神はダイスを振らない
他作品の息抜き用連載。短めの予定
「それならダイスで決めようか」
「……は?」
目の前の神が、突拍子もなく告げてきた。
「突然だけど薄井幹人くん。君は死んじゃったんだよね」
「はあ」
実感のないまま幹人は頷く。周りには何もなく、ただ白い空間だけが広がっている。
神を名乗った眼前の人物は、線だけで描かれた人型の輪郭しかないまま喋る。確かに人ではないのだろうが、神々しさも全くない。
「で、今流行りの異世界転生というわけです。オーケー?」
「流行ってるんですか? いや、僕だってそういう物語は知っていますけど。何で僕が? というか、どうして死んだの?」
「あ、死因聞きたい? 居眠り運転のバスが突っ込んできて即死したの。他にも何人か巻き込まれて、運転手も死んでる。大惨事だね」
「うわあ……あれ、でも僕だけなんですか? 他の人は?」
「それなんだけどね、ダイスで決めた。あ、ダイスって分かる? サイコロだよ」
そう言って神は六面体のサイコロを幹人に見せる。
「そんなテキトーな……いいんですか、それ」
「いいんだよ。だって神様だし。死んだ人間を毎回全部転生させるのも面倒だから、振って決めてみたわけ。そしたら君が選ばれました。おめでとう」
「はあ……何か素直に喜べない。ていうか、僕本当に死んだんだ」
「でだ。お待ちかねの異世界転生だよ。よくある剣と魔法のファンタジー世界で、魔物もいるよ。やったね!」
「そうなんですか」
「……テンション低いな。現代っ子なの? 令和生まれなの? 魔法使えるんだよ? いらないの?」
「令和生まれって、赤ん坊じゃないですか。まあ魔法は興味ありますけど」
「そうかそうか。興味あるか。じゃ、転生決定ね」
「え、ああ、はい」
「……で、何かこう望む物ある? 向こうの世界で何がしたいとか欲しい物とか」
「いえ、特には」
「え? 何で? ないの?」
「そう言われても思い付かないですし」
「別にどでかいチートとかじゃなくても、普通に暮らしたーいくらいの望みでもいいよ? ないの?」
「はあ……じゃあそれで」
「それでって……何か流されやすい子だな。大丈夫かこれ」
「ところで、僕どうなるんですか? 転生ってことは、生まれ変わって赤ん坊からやり直すんですか?」
「いや、そういう趣旨じゃあないというかなんというか。うーん……どうしよう」
神は困ったように首を捻る。
こちらからは口を挟めないので、幹人も無言のままでいる。
「よし――それならダイスで決めようか」
「……は?」
目の前の神が、突拍子もなく告げてきた。
「いちいち考えるのも面倒だから、サイコロの目に従おう。とりあえず色々と内容書いとくから、振ってみよう」
「え、え」
言うが早いか、神がサイコロを振った。
いつの間にか、六面体からもっと細かい面数へと変わり、数字ではなく文字が書いてある。
コロコロ。
音を立てて賽が転がる。
やがて全く読めない小さな文字の面を上にして動きが止まった。
「んんー、内容は……『これから先、ダイスの結果に従って異世界で生きる』だそうだよ。おめでとう!」
何故かファンファーレが鳴り、親切にダイスの内容が拡大された映像が映し出される。
「ええっと……? どういうことですか?」
「つまり、この先の君の行動は全部ダイス次第になりました。悪事を行なうか善行を積むか、それは全てダイスが決めることです」
「え、何それは」
「ハハハハ、まあまあとにかく行ってらっしゃい。せいぜい向こうの世界で苦し……いや、楽しんできて」
「今苦しめって言いかけませんでした?」
「はーい、一名様ごあんなーい」
空間にぽっかりと穴が開き、幹人はそこへ吸い込まれていく。
「うわあああああ!?」
幹人が送り込まれるのを見届けると、残った神は、輪郭だけの口でにやりと笑った。
「それじゃ幹人くん、よろしく頼んだよ」




