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ブクマ、評価ありがとうございます。
「ド、ドラゴン!?」
「……」
ドラゴン、強靭な爪や牙を持ち、尻尾や翼が生えて全身を固い鱗で覆われていて口から炎を吐く生き物。いずれの個体もかなり強い魔力体制を備えておりこの世界において強い生き物として名を馳せている。普通に考えてこんな浅い階層にいていい存在じゃない。
「に、逃げましょう」
「逃げてもいいけど……」
ユナちゃんが慌てたように僕に逃走を提案してくる。僕たちだけでは勝つことはほぼほぼ不可能だろうし妥当な判断だ。でも、今だけは少し違う。僕はドラゴンの向こうにいるであろう存在に向けて声を放つ。
「笑ってないで出てこい、イフリート」
『あら、気がついてたのね』
「これ見よがしに魔法陣なんて見せつけて隠す気ないだろ」
「あっ……精霊様」
ドラゴンの向こうから赤い髪の小さい女の子が現れた。僕の手ぐらいの大きさで小さな羽根が生えている。ユナちゃんは展開がわからずに混乱している。
『そう、でも久しぶりね。会いたかったわ、ケイ』
「まあ、僕もお前に会いたかったよ」
『それに、あの時のエルフの子ね。あなたも久しぶり。綺麗になったわね』
「あ、ありがとうございます」
「それで、どうしたんだよ」
『あら、あなたがなかなか来ないから私の方から来てやっただけじゃない』
「色々あったんだよ……でも、来たってことは僕ともう一度再契約をしてくれるってことでいいんだよな?」
この女の子……イフリートに僕はそうたずねる。契約できるかどうかはとても重要で多分契約できたら魔法の暴走はきっと治るはずだから。
『そうねぇ、このドラゴンを倒せたらって言いたいけど、事情が変わったし先ほどのゴブリンを倒したってことで認めてあげるわ。さ、手を出して』
「ああ、わかった」
僕は言われるがままに手を差し出した。そしてその手をイフリートが手に取り、触れ合ったところが光り輝いて……僕たちの契約が終わった。
「あ、ケイ様、瞳が」
『そういえばあんたもともと黒目だったわね』
「目の色はしょうがないだろ」
僕はよくわからないけど、どうやらイフリートと契約をしたことで、僕の瞳は紅く変わるらしい。ちなみに戦闘時には少しだけ輝くのだとか。なんだか人間離れしているようだけど……精霊と契約をしたと考えたらまあ、そこまでおかしなことでもないな。
『さて、と久しぶりにあんたと戦うわけだし、ちょっと肩慣らししましょうよ。手ごろな相手もいるしさ』
「手ごろって……このドラゴンがか?」
『ええ、今は私の力で抑えてるけど……そろそろ限界だし、準備はいいわね? それから、エルフの子、さっきみたいに後ろに避難してなさい』
「わ、わかりました」
「いくよ、イフリート『焔』」
僕の体が焔に包まれる。でも、今までみたいに暴走することはない。僕の意志のまま自由自在に動かすことができる。そして、当たり前だけど、火傷することもない。
『さ、ドラゴン退治をしましょうか』
「はいはい」
「グルルルル」
ドラゴンが僕の方を向いて、口から炎を吐き出してくる。でも、その攻撃は僕には効かない。僕の周りにある焔が吐かれている炎に喰らい付くと、そのまま全て丸ごと吸収した。
「返すよ」
吸収した炎を全て僕の右手に集約してそのまま飛び上がり、ドラゴンの首元を思いっきり殴る。衝撃によってドラゴンが少し後ずさる。ここが迷宮で助かった。天井があるおかげで飛んで攻撃するということができないみたいだ。
『あー高さのことを考えてなかった。ごめんね』
「お前もう少し相手のことを考えろよ」
『嫌よ』
「はいはい」
でも、それが許される存在だからなんとも言えない。ドラゴンが首を伸ばして叩きつけてくるけど、その攻撃を焔で防ぐ。薄く伸ばすことで壁のように使うことができる。
「上から叩き込んだ方がいいかな」
足に集約させて思いっきり飛び退く。能力値なんて魔法で補えることができるからね。そのまま後ろに回りこんでまた拳に焔を集めて上から殴る。
『うーん、一気に倒しましょうか』
「了解。『不知火』」
黒い焔が巻き上がり、ドラゴンを焼き尽くしていく。ドラゴンは苦しみの声を上げているけど、すぐにそのまま地に倒れた。
『うん、子供を連れてきたからこんなもんでしょ……回復させて元いたところに返そ』
「外から連れてきたのかよ」
『うん、暇だったし。あんたがもっと早くここに来ていればこの子は親と離れ離れになることなかったのに』
どうやらこのドラゴンはイフリートが気まぐれで外から誘拐してきたドラゴンらしい。暇だったとか言われても……いや、それは僕の責任だからしょうがないか。
「ひ、一人でドラゴンを倒した……?」
『こいつの仲間なら誰でも……あーサクヤはちょっと厳しいかしら。ま、でも誰でも倒すことはできるでしょうね。それに最近召喚されたって人間の中にもなかなか強そうなのいたし』
「そ、そうなんですね」
「うん、あれよりもかなり大きなのを一人で倒してたやつもいたしね」
ドラゴンの方を見たら体が輝いたかと思ったらそのまま消えていった。イフリートが移動させたのだろう。どうせなら僕たちを移動させて欲しかったけど……まあ今の僕らならこれくらいの敵は造作もない。それに、今の言葉に嘘はない。あいつは巨大な龍を前に一人で立ち向かい、そして勝利した。また、咲夜もまあ……あいつはどちらかといえば支援系だし出来なくても仕方がない。
「ユナちゃん、戻ろうか」
「そ、そうですね」
『あれ? 戻るの?』
「あーそっか」
イフリートに言われてふと思い出した。そうだ。そもそも僕はこの国から出ようとしていたわけで今の状況はある意味かなり都合がいい。ここで僕たちを行方不明にしておけば国に縛られることがなくなるからね。クラスメイトたちと別れるのは確かに寂しさが出るけど……それよりも
「そうだな……でも、ユナちゃんは仕事が」
「私も構いません。ケイ様についていくと決めていますので」
「そっか」
『なら、問題ないわね。それじゃあさっさとここから出ましょう。変に捜索隊とか組まれて出会ったら最悪だしね』
イフリートの言葉に従って僕たちは迷宮の外に出る。少しイフリートが手伝ってくれたおかげで誰とも出会うことなく迷宮から出ることができた。
「それで……どこに向かおうかな」
『一応あなたたち4人ともこの世界に来ているわね』
「それなら、水希にするか」
ぜんい……4人来ているのなら一番仲が良かった水希にしよう。まあ一番気軽に会いに行けるっていうのがあるからね。
『そう、それじゃあ「書物の国」に行けばいいわ』
「ありがとう……あ、あと普通の人には姿を見せないでくれよ」
『やだ。勝手にするから』
「は、はい」
そういえばいつも僕の魔力を勝手に使って具現化してたよなこいつ。でも、色々なことを教えてくれるから何もいえない。
「それじゃあ行こうか」
「はい、着いていきます」
そして、僕はかつての仲間たちを探すために、クラスメイトたちの元から、エルフの国から、出ていった。もう一つの目標として、この世界がどう変わっていったのかを知るために。