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ダイスで異世界  作者: kuro
1/10

神はダイスを振らない

他作品の息抜き用連載。短めの予定

「それならダイスで決めようか」


「……は?」


 目の前の神が、突拍子もなく告げてきた。




「突然だけど薄井幹人くん。君は死んじゃったんだよね」


「はあ」


 実感のないまま幹人は頷く。周りには何もなく、ただ白い空間だけが広がっている。

 神を名乗った眼前の人物は、線だけで描かれた人型の輪郭しかないまま喋る。確かに人ではないのだろうが、神々しさも全くない。


「で、今流行りの異世界転生というわけです。オーケー?」


「流行ってるんですか? いや、僕だってそういう物語は知っていますけど。何で僕が? というか、どうして死んだの?」


「あ、死因聞きたい? 居眠り運転のバスが突っ込んできて即死したの。他にも何人か巻き込まれて、運転手も死んでる。大惨事だね」


「うわあ……あれ、でも僕だけなんですか? 他の人は?」


「それなんだけどね、ダイスで決めた。あ、ダイスって分かる? サイコロだよ」


 そう言って神は六面体のサイコロを幹人に見せる。


「そんなテキトーな……いいんですか、それ」


「いいんだよ。だって神様だし。死んだ人間を毎回全部転生させるのも面倒だから、振って決めてみたわけ。そしたら君が選ばれました。おめでとう」


「はあ……何か素直に喜べない。ていうか、僕本当に死んだんだ」


「でだ。お待ちかねの異世界転生だよ。よくある剣と魔法のファンタジー世界で、魔物もいるよ。やったね!」


「そうなんですか」


「……テンション低いな。現代っ子なの? 令和生まれなの? 魔法使えるんだよ? いらないの?」


「令和生まれって、赤ん坊じゃないですか。まあ魔法は興味ありますけど」


「そうかそうか。興味あるか。じゃ、転生決定ね」


「え、ああ、はい」


「……で、何かこう望む物ある? 向こうの世界で何がしたいとか欲しい物とか」


「いえ、特には」


「え? 何で? ないの?」


「そう言われても思い付かないですし」


「別にどでかいチートとかじゃなくても、普通に暮らしたーいくらいの望みでもいいよ? ないの?」


「はあ……じゃあそれで」


「それでって……何か流されやすい子だな。大丈夫かこれ」


「ところで、僕どうなるんですか? 転生ってことは、生まれ変わって赤ん坊からやり直すんですか?」


「いや、そういう趣旨じゃあないというかなんというか。うーん……どうしよう」


 神は困ったように首を捻る。

 こちらからは口を挟めないので、幹人も無言のままでいる。


「よし――それならダイスで決めようか」


「……は?」


 目の前の神が、突拍子もなく告げてきた。


「いちいち考えるのも面倒だから、サイコロの目に従おう。とりあえず色々と内容書いとくから、振ってみよう」


「え、え」


 言うが早いか、神がサイコロを振った。

 いつの間にか、六面体からもっと細かい面数へと変わり、数字ではなく文字が書いてある。


 コロコロ。


 音を立てて賽が転がる。

 やがて全く読めない小さな文字の面を上にして動きが止まった。


「んんー、内容は……『これから先、ダイスの結果に従って異世界で生きる』だそうだよ。おめでとう!」


 何故かファンファーレが鳴り、親切にダイスの内容が拡大された映像が映し出される。


「ええっと……? どういうことですか?」


「つまり、この先の君の行動は全部ダイス次第になりました。悪事を行なうか善行を積むか、それは全てダイスが決めることです」


「え、何それは」


「ハハハハ、まあまあとにかく行ってらっしゃい。せいぜい向こうの世界で苦し……いや、楽しんできて」


「今苦しめって言いかけませんでした?」


「はーい、一名様ごあんなーい」


 空間にぽっかりと穴が開き、幹人はそこへ吸い込まれていく。


「うわあああああ!?」




 幹人が送り込まれるのを見届けると、残った神は、輪郭だけの口でにやりと笑った。


「それじゃ幹人くん、よろしく頼んだよ」

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