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ダイスで異世界  作者: kuro
4/10

魔力は容易に回復できない

「うう……また来てしまった。って、あれ?」


 幹人は辺りの様子が変わっていることに気が付く。

 先ほど殺された草原ではなく、見たことのない町中へと降り立っていた。


「え、何? 町?」


『うむ、安心したまえ。今回は町からスタートだ。やっと冒険を始められるぞ』


「……そうなんだ。はあ~~~~……」


『うん? せっかく人のいる場所へ来たのに、やけにテンション低いな。どうしたんだ?』


「気が抜けたんだよ。それくらい分かってよ」


 幹人は敬語も忘れて愚痴る。もはや神に対する畏敬の念など湧いてこない。


『そうか。まあさっきみたいな不運続きはそう起こらないだろう。私だってそう簡単に全滅するところは見たくない』


「え、あれってわざとじゃなかったんだ……」


『当たり前だろう? あくまでダイスの結果に従っただけだし』


「その結果が問題なんだけど」


『まあまあ。町の中なら草原よりは安全だろう。さあまずは冒険者ギルドへ行くといい。よくある冒険者登録だ』


「よくあるの? ……というか、冒険者になることが自然なのは間違いな気が。他の職業選択は?」


『スキルとか魔法使ってみたくない? 冒険者なら持てるぞ?』


「使ってはみたいけど……宮廷魔術師とか騎士とかじゃダメなの? なんで?」


『そんなところに転生した奴が自由に技術を振るえると思う?』


「う、うーん。でもゲームとかじゃ割と雑に王族とかに会ってるような」


 コロコロ。


『さあ早く行くんだ、冒険が君を待っているぞ!』


「足が勝手に!? 分かったよ!? 行けばいいんでしょ! ていうか本当にダイス目操作してないの!?」




 幹人は、強制的に辿り着いた冒険者ギルドで強制的に登録を済ませ、強制的に職業適性を検査した。


「ミキトさん、あなたの職業は……まあ、賢者ですね!? おめでとうございます!」


「はあ、どうも」


 受付嬢がやけに驚いているが、内容が全く分からないので幹人には反応しづらい。


「で、賢者って何ですか?」


「魔法使いと僧侶、両方の魔法を覚えることが出来る職業です。魔法使いは攻撃魔法を、僧侶は回復魔法を扱う職業です」


「ええと……つまり、上位互換?」


「はい、いいとこ取りですね。色んなことが出来ますから、他の冒険者からも引く手あまたですよ!」


「他の……ああ、そうか。パーティーとかも組めるのか」


「何なら今ご紹介しましょうか? 今日中に会えるかは相手の都合次第ですけど」


「ああ、そうですね。それならとりあえずお願いして」


 コロコロ。


「申し訳ないですけど、まだパーティーは組まないのでお断りさせていただきます。何言ってんだ僕は!?」


「え、そうですか? また気が変わりましたら声をおかけください」


「あ、はい。じゃなくて神いいいいいい!? ちょっと、どういうこと!?」


『いや、振ったら断っちゃって』


「嘘つけえ!? 絶対仕組んだでしょ!? この先ひとりで冒険させる気だな!?」


『人聞き、いや神聞きの悪い。出ちゃったんだからしょうがない。百面で振って一面しか断る目がないのにね。おかしーねー』


「どんだけ運がないんだ僕は!? くそう……と、とりあえずソロの依頼ありますか」


「はい、ございますよ」




 幹人が受けたのは町周辺の魔物を退治する依頼だった。

 今回指定されたのは、スライム種の駆逐だった。

 早速町の外の草原へ向かい、スライムを探す。


「スライムか……意外と強いゲームもあったりするから慎重に行かないと」


『ええー、警戒なんてしなくていいよ。どうせダイスが決めるんだし。だいいち、負けないと幹人くんのスライムプレイが来ないじゃん』


「いらないよ!? 誰に需要あるんだよ!? ……まあスライムはどうも魔法が弱点みたいだし、大丈夫なはず」


『それが幹人くんの最後の台詞なのでした』


「嫌なナレーション付けないでくれる? ……この依頼終わったら、一回神様のこと殴りたくなってきた」


『え、何で? ひどいな。理由もなく殴りかかるなんて人として恥ずかしくないの?』


「理由ありまくりだよ!? ないと思ってる方が怖いよ!」


『そうカリカリしない。スライムにやられちゃうぞー』


「自分でダイス次第とか言ったくせに……あ、来た」


 少し離れた位置に、水色のゼリー状の生き物が蠢いている。幹人の両手で抱えられるくらいの大きさだろうか。触れてみたいとは思わないが。


『よし、じゃあ戦闘か』


「変な目を出さないでくださいね、絶対に」


『そいつはダイスに聞いてくれ。そーれ』


 コロコロ。


『ちっ、魔法で先制だ。撃つといいよ』


「何で舌打ちするの? おかしいでしょ?」


『ほーらー、早く』


「早くって、命中するかどうかもあるんでしょ」


『おっとそうだった』


 コロコロ。


『命中。ちっ、グラサイが』


「また舌打ちしたよね? ていうかグラサイって何ですか」


『子供は知らなくていいんだよ。はい、じゃあどうぞ』


「よし――ファイアボルト!」


 呪文名を叫んで炎の矢を放つ。

 初めて使った魔法だったが、過たずに炎はスライムへと命中した。

 不定形の体から水分が蒸発し、わずかな灰だけが地面に残る。


「うわあ、すごい。これはいい」


『やだ、ダサい。魔法を思いっきり叫ぶとか恥ずかしくないの?』


「え、何で? 格好いいじゃない」


『神に詠唱とか必要ないし~。無言で思った通りにできるし~』


「はいはい、そうですか。こっちは喜んでるんだから、水を差さないで欲しいな、もう」


 コロコロ。


「ん?」


『はい、じゃあまだスライムはいるからその調子で頑張ってね』


「いや、待って。今ダイス振らなかった?」


『振ってないよ?』


「何で嘘つくのさ。ちゃんとこっちにも聞こえてるんだから」


『え~、知りたいの~?』


「知りたいに決まってるでしょ。なんか変なこと起きてたら嫌だし」


『そうか、じゃあ周りを見てみるといい』


「え? ……あれ、何か焦げくさ」


 幹人が周りを見ると、火に取り囲まれている。放った炎の矢が草に引火したらしい。


『ああ、何てことだ。無闇に魔法を使うからとんでもない事故が』


「事故じゃないだろおおおお!?」


『そうだな、人災だな』


「そういうこと言ってるんじゃない!? 何で隠そうとするんだよ!? 言えよ!?」


『まー、平気平気。ダイス振るまで炎も来ないから』


「あ、ああ、そっか。いや、良くはないけど。……で、これ止められないの?」


『水の魔法も使えるからそれで上手くいけば止まるだろうね』


「じゃ、じゃあ早くダイス振ってよ」


『ふふふ、ダイスを待ち通しにするとは染まって来たね?』


「染まってないから。動けないから早くして欲しいだけだから」


『つれないなー、幹人くんは』


 コロコロ。


『ちっ、成功。水魔法を使って草原に広がる炎を消し止めたよ』


「いちいち舌打ちするのやめてもらえません?」


 すぐさま幹人は水魔法を放って火を消した。

 消火が終わったところで、改めて草原を見渡す。


「よし、再開だ。残りもやってしまおう」


『やる気あるね。相手が楽勝だと分かった途端これか。やーねー、最近の若い子って。バリボリ』


「やれることやってるだけなんだから別におかしくはないでしょう。ていうか、変な音してるんですけど、何か食べてるんですか?」


『せんべい』


「……休憩時間じゃないんだから、もう少し真面目にやってくれません?」


『どうせダイス振るだけなんだからいいじゃないか。それに戦闘が楽勝だからつまんないし』


「やっぱ、あんた神じゃないでしょ」


『何言ってるんだい、神とは常に試練を与えるものだよ。さて遭遇遭遇、と』


 コロコロ。


『ふむ。今度は三匹か』


「う、数が多いのはひとりだと嫌だなあ……まあ確実に一匹ずつ倒せるんだからいいか」


『はい、それじゃ行動決定ー』


 コロコロ。


『魔法発動だね』


「よし、これで数が減らせる――」


『しかし魔力が足りなかった!』


「……は?」


 神から衝撃の言葉を告げられ、幹人はその場で固まる。


『しかし魔力が足りなかった!』


「……いや、繰り返さなくていいです。……魔力が? ない? 何で?」


『そりゃもちろん、さっき水魔法をたくさん使ったから』


「は!? 一瞬で済んだでしょ!? 何でたくさん使ってることになってるの!?」


『え、だって草原に「広がる」炎を消し止めたんだから、当たり前でしょ』


「何だその詐欺みたいな説明は!? やっぱりおかしい! 絶対ダイス目操ってるよ!?」


『不正はしてないって。えー、じゃあ敵三匹の攻撃ね』


「くそっ、頼む! かわせかわせ!」


 コロコロ。コロコロ。コロコロ。


『クリティカル!』


「おいいいいい!?」


『あ、ダメージ振るまでもないや。即死だ、これ』


「嫌な死刑宣告するな!? ……うあ、あつっ!? いたっ!?」


 スライムが体に取りついてくる。すぐさま皮膚も肉も骨もドロドロに溶かされて幹人は死んだ。

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