タコ
はやぶさ2から投下された砂塵入りのカプセルを開いた学者たちは唖然とした。
カプセルの中には小惑星の表面を破壊して得た砂粒ではなく、ギチギチに生ダコが詰まっていた。
あまりの恐怖に現場はパニックとなり、生放送の画面は軒並みしばらくお待ちくださいの文字が添えられた花畑の画像に変わった。
なぜタコが入っていたのか。耐熱カプセルの所為でタコは生のままだったので、混乱した学者の一人が取り敢えず魚屋をやっている兄に写メを送り、これは紛れもなくタコであるというお墨付きをもらったと上司に報告して解雇されたりしたが、カリフォルニア大学の海洋生物学の権威からのお墨付きをもらい、正統にただのタコだと証明された。
そのお陰で学者たちはなぜタコが入っていたのかという目の前の超魔術的現象に頭を捻ることになった。地球上の生物が何らかの原因でカプセル内に転送されたという説が有力になる程、科学者たちは疲弊して摩耗していった。明け方四時頃のテンションで研究を続けた学者たちはもれなくタコ嫌いになった。
タコを見たくて宇宙開発をしていたわけではないと言った学者に、宇宙にタコがいるのは常識じゃないかとどこかの政治家が言ったとか言わないとかいう記事が載る程、報道各社も混迷を極めた。そんな中、カプセル内にギッチギチに詰まっていたタコの遺伝子解析の結果がカリフォルニア大学の海洋生物研究所から届く。その結果、タコは明石のタコと同じ遺伝子だと学会で発表された。この結果に対して兵庫県知事は取材にはノーコメントを貫いた所為で月刊ムーで宇宙人説を唱えられ、雑誌創刊紙上初めての名誉棄損による裁判となった。しかしそのニュースを取り上げる番組はテレビ東京だけだった。その理由は同時に発表されたタコは地球上の生き物ではなく正式に宇宙人であるというニュースにかき消されたためだった。当時その様子を生放送をしていたテレビ画面は軒並みしばらくお待ちくださいの文字が添えられた花畑の画像に変わった。
結果、この事態から大阪のタコ焼き屋の一部の店舗の看板が便乗を狙って宇宙人焼きと書き直されたものの売り上げが暴落し、翌月にしれっとたこ焼きに戻すという変化をもたらした。