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「うわああああ」
「なんだこいつ」
「ケイ様……」
「あれは、トロール」
急に見えた巨人に対して、久留米と福本は慌てふためいている。まあ、いきなりあんな巨大なのが現れたら誰だってそうなるよね。
「ちょうどいいぜ。あれでどうだ?」
「は? 何考えているんだよ、逃げるぞ」
「お? お前は逃げを選択するんだな?」
「ちっ、わかったよ」
挑発だとわかっているけど受けてしまった。そして、僕たちはトロールの前に立ちふさがる。トロール側もこちら側に気がついたようで、僕たちの方に向かってくる。
「相手一体しかいないけどどうするんだ?」
「まあ戦っていたらどっちが多く攻撃したかなんてわかるだろ『風』」
高山は勝ち気に笑って魔法を発動させる。目の前に風が巻き起こってトロールに向かう。でも、トロールは少し動きが鈍ったけど特に気にすることなくこちらに向かってくる。
「こいつっ、手強い」
「こっちに向かってくるのを邪魔するよ『土』」
久留米が魔法を発動させると、僕たちとトロールとの間の地面が少しだけ盛り上がる。それにつまづいて、少しだけペースが落ちる。
「これで、どうだ!『火』」
最後に福本が火を出して、トロールの肩を狙う。ちょうとさっき高山が攻撃したところと同じところだったからか、少しだけ焼け跡が付いている。
「……強い」
そういえば僕以外能力値がかなり高かったんだっけ。だから、こうして戦うことができている。でも、それじゃダメだ。今の彼らの様子を見て、それがはっきりとわかる。
「いけるぞ!」
「おう」
トロールに傷を負わせたことで余裕が生まれたのか、高山たちは声を上げる。でも、傷を負わすことができても、トロールの接近は防げていない。
「『風剣』!」
高山の周囲に風で作られた剣が生み出され、それがトロールに向かっていく。足を中心に狙っているみたいでトロールの足に傷がかなりついていく。そして、ついに、トロールが倒れた。
「終わっただろ」
「やっぱり柏木なんもしてないよな」
「じゃあ、これで」
「お前ら、気をぬくなって」
「あ?」
勝利宣言をしたところで、悪いけど、きちんと見るように伝える。そして、訝しむ高山たちの前でトロールがゆっくりと立ち上がった。
「なんで……!」
そして一番近くにいた福本めがけて思いっきり持っていた棍棒を振りかぶった。勝ったと思って油断していた福本は避けることができずに思いっきり吹き飛ばされてしまう。
「福本!」
「ユナちゃん」
「はい」
吹き飛ばされた福本は全く動く気配がなかった。すぐにユナちゃんに指示を出して回復魔法を使うように頼む。ユナちゃんはすぐに理解してくれたようで福本の方に駆け寄ってくれた。久留米も同じように駆け寄っている。
「こいつっ」
「くそっ、『焔』」
自分の腕に焔を出現させて、そのまま飛び上がり思いっきりトロールのお腹に叩き込む。トロールは基本的に動きはかなり遅い。だから僕の攻撃を当てることができる。
「うぐっ」
殴ったのはいいけれど、自分の拳が痛いので見てみたら少しだけ皮膚が焼けていた。無理やり集約させたら、その反動で自分の手を燃やしてしまっていたらしい。でも、この程度ならどうとでもなる。
「なんで柏木の方があれにダメージを与えているんだ?」
「お前の攻撃が効いていたんだよ……それよりも逃げないと」
「この方の治療は終わりました」
「うっ、うぐっ」
「福本!」
ユナちゃんの回復魔法によって福本は意識を戻したようだ。これで逃げることができる。
「高山! 今すぐに逃げろ……お前らじゃ勝てない」
「ふざけんな。それはお前も同じだろうが……俺たちが逃げた後で逃げて自分が倒したとか言うつもりだろうがその手には乗らないぞ」
「私が少しだけ敵の動きを止めます。その隙に全員で逃げましょう。どの道私たちに勝ち目はないのですから」
高山に逃げろって言ったら反論された。でも、すぐにユナちゃんがとりなしてくれたので、高山たちも納得してくれた。
「いきますよ『光絢爛』」
僕たちの目の前で光り輝いて、そしてトロールが燃え盛る。そしてそれを合図に、高山たちが走り出した。
「ケイ様も」
「僕は大丈夫」
「え?」
ユナちゃんの合図を聞いても僕はその場を動くことをしなかった。それを見てユナちゃんが切羽詰まったように聞いてくるけど、僕は平気だから。
「でも」
「まあ高山たちを逃がしてくれて助かったよ……ユナちゃんも後ろに下がってて。正直危ないから」
「は、はい」
ユナちゃんを後ろに下がらせて、そのまま僕はトロールの前に立つ。なんだかんだで僕の言うことを聞いて避難してくれるのは助かるな。ユナちゃんの魔法で目が眩んでいるようだけど、すぐに視界を取り戻して僕の姿を視認する。さて、と。問題はきちんと魔法が発動するかだけど……うん、発動はするだろうな。むしろ心配なのは、
「今の僕だと……どれくらいの範囲に広がるかわからないからね『不知火』」
自分を中心に黒い炎が発生して、そしてそのままの勢いで目の前にいるトロールを焼き尽くした。いや、トロールだけではない。自分を中心にして黒焔が燃え盛り、あたりにいた魔物たちを悉く焼き尽くしていく。
「これ……は」
「ごめん。巻き込んじゃったね」
「い、いえ。私は大丈夫です」
少しして、ユナちゃんが僕に話しかけてくる。謝罪の言葉とともに振り返ると、少しだけ髪の毛とかが焦げていた。それ以外は特に怪我とかはしていないようだった。
「私は魔法の威力を下げる魔法を使えますので……それでも完璧に抑えることはできませんでしたが」
「うん、あれは僕の魔力を全部使って敵を焼き尽くす魔法だからね」
それでも、ユナちゃんの髪の毛を燃やしてしまったことはさすがに申し訳ないと思う。だから、僕はもう一度彼女に謝罪する。
「本当にごめんね」
「いえ、でもケイ様すごいですね。一撃で倒すなんて」
「高山たちがある程度削っていたからね。それに、ユナちゃんの攻撃も助かったよ」
それは僕の偽りざる本音だ。高山たちはかなり強い。この世界に来たばっかりだというのにあそこまで成果を出すことができるのは彼らの能力値の高さゆえだと思う。
「でも、どうして、ケイ様の魔法が効いて他の方々の魔法はそこまでダメージを与えることができたかったのですか?」
「ああ、それは彼らがまだ自分の能力を十分に扱うことができていなかったからだよ」
能力値などのステータスにおいて、これくらいの威力の魔法を使えるから能力値がこれくらいの数値、であるということと、能力値がこれくらいの数値だからこれくらいの威力の魔法が使えるというのは大きく違う。そして僕が前者で高山たちが後者だった、それだけの話。
「えっと……」
「急に強い力を与えられてまだ彼らが把握していないだけだよ。僕はまあ約1年間この世界で戦い続けたから」
「そ、そうなんですね。ちなみにですけど、ケイ様の魔力数値って」
「ん? 134」
「えっ、かなり高いですね。100超えたらなかなか伸びないって話なのに」
それだけ死線をくぐってきたということなんだけどね。いつもいつもギリギリの戦いを続けていた。頼れるのは自分たちだけ、そんな状況で戦い続けたからここまで伸びたのだと思う。
「そういうわけで、僕の魔法の方が通ったんだ。あと暴走はしたけど逆におかげであたりの敵を一掃できたかな」
「みたいですね」
でも、それは今の話。多分だけど、高山たちは今日のこの負けをバネにしてかなり強くなると思う。与えられた能力が完全に自分の力になった時、もしかしたら僕たちよりも強くなるかもしれないな。
そんな風にいい感じで纏めようとした時だった。僕たちの目の前の地面が輝きだして……そこから先ほどのトロールよりも巨大なドラゴンが現れた。