上回ったとはいえ単純計算で200時間、1日8時間働いても25日はかかる。

 色々と金がかかる上に結構忙しい理系の大学生には厳しい話だ。

 この短い間に揃って二人ともゲームオーバーになり、見慣れたロビーが画面に映った。

 ため息を吐きながらコントローラーを置くと、佳奈がロビーから退出した。


 「なんだ、今日はもうしまいか」


 今日はまだ一度も勝っていない。

 せめて一勝くらいはしたいもんだと文句を言っていると、佳奈がなんでもないように言った。


 『いや、いまラインでいらない原付を引き取ってほしいって言われたんだけどさ』


 ヒロミ、欲しくない?


 もちろん二つ返事で了承した。


 ただいまの時刻は午後6時、日没まであと少しという時間であった。






 「それで、お前んちってどこにあったけっか」


 「えーっと、千葉だけど」


 「わたしんちはどこだっけ」


 「東京の隅っこだよね」


 「じゃあなんでその日のうちに届けようとしたんですかねぇ……」


 時刻は午後10時頃。

 佳奈が軽トラに乗って我が家の前に現れたのである。

 あの後原付を受け取りに行った佳奈は、その足で私のところまで届けに来た。

 100km程の距離を、高速道路を使わずに。

 こいつ頭おかしくないか。


 「ていうかここらへんやばくない?無灯火が平然と大通りを走っててすごい怖かったよ」


 「千葉の族よりはマシだろ」


 ※無灯火:ヘッドライトがつかない状態のこと。この状態で公道を走るのはもちろん犯罪である。


 ※族:暴走族のこと。違法改造などをして迷惑な走り方をするゴミみたいな奴らのことを私たちはまとめて族と呼んでいる。最近は大衆が想像するように何台も集まって走るのではなく一人二人で走ってるのをよくみる。クソやかましくて睡眠妨害だし普通に危険なんでマジで悔い改めてバイク降りろ。車も乗るな。


 「まあそれより、さっさとバイクをおろそう。近所の目が痛い」


 「ノリで来ちゃったけど迷惑だった?」


 「現物見たらそんな気持ち吹っ飛ぶだろ」


 そう言いながら手早く軽トラからバイクを下ろした。

 HONDAのマグナ50。

 原付一種でありながらアメリカンのMT車である。


 ※原付一種:排気量が50cc未満の二輪車のこと。原付と呼ばれるものは大体これを指す。原付免許の他に普通自動車免許でも運転が可能。


 ※MT車:四輪車や二輪車にはアクセルを入れるだけで走行するAT車とクラッチとシフトレバーを使いギアチェンジを行なって走行するMT車の二つがある。


 「しかし原付の割に結構でかいな」


 「他のアメリカンと比べたら流石に小さいが、原付としては破格の大きさだよ」


 事前に何がくるかは教えてもらっていたので軽く調べたが、いざ目の前にすると結構大きく感じる。

 なかなかどうして興奮させてくれるじゃないか。


 「もらった時に聞いたんだがエンジンブローしたらしくてエンジンが使い物にならないらしいの。一応スペアももらってるから今度暇な時に一緒にやってみようよ」


 そう言って佳奈は荷台からエンジンを下ろす。

 そこまでしてくれるとは思いもしなかった。


 「何から何まで辱い。今度いっぱい奢るよ」


 「いいってことよ。元々うちに置いとくスペースもなかったからってのもあるし」


 「駄賃にもなりゃしないが、これ持ってきな」


 そう言って私はエナジードリンクを二本渡した。

 ここまでやってもらって大したお返しがないというのも気が引けるが、今あるのはこれだけだ。


 「いいよこのくらい。またゲームにつきあってくれれば」

 

 「ほんと助かる。いつでも誘ってくれ」


 そう言いながら、私はマグナ50を引いて玄関前に置いた。

 佳奈はすでに運転席に座っており、シートベルトを締めているところだった


 「それじゃ、そろそろ帰るね」


 「今日はありがとな、帰りも気をつけて」


 そう言って私は手を振って見送った。

 まさか急に新しいバイクが手に入ると思わなかった。

 しかもなかなかかっこいいじゃないか。

 とは言っても、まだバーディーは健在だし、直すのは結構先だろう。

 そう考えながら家に入る。

 この時は、特に何も考えずに受け取っただけだった。






 しかし、11月下旬。

 バーディーのヘッドライトが変形し、走行中にエンジン不調が多発。

 友人に助けを求めたのだが、とある事情があり長距離移動をすることができず。

 程なくして、マグナ50を一人で直すことになったのである。



 


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