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白石玉子の思い出 「初会」

 白石玉子は思い出す。斉藤踏歌の名前を初めて知った日のことを。



「だって、人が死んだ話を読んで泣くのと人の不幸を笑うのは同じことでしょ」

 クラスで聞こえてきた声。振り返ると後ろのほうで何人かの女子たちが、この夏一番泣けるっていうマンガの話をしてる。今の言ったの誰だろ?あ、あの子か。名前なんていうのかな。

 ひとが死ぬ話はこの世界に溢れてて、たくさんのひとたちがそういうのを読んだり見たりして涙を流す。私はそういうのずっと嫌だと思ってたけど、あんまりまわりに理解されない。冷たい人なんだと思われたりもする。でも家族でさえわかってくれないこの気持ちを、あの子は同じものを持ってるのかな。私はその子から目が離せなくなる。

 目が合う。まわりの子もその子の視線に気づいてこっちを見る。ちょっと、というかかなり見すぎた。また変な行動をしてしまったかな。学校という場所はまだ慣れない。

「ねえほら、踏歌がへんなこというから白石さんもこっちみてるよ」

 その子のとなりの子が言う。踏歌って言うのかあの子。

 このクラスはみんな下の名前で呼び合ってるんだけど、私だけ苗字で呼ばれるのは、たぶん私が転校生だから。

 病気のことや、私が小さいときからずっと入院してて学校という所に来るのが初めてなことは、学校の誰にも言ってなくてみんな知らないから関係ないはず。

 でも、学校の中のルールを知らなくておかしな行動をしてるのは関係あるかも。

 たとえば授業中にトイレ行くのに許可が必要なんて知らなかった。なんのためにこんな変なルールがあるんだろう。

 またあの子を見る。目が合う。あの子もこっち見てた。目をそらす。

 なんだか心臓がドキドキする。発作かな。こんなとこで死んじゃったらみんな迷惑かな。ポケットの中の薬をにぎりしめる。あ、治まってきた。よかった。私、まだ生きられる。


 

 私がいた病院は子供がいっぱいいたけど、基本的にあそこに退院っていうのはなくて、いなくなるっていうのは、つまり…そういうことだった。

 大きくなるまでいられる子はあんまりいないから、私がこうして今も生きてるのはとてもとても幸せなことだと思う。しかも最後にふつうの学生生活を送りたいっていうわがまままで叶えてもらっている。私は本当に恵まれてる。

 余命3ヵ月って言われたときはちょっとあわてたっけ。けど今は毎日楽しく生きている。というか生きてるって楽しい。おいしいものを食べておいしいって思えたり、きれいなものを見て感動できたり、今みたいに誰かと同じ気持ちだと知ることができたり。

 死んだら何もない。ただからっぽなだけ。

 同じ部屋だった子がいなくなった次の朝のからっぽのベッド、あれとおんなじ。さみしくて、かなしくて、次は自分の番かと怖くて震えるから、いつも一生懸命考えないようにしてた。それとおんなじ。ただからっぽなんだ。



 あ、あの子がこっちに来る。なんだろ。でも友達になれたらいいな。


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