序盤の物理攻撃は頼りにならない
幹人が最初に降り立ったのは、草原だった。
異世界とは言われているものの、今のところ辺りには動物の姿もなく、やはり実感が希薄だ。
『あー、あー。聞こえるかな、幹人くん?』
「うわっ、何ですか?」
『うん、大丈夫みたいだな。それじゃ、さっそく始めていこうか』
「始めるって……どうするんですか。辺り何にもないし。ていうか、何で草原? 町じゃないの?」
『ダイス振ったら最初が草原だったから』
「それもダイスなんですか。運がいいのか悪いのか。砂漠とかじゃなくて良かったけど」
『まあ最初だしね。さて、じゃあ周りの状況を決めようか』
コロコロ。
ダイス音が響く。わざわざこっちにも伝えているらしい。
『うむ。幹人くん、これはすごい目が出たよ』
「はあ。何かいい目でも出たんですか?」
『魔物ラッシュです。凄まじい数の魔物が襲ってくるから頑張れ』
「……は? は?」
『それ、来たぞーう!』
気が付くと周囲には、不気味な気配を発している野犬の群れや、剣を持った骸骨の騎士、明らかに巨大化した蜂の大軍、恐ろしい唸り声を発する腐った熊などが存在している。
どれか一種だけでも死の危険がありありと伝わるのに、よりにもよって同時に現れていた。
「……えっ、え? ちょっ、えっ」
『戦闘開始です』
「ええええええ!? 何それ!?」
『大丈夫だ。こっちがダイス振るまでは行動してこないから安心しなさい』
「そういうシステムなの!? え、いやでも全然安心できないんですけど。見てるわけで怖いし」
『よーし、じゃあ次は行動内容の決定だ。戦うか逃げるか、振ってみよう。ちなみに足がすくんで動けないという目もある』
「地味にひどい!? さすがに逃げるが出て! お願い!」
コロコロ。
『先制攻撃! おめでとう、無条件で一度攻撃を加えられるチャンスが来たぞ!』
「えええええ!? 逃がしてよ!? あれに近づきたくないですよ!?」
『もう結果出ちゃったから。ちゃんとダイスの目には従ってね。はーい、ヨロシクゥー』
「うわあああ、勝手に体が動くうううう!」
操られるようにして幹人の足が前へ出る。
すぐそばから獣たちの荒い息づかいや生臭さ、蜂のやかましい羽音が伝わってくる。
「でも攻撃って言ってもどうするんですか? 僕、今素手ですよ?」
『ならパンチかキックか。よーし、振っちゃうぞー』
「何が出ても倒せる未来が全然見えないよ!?」
コロコロ。
『お、これはすごい。偶然落ちてた剣を拾って攻撃だ』
「えっ!? ちょ、ちょっと希望が出てきた!?」
『じゃ、剣拾ってどうぞ』
言われて視線を足元へ向けると、確かに小綺麗な剣が落ちている。現代的に考えれば、いわゆる西洋剣の類だった。
幹人は半分操られるままに動いて、剣をしっかりと握る。見た目それほど刃渡りは長くないが、ずっしりとした金属の重みが伝わる。
『クリティカルが出ればどうにかなるかもなあ』
「うう、頼む、死にたくないから出してええええ!」
コロコロ。
『命中だ。普通にダメージだね』
「うっ……い、いや。この状況だとマシな方か。行くぞ!」
武器を手にして気が大きくなり、幹人は勢いよく魔物へ攻撃する。
カキーン。
『ゼロダメージ』
「……は?」
『ゼロダメージ』
「……………はあああああ!?」
理不尽な展開に、幹人の憤慨もいよいよ恐怖を突破する。
「ふざけてるんですか!? 何だよそれ!?」
『そんなこと言ったって、君のステータスと技量じゃ斬れないんだもん』
「斬れるようにしてよ!? 何で一番最初の魔物にノーダーメージ仕様なの!? 誰が喜ぶのさ、そんな状況!?」
『まあまあ、大丈夫、まだ先制だから、もう一度行動権あるし。逃走が出るのを祈るといい』
「振ってるのが神じゃ、僕は誰に祈ればいいんだ。くっ、できれば逃走……せめて敵の攻撃を食らわない選択肢が出てくれ……!」
コロコロ。
『おおおっ、三回攻撃だ。すごい!』
「全然すごくない! ダメージ通らないでしょ!?」
『いやいや、さっきのはダメージの目も悪かったから。三回あれば大丈夫だって。一匹くらいは落とせる』
「全っ然期待できない」
『ネガティブだなー。命中振るから頑張ってくれよ』
コロコロ。コロコロ。コロコロ。
『……あらっ?』
「どうしたんですか? クリティカルでも出た?」
『……全部ミスだわ。ごめん』
「……ちょっとおおおおお! おかしいでしょ!?」
『いや、だから君のステータスだと以下略』
「略すな!? さっきは命中したのに!?」
『あれもだいぶ奇跡だったから。正味、四割くらいの命中だったよ。残念だね。まあまだこっから敵の攻撃を一度も食らわないっていうチャンスがあるし』
「命中を期待できないなら、なおさら回避に期待なんか持てないよ!? 絶対無理でしょ!?」
『四割を三連続で外したんなら、八割を回避するのだって有り得るって。行ってみよー』
「うわあああああ!?」
コロコロ。
なお、現実は無慈悲だった。
幹人の身体に種々の魔物が食い付き、突き刺し、頭を砕く。幹人はあっさり死んだ。




