5
ブクマ、評価ありがとうございます。
「それじゃあ、進んでいくぞ」
「ついてこれる?」
「ええ、大丈夫です」
なんだかんだで僕たちは迷宮に到着した。そして中に入っていく。高山たちはユナちゃんに対して気遣うような素振りを見せているけど、僕には特に何も言わない。まあ、当たり前か。僕が高山たちのパーティーメンバーなら声をかけるだろうけど、今は全く違うからね。
迷宮は全部でどれくらいの階層でできているのか僕は知らない。迷宮ごとに数が違うから。まあ大体50前後らしいけど……ここだけ違うと言われても仕方がないからね。迷宮は下に下に続いていて、降りれば降りるほど敵はだんだん強くなっていくというかなり都合のいい仕組みになっている。たまに階段を上って強敵が来ることがあるみたいだけど、その時はその時だとか。
「よし、とりあえず手頃な敵を見つけて肩慣らしして三階層に向かうか?」
「いや、今日はユナちゃんがいるし、それに柏木もいるからここで少し多めにとろうぜ」
高山たちはそんな風に相談している。そして、僕とユナちゃんで一回実際に戦ってみることになった。何気にユナちゃんの実力とかを知らないので、ちょっとワクワクするな。
「ユナちゃん、俺たちがいるから助けが必要なら言ってね」
「柏木もな。準備だけはしといてやるから」
「ありがとうございます」
「……助かるよ」
僕とユナちゃんの後ろの邪魔にならないところに高山たちがいる。そしてしばらく進んでいると、目の前に緑色の肌をした人間のような姿の生き物が現れた。その生き物を見てユナちゃんが解説をしてくれる。
「ゴブリンです、どうやらここの階層はゴブリンが敵のようですね」
「みたいだね……どうする?」
「私が倒します」
そう言って、ユナちゃんが前に出る。さっき回復魔法がどうとか言っていたけど……まあ戦闘用の魔法も使えても不思議じゃないか。そう思っていた僕の前で、ユナちゃんは拳を前に出して、
「焼き尽くします『光絢爛』」
「……え?」
「なっ」
ユナちゃんが何か言ったと思ったら、ユナちゃんの目の前が輝きだして、そして、ゴブリンたちを一体残らず焼き尽くした。僕も、高山たちも理由は違えど驚きで開いた口が塞がらなかった。
「どうでしょうか?」
「す、すげええ」
「なんだ今の魔法」
ユナちゃんの魔法に高山たちはかなり興奮気味にユナちゃんに駆け寄る。そして口々に褒め称えている。ユナちゃんは少し照れたように笑うと、僕の方にやってきた。
「どうでしたか?」
「い、今のって……」
「ケイ様が思っている通りですよ」
あまりのことにうまく言葉が告げない僕が言おうとしていたことを汲み取ってユナちゃんは答えてくれた。あれは……あの魔法は、
「すごい! ユナちゃん、どんな魔法なんだ?」
「こちらは『光絢爛』という光属性の魔法ですよ。光を凝縮させて敵を焼き払うものです」
高山がユナちゃんにどんな魔法なのか聞いている。光絢爛……名前は違うけど、『光爛』とほとんど同じ効果だ。それにさっきのユナちゃんの言葉からして間違いないだろう。でも、こっちの方が威力も範囲も桁違いだ。
「すげえ、のにもったいない。俺たちと一緒に来ればきっとこの迷宮をクリアすることができたのに」
「だよな。俺たちと一緒に来ないか?」
「いえ、私はケイ様と一緒に行きますので」
「こんなやつのどこがいいんだよ」
「納得いかない」
ユナちゃんのすごい魔法を見て、高山たちは再度ユナちゃんを勧誘している。でも、ユナちゃんの意思は固く、全部拒絶している。そして、高山たちの機嫌が目に見えて悪くなる。そして標的はユナちゃんから僕に変わる。
「なあ、柏木、ユナちゃんを俺たちのパーティーにくれよ。お前が言えばきっと心変わるだろうからさ」
「そうだよ、こんな人、お前にはもったいない」
「断る」
「なっ」
わざわざ僕に聞いてくることないだろうに。ユナちゃんが嫌だと言ったのならばそれでおしまいだと思うのだけど。そして僕の言葉に逆上した福本が僕に突っかかってくる。
「ふざけんな、柏木のくせに」
「まあ、待てって」
「あ? 高山?」
でも、意外なことにそれを高山が止めた。そして福本たちが落ち着いたのを見て、僕に言う。
「なあ、柏木。さすがに俺たちもこれでは納得できない……だからそうだな。例えば何か一つ目標を決めて、それを先に倒した方がユナちゃんをパーティーに入れることができるっていうのはどうだ?」
「……わかったよ」
本当はしたくない。でも、こういう奴は一度はっきりさせておいた方がいいということも知っている。正直自信があるかと言われたらないけど、それでも、暴走させてでも敵を倒せば問題ないはずだ。ユナちゃんが心配そうに僕にこっそり話しかけてくる。
「ケイ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫……それに僕の魔法は『焔』だけじゃないから」
「よっしゃあああ!」
「これで決まり! 柏木! 後で文句言うなよ」
「お前らも負けたらちゃんと手を引けよ」
高山たちは、僕が承諾の返事をした瞬間に喜びの声を上げている。まあ王宮での僕の様子しか知らないから勝ったも同然と思っているのだろうね。あーうん、そうだ。実力を隠している人がいるという事実を教えるのもいいかもしれない。それでこの先、こいつらが死ぬことが避けられたら、なんかいいな。
「わかってるって。それで対象はどうする?」
「三階層以降の敵にしないか? お前らが三階層まで突破してるというのならお前らが有利すぎる」
「……まあ、別に構わないぜ。それじゃあさっさと4階層……いや、ここはあえて5階層に向かおうか」
「よーし、行くぜ!」
話はまとまったのでとりあえず5階層まで全力で進んでいく。途中に出てくる敵は肩慣らしという意味で速攻で高山たちが倒していく。ユナちゃんも一緒に敵を殲滅してくれているので苦戦することなく僕たちは5階層にたどり着くことができた。4階層の敵は高山たちも少し苦戦していたけどユナちゃんが適度に回復魔法を使ってくれていたので特に問題なかった。
「やっぱりユナちゃん俺たちと一緒に来なよ」
「そうだよ。柏木の奴、ここまでほとんど何もしてないじゃないか」
「魔法を使っていてもカラ回りしているし」
高山たちがそう愚痴愚痴言っているが、必要以上に文句を言うことなく進んでいる。僕の今の状況だと勝負の結果は余裕で自分たちの勝ちだと確信しているからだろう。そして。5階層にて、
「何か良い敵はいないかな?」
「正直今の俺たちならここら辺の敵なら余裕だろ」
実際高山たちの連携はすごかった。火、水、風、土とバランスのいい構成で敵を倒していく。そして高山が近接戦闘も得意なようで持っている剣で敵をなぎ倒している。ここに回復魔法を使えるユナちゃんが加わればきっと盤石になるだろうな。
「ふぅ」
「お? 勝負を前にして怖気付いた?」
「いや、別に」
息を吐いたら高山にからかわれたがすげなく切り返す。別にどうってことない。さらに言葉を添えようとした瞬間に、ユナちゃんが叫んだ。
「気をつけてください」
「ん?」
「あっ」
僕たちが進もうとしていた先、そこに巨大な影があった。巨人……いや、違う。あれは、
「トロール……」
ゴブリンとは強さが桁違いの種族、トロールが立ちふさがっていた。