下心は愛にならない
通算で何度目の死なのか。
十回死んだところで、幹人はそれ以降数えるのをやめた。律儀に覚えておくのが馬鹿らしくなったからだ。
「おかえり。はい、じゃあ次だね」
「死ね」
「幹人くん、すっかりやさぐれちゃって……」
「誰のせいだよ」
「冒険は過酷だからね。人を変えるよね」
「お前も変われよ! いっそ肉片にでもなれ!」
つかみかかろうとする幹人だが、例によって空間の穴が吸い込んできて阻止する。
「はい、残念。頑張ってきてね」
「頑張れるか! もう嫌だ!」
「嫌だと言っても強制的にやらせるから。あ、なんかこう言うと卑猥に聞こえるね」
「知るか! うわああああ!?」
幹人は、やはり抵抗も出来ずに送り込まれてしまう。
『はい、じゃあ依頼受けるところから再スタートしようか』
「またか……ちょっと思うんだけどさ。僕はいつも死んでるのに、何で町の人は不審に思わないの?」
『そりゃその辺の記憶もリセットしてるから』
「あ、そう。いいんだか悪いんだか」
『さーて、何が出るかな』
コロコロ。
『おお、これはこれは』
「何? どうせ悪い目なんでしょ」
『おめでとう! 君と冒険を一緒に行ってくれる子が現れたぞ!』
「……え? 一緒に?」
『うむ』
「……ああ、何か性格悪いとかパワハラしまくるとか金にがめついとかそういう相手が来るのか」
『すっかりネガティブなイメージしか浮かばなくなってるな。安心したまえ。女の子だ』
「女の子? ……ヒステリー持ちとか、イケメンにしか興味ないとか、そういうの?」
『そこで「不細工かゴリラが来るんでしょ」とか言わない辺り、ちょっと期待してるんだな』
「し、してないよ!? 何だよ!?」
『いやー、男の子だねえー』
コロコロ。
『ふむ、どうやら年齢は君の少し上くらいのお姉さんだな』
「少し上? ……あ、つまり介護がいるくらいの」
『どれだけ疑り深いんだ。普通に二、三歳上なだけだから』
「信じられない。この異世界でそんな普通のことが起きるなんて」
『別に今までだって冒険自体は普通だったと思うが』
「結果を連れてくるダイスがおかしいんだよ!? 何でゲームオーバーへの道しかないんだよ!?」
『剣と魔法でバンバン人が死ぬ世界でそんなこと言われても。おっと、来たぞ』
「えっ? うわっ!?」
「きゃっ、ご、ごめんなさい!」
振り向こうとした幹人に誰かがぶつかってきた。
女性の冒険者だった。幹人より年上で、栗毛の長い髪をしている。
「すみません、不注意でした。お怪我はないですか?」
「あっ、いや、だ、大丈夫です」
声が上ずる。
女性は目鼻立ちの整った美人だった。近くにいると、ふわりと花のような香りがして、幹人の感情を波立たせた。
『うわ、童貞くさい反応』
「うるさいな!? 余計なこと言うなよ!?」
「本当にすみません。お怒りはごもっともです。申し訳ありませんでした」
女性は幹人の言葉に反応して深く頭を下げてくる。
「あ、違うんです。今のは別にあなたへ言ったわけじゃ」
「わたくし、アリシアと申します。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「え、あ、幹人です。薄井幹人」
「ミキトさんですね。この度は大変失礼いたしました。何かお詫びをしたいのですが」
「いや、そんな気を使わなくても」
『美人からのお誘いを断るとかダメな奴だなあ』
「頼むから黙っててくれ」
「……そうですか、申し訳ありません。口を利く価値もないということですね」
「違うんですって!? そうじゃなくて」
『さっさとダイス振ってパーティ組むか決めるかい?』
「だから余計なことを……いや、今はその方がいいかな」
『よーし、パパ頑張っちゃうぞー』
「誰がパパだよ。あと頑張らなくていい。変なダイス目は出すなよ」
コロコロ。
『おお! これは!』
「あ、悪い目が出たんだな。はいはい、どう死ぬの?」
『君はアリシアの美貌に性欲が抑えきれず、襲い掛かる』
「ああ、そう……え? は? ちょっと待て。襲い掛かる?」
『うむ、おめでとう! 童貞卒業だね!』
「はああああああ!? お前、本当にふざけんなよおおおおおお!?」
「すみませんすみません! 私、何と言ってお詫びしたらいいか」
「違う違ううわああ! 勝手に動くなあああ!」
幹人の意志に反して手足は操られるように動き、アリシアを押し倒す。
「きゃあ!?」
「待って待って待って誰か止めて!?」
布を引き裂く音と、悲鳴が響き渡る。
幸か不幸か、周囲が異変に気付いて取り囲まれるまで時間はかからなかった。




