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『そろそろエルフの国を出るわ……ユナ、覚悟はいいかしら?』
「え? はい、大丈夫です」
イフリートの質問にユナちゃんは疑問に思いながらも答えた。この感じだとイフリートが質問した意味を分かっていないみたいだな。まあこれは諸国を旅することでしか経験しないことだし……そもそも何事もなく旅をすることができるかもしれないからね。
「一応イフも気をつけておいてね。精霊のことを知っている人多いんだから」
『やだ』
「はい」
「ケイ様って精霊様のことをそう呼ぶのですね」
「まあ、付き合いが長いからね」
『私のことを略称で呼ぶ人間なんてあんたぐらいよ』
「お前が好きに呼べって言ったからじゃないか」
でも、シルフリードのことをシルフィって言ったり、ウィンデーネのことをウィンディって言ったりしているからイフリートのことをイフって言ったりしても別になんの問題もないだろうと思うけどね。
『そうね……あ、国を出たらすぐに村が見えてくるわ。はぁ、こういうナビゲート苦手なのよね。ねえ最初にサクヤを探さない?』
「ここまで来て? もう水希でよくね?」
『まあ今からまた案内するって考えたら面倒だからこれでいいわ。というわけでナビゲートはおしまい。探すのはケーたちで頑張って』
「わかったよ。案内してくれてありがと」
「本当に助かりました」
イフリートにお礼を言って僕たちはしばらく進んで行く。迷宮から出てからどれだけ時間が経ったのかわからない。でも、ユナちゃんが迷宮に持ってきていた物を売ってなんとかここまで進むことができた。本当にユナちゃんには頭が上がらないし、この借りは絶対に返したいと思う。本人に言ったら昔助けてくれたのでおあいこですって言われたけど……なんていい子なんだろう。それに胡座をかく気はないけど。
「あ、なんか村が見えてきたね」
「そうですね……いえ、騒音が聞こえてきます。誰かが戦っているのではないでしょうか」
「え? あー、確かになんか音が聞こえてきたね。急ごうか」
ユナちゃんに言われて気がついたけど僕たちの向かう先から音が聞こえてきた。もし苦戦していたらと思うと気が気でないのでユナちゃんに言って先を急ぐ。走っていると、向こうで人間と魔物が戦っているのが見えた。
「助けに……行かなくていいや」
「え?」
『そうね。ユナ、ちょうどいいから見ていたらいいわ』
近づいていったら、誰が戦っているのかがわかった。人間が5人に対して、魔物は……あれは、ゴブリンとそれから魔狼……地球の狼と違ってだな。それが合計30匹程度いる。数の上では不利だけど、大丈夫だろう。そんなことを思いながら近づいていっていたら走っていた音で気づかれたのか人間のうち一人が僕たちの方を向いた。まあ、お前なら気軽くだろうな。
「お前柏木か? ちょうどいい。手伝ってくよ」
「斎藤くん、知り合い?」
「あ、あの時の……あとうわっ、綺麗な子。彼女かな」
『どうする?』
「見た感じ水希のクラスメイトっぽいし、ここはひとつ協力的な姿勢を見せた方がいいかもね。ユナちゃんは少し下がっててね」
見つかってしまったのなら仕方がない。ユナちゃんに下がっているように伝えるとそのまま僕は戦っているところに向かっていった。まあ、水希もいるし、平気だろう。
「水希! お前鈍ってないだろうな」
「それはこっちの台詞だっつうの……ああ、俺とこいつで全部倒すから後ろで休んでて」
『あんたら変わってないわねぇ』
水希のそばに駆け寄りながら僕は自分の拳に焔を集める。そして横に並ぶ。戦う前の軽口の応酬はいわば様式美だ。イフリートにはかなり呆れれらているけど、これがないと共に戦うって感じがしないから。それはともかく水希のやつなにしれっと僕と水希だけで戦うって決めたんだよ。まあ、問題ないけど。
「一掃していいか?」
「そうしてくれると助かるけどやる気ないだろう?」
「あ、わかる?」
「お前のことだし」
「だよね『焔』」
しっかりと集めてそしてそのまま近くにいたゴブリンを思いっきり殴る。人型の存在を殴って殺すことなんてもう、慣れた。最初はかなり嫌悪感がすごかったけれど今ではもう意識することなく殺すことができる。そして殴られたゴブリンは顔が焼け焦げて吹き飛ばされた。
「相変わらずすごい火力だな」
「だろ? お前、刀はどこいった?」
「あー、行方不明。そのおかげでまともに能力が使えない」
「お前の能力、刀への負担が大きすぎるからな」
ふと、水希の方を見たら以前とは違う刀で戦っていたので確認したらやっぱり違う刀だったみたいだ。水希は魔法はほとんど使えないが、その代わりに剣技がかなり優れている。でも持っている刀への負担が大きいのでうまい具合に使えないのだろう。僕がイフリートがいないことによる魔力暴走と似たようなものだろうな。
「だからちょっと苦戦してたように見えたのか」
「ああ、それにあいつらも経験がないからキツかったんだよ」
「後でなにがあったか教えろよ?」
「それは、お前もな」
そんなことを言いながらも水希は向かってくる魔狼をことごとく斬っている。なんとまあ手際のいいことで。
「僕がいなくてもなんとかなっただろ」
「まあ、この刀を犠牲にすればね」
「お前のことだから躊躇なくしそうだけどね」
「それでも失わなくてもすむルートがあるのならそっちを選択した方がいいだろ」
「まあ、そうだね」
そしてまた一匹、ゴブリンを殴り飛ばす。何匹か棍棒を持っているからそれだけは注意しないと。振り下ろされた時に焔を広げることで防ぐ。また、敵が水希のクラスメイトの方に向かわないように僕たちにヘイトを集めておかないとね。
「あいつらって水希のクラスメイト?」
「そうだよ。だからできればゆっくりと慣れさせたかったんだけど数が多い」
「大分減ったけどね」
見てみれば、だいたい半分ぐらいが倒れている。力が制限されている割にはかなりいいペースだと思う。まあ、僕も本気で戦っているわけじゃないけど……てか見せたくないし。
「柏木、『不知火』で燃やしてくれよ」
「やだよ。今の状態で間に合っているのだからこれでいいだろ? それに、僕を急かすのなら水希がやれよ」
「えーやだよ」
「まあでも、これくらいの数ならできるかな」
その言葉と共に、目に付く魔狼全てを燃やす。『不知火』とは違い、細かくコントロールして相手にピンポイントで燃やす。これで、目につく限りに魔狼は片付けたはずだ。そして水希の方を振り返ってみれば、最後の一匹を斬ったところだった。
「お疲れ様」
「ああ、改めて、助かったよ。相変わらず焔の制御能力が高いな」
「そっちこそ相変わらず力強いね」
全ての魔物を討伐しきったので水希と互いに労いあう。僕と違って能力を封じていてもある程度戦えるのがこいつの強さなんだよな。そんなことを考えながら、ユナちゃんがいるところへと戻っていった。