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プロローグ
誰にするかは酋長の一存に懸かっていた。
だからみんな必死だった。体に不具がある者は確実に対象にされる。
暗々裏に食料を献じて保身を図る者もいた。讒言も後を絶たず、酋長の権威は高まる一方だった。
始まりは父の怪我だった。足を挫き、動けなくなった。父は間もなく殺された。
父の死を嘆いて母は寝込み、病気に罹った。母は殺された。
「ほら、食えよ」
嘲笑が集落を満たした。
肉を食べろなんて言われたのは初めてだった。血の滴る肉を僕の目の前でぶらつかせる。
さっきまで息をし、僕を庇ってくれていた。母の肉塊。
喉から酸っぱいものがこみ上げた。僕は揺れる霞む歪む集落を脱し、どこへともなく駆けた。
これで僕は天涯孤独。僕が不甲斐ないせいだ。僕が反駁できないことが解っているから、父も、母も。