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「終わった、か」
「ああ、そうじゃな」
目の前の灰を見ながら、僕とアリスはしみじみと呟く。それと同時に、僕からイフリートが離れる。それによって僕の姿が元に戻る。
「うっ」
「ケイ様!」
体が崩れそうになるが、すぐにユナちゃんが僕を支えてくれる。精霊と同化し過ぎていた。人間の器では大きすぎる力のために、長時間『精霊憑依』を使うことはできない。今回はそこそこの時間戦っていたわけだし、それが終わった瞬間一気に力が抜けたみたいに倒れてしまう。
「大丈夫か?」
「平気だよ……すぐに戻る」
「そうか。まあ今日はゆっくりと休むがよい。それにカストルが倒れたことで……」
「カストル様!」
アリスがそういった時に、部屋の扉が開いて、そこから魔族がなだれ込んできた。よくよく見れば、水希の姿も見える。水希は、この部屋に入ってきて、僕たちの姿を確認したらすぐに駆け寄ってきた。
「柏木! お疲れ様」
「ああ、水希も」
「これは、どういうことだ?」
「カストル様は」
「カストルは死んだ」
魔族たちはみんな、慌てふためている。カストルが死んだことで、魔王城の空気が変わった。だからみんな死んだことはわかっているものの、それを受け入れることができずに、詰め寄ってきた。でも、それをアリスが前に出て制する。
「誰だ?」
「妾は」
「アリス様」
「柏木くん、斎藤くん!」
「アリスちゃん、ユナちゃん!」
アリスが自分の正体を明かそうとした時に、また後ろから僕たちの元に駆け寄ってくる人たちがいた。美希とそれから咲夜だ。後ろにはジェミニとピスコの姿も見える。美希の魔法でここまで飛んできたのだろうか。
「二人とも、お疲れさま」
「圭たちもお疲れ」
「アリス様」
「カストルは、妾たちが殺した。その意味は……わかるな?」
「……」
再会を喜んでいる僕たちを尻目に、アリスは魔族たちに堂々と言い放つ。まあ、正確には、僕が殺したのだけど、そのことに触れるのは些か野暮というやつだろう。もともとそういう計画だったし。
「アリス様?」
「アリス様ってもしかして、姫様?」
「なぜ、カストル様を」
「カストルは人間を憎んでいた。別に憎むなとは言わぬ。この中で人間のことが嫌いではない者などいない。また、人間にされた仕打ちを覚えている者もいるだろう。だが、カストルは少しばかり、やりすぎの傾向があった。それでは意味がない。また、人間たちがここに攻めてこようとしている」
人間たちの欲望には際限がない。多分だけど、魔王であるカストルだけではなく、その他の魔族もすべて殺していくだろう。いや、殺すのではなく、奴隷として飼っていくだろう。それでは意味がない。なんのためにアリスの父親が魔王として全うしたというのか。
「妾の願いは、お前たちが殺されることなく、生き続けることだ。誰も死なない世界を妾は願っている」
「そのために、そこの人間どもを利用したのですか」
「そうだな。ああ、ここにすべてを伝えよう。今から50年前、この者たちに父上を殺すように依頼した」
「!」
「アリスの言っていることは正しい。僕たちはかつて、魔王を殺した」
アリスの言葉を補強する形で、僕もつけ加える。僕の言葉を聞いた魔族たちは、僕たちに向けて殺気を向けてくる。
『あら、言って良かったのかしら?』
「今更だ」
「妾が父上を殺すように頼んだのは単純じゃ。父上が人間のすべてを殺そうとしていたから。それでは意味がない。大勢が死亡するのが見えていたから」
「それで、アリス様はこれからどうするのですか?」
「人間に囚われている仲間たちをすべて救う。そして、この国を人間たちの住むところから切り離す」
「マジか」
『あら、たいそうな計画ね』
『私の契約者だから。それぐらい言ってもらわないと』
なんだかシルフリードがイフリートみたいなことを言っている『おい』……。アリスの計画はかなりやばいな。でも、それが成功したら人間と魔族の戦いは一時的とはいえ、なくなるだろう。大地が切り離されていれば、簡単には侵略できるはずがない。
「もしかしたら、最初は人間どもに恨みを抱かれるだろう。だが、心配せずとも、そこは妾が父上と同じように、最後まで成し遂げよう」
「!」
この言葉、今のアリスの言葉には、僕たちと魔族側とで受け取り方がまるで違う。そう感じた。アリスは僕たちの方を向くと、少しだけ悲しそに微笑んで、
「妾はやはり、父上の意志を継ぐ」
『意志が固いのね』
「ああ、最後まで手伝って欲しい」
『構わないわ。それが、あなたの意志である限り、私はそれに従う』
「それでいいわ」
アリスとシルフリードの会話。それを聞いて、僕は、彼女の意志が強く固いことを知る。ああ、もう、これ以上何を言ったとしても、彼女の気持ちを変えることができないだろう。
「エルフの子よ」
「はい」
「前にも伝えたが、このことを人間どもに伝えてくれぬか? 新しい魔王となった妾のことを」
「……わかってます」
「途中までは私が送るわ。いや、帰りも請け負うわ。多分ユナちゃんが戻るのは危険だもの」
「ありがとうございます。ミキ様」
そして、アリスはユナちゃんに向き直って、頼みごとをする。それを聞いた美希は、ユナちゃんの足になるみたいだ。ああ、そっか。そういえば、ここに来る前に、半ば、強引に抜け出してきちゃったから、ユナちゃんも危険なのか。
「ケイたちはどうするのじゃ? ユナは妾が責任を持って預かる気でいるが、お主たちは」
「僕たち? そうだなぁ」
「ま、今はアリスの手伝いをすることになるかな」
「そうだね。僕の魔法があれば人間に連れ去られた魔族を探すことなんて容易い」
「それに、人間に恨みを持っているやつも多いんだろ? その時には俺たちが相手になって叩き潰してやるよ」
「アリス、僕たちだってこの世界にもう一度召喚されて、覚悟を決めたんだ。今度こそ、やり遂げるってね」
「ま、あと優璃ちゃんのことも心配だからね」
「すまない、本来この世界のことは、この世界の者たちでなんとかするべきことなのに」
僕たちの言葉を聞いて、アリスがすまなそうにしている。ていうか、そんなこと言ったら今更だ。
『そうよ。元はと言えばあなたの父親がけーたちに負けたのがいけないのよ』
「お前も僕と一緒に燃やしただろうが」
『そうね〜』
いや、そうね〜、じゃねえよ。ああ、もう僕たちの空気を見て、魔族たちがかなり唖然とした表情をしているじゃないか。
「アリス様、この者たちは」
「ああ、父上が希望を託したくなるほどの人間、とだけ今は伝えておこう」
「ま、というわけで」
アリスの言葉を聞いて、僕たちは顔を見合わせる。僕たちの考えていることなんて、みんな同じことだろうし、大丈夫。
「「「「今度こそ、この世界を救ってみせる」」」」
たとえ、そのために、一回滅ぼすことになろうとも。
長い間、読んでくださり、ありがとうございます。
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