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ここから第3章です
「さて、と。だいたいこの辺りから魔族の国だっけ?」
「正確な場所はわからぬがだいたいこの辺りだろう」
しばらく進んで、特に目標なんてないけど、とりあえずアリスに尋ねてみたらそう返ってきた。まあ咲夜がいる時点で迷うとかそういうことは絶対にないし。そして、アリスの言葉を聞いて、僕たちに緊張が走る。ついに、僕たちの過去と向き合う……正確には逃げた過去と向き合うということだ。それを突きつけられたのはこの世界に戻ってきてからだけど。そんなことを思っていたからか、僕たちの顔色はかなりひどい。そんな時、美希が咲夜に寄りかかった。
「咲夜ー、私疲れちゃった」
「「似合わないことはやめておけ」」
「空気が重いから和ませようとしただけよ」
「……お主らって相変わらず女心がわかっておらぬな」
咲夜が反応するよりも先に僕と水希は反応して言葉を返す。返ってきたのはジト目とそれからアリスの僕たちへのかなり冷たい視線。
『だからこいつら彼女いないのよ』
「余計な御世話だ」
「あ? 柏木、お前ふざけんなよ」
「なんでそこで水希がキレるんだよ」
「お前にはユナがいるからだろうか」
理不尽に怒られる。いや、そこまで理不尽じゃないのか? 僕は水希と話しながらチラッとユナちゃんの方を見る。ユナちゃんも僕の方を見ていたようで、
「私がケイ様から離れることはありませんので安心してください」
『……この子、大丈夫?』
「多分」
イフが僕にしか聞こえない声でこそっと言ってくるけどそれは僕も少し気になる。なんていうか……ね? ユナちゃんの好意は純粋にすごい嬉しいのだけど、なんだか安心できないものがある。
「そっか。ありがとう」
少し投げやりで申し訳ないけど、ユナちゃんの笑顔には、僕はその言葉で対応する。でも、そんな言葉でも、ユナちゃんは嬉しそうに笑った。
「はい!」
「みんな、親交を深めるのはいいけど、気をつけてね」
「うん?」
僕たちがそんなことを言い合っていると、急に咲夜が止めるように言った。その言葉を聞いて、僕と水希、それから美希の三人は少し距離をとって周囲を警戒する。
「何人?」
「2」
素早く人数を確認する。なるほどね。僕たちが国に入ろうとしたからそれを邪魔しに来たと。咲夜がそんなことを言い出す時は大抵敵が近づいてきた時。
「誰が行く?」
「俺とお前でいいだろ」
「了解、美希とユナちゃん、それからアリスは念のために援護ができるようにしておいて」
「わかったわ」
「前の方からくるよ!」
みんなに素早く指示をだすというか、簡単に連携を決めておく。誰がきたところで負けるとは思っていないんだけどさ。
「だが、一応先に話をさせてくれないか? 妾としてもできることなら死者は少なくしたい」
「わかってるよ」
アリスの言葉はもっともなので僕たちはすぐに攻撃することをやめる。具体的に言えば迎撃するために出していた焔の玉を一旦消す。
「脅しのために残しとかないのか?」
「いや、さすがにアリスの気持ち考えたらね」
水希に言われたけど、僕たちが戦う気でいたら向こうも構えてしまうからね。
「アリスは魔王になるのか?」
「ああ、妾は魔王になる。そのためにお主たちに殺すように依頼したのだ」
「うん、わかってる」
「人間が、魔王を殺す必要があるからね」
「今度は、俺たちも戦いを続ける」
水希の言葉に僕もうなづく。改めて言葉にしてくれるのは非常にありがたい。こいつのこういうところは本当に救われる。何かあった時に最初にいうのはいつも水希だし。そしてアリス。やはりというべきか僕たちの目的を果たした後、アリスは魔王になるのか。
「さて、くるよ」
「うん……って、あれ?」
咲夜の警告を聞いて、僕は前の方を見る。二つの影がゆっくりと近づいてきているのがわかった。そして近づいてきた時に、その影が見覚えのあるものだと気がついた。
「水希、あれって、ジェミスじゃないか?」
「ん? そう言われたらそうだな」
「……貴様らは」
「圭、知り合い?」
「以前会ったことがある」
美希と出会う前に一度倒したんだっけ。そういえば今回とは全く逆だよな。以前はジェミスが村を襲おうとしていて、そして今回は僕たちが魔族を襲おうとしている。
「それから」
「もしかして、ピスコか?」
「え? あ、アリス様?」
「何? アリス様だと」
それから僕たちはもう一人の方に視線を向けた。もう一人は金色の髪の毛の幼女だ。肌がかなりもちもちだけど……うん、あんまり詳しく述べるのはよくない。
『変態』
「ケイ……」
「お前ら……」
「人間はケダモノ」
「とてつもなく冷たい目で見てくるのやめてくれないかな!」
最初から友好的な視線は向けられてこなかったけど、アリスの避難する言葉を聞いて、すぐにピスコは僕に対して視線の温度を下げてきた。……何も具体的なことを言っていないのにこの対応。もしかして、
「なあ、アリス、この子はもしかして」
「ああ。かつて人間の奴隷だったものだ。父上が殺されたことで、な」
「そうか」
「アリス様! どうしてこんな人間たちと一緒にいるのですか! このものたちは」
「……すまない、ピスコ。それにジェミスも。二人には伝えておかなければならないことがある」
「?」
アリスが真剣な顔をして二人に話しかける。二人はアリスの言おうとしている内容が全く想像できないのか、かなり不思議そうな顔をしている。
「妾が、このものたちに……父上を殺すように頼んだ」
「!」
「なぜ!」
「それが、父上の望みだったからだ。人間は弱い。弱いからこそ他種族を貶める」
「なら」
「だからこそ、勇者を作り、人間たちを導くようにと願った……もちろん勇者たちが傷つかないように」
「でも、僕たちがこの世界の人間ではないと知ったから、魔王は異世界の扉を開いた」
僕たちが魔王と戦った最後の時、魔王は死ぬ直前に禁じられた魔法を使い、地球との扉を開いた。だから僕たちは地球に戻ることができた。この世界のことはこの世界の存在でなんとかしてほしい、そう願っていたみたいだから。
魔王を殺した勇者、となればその人間の存在を無視できない。だからこそ、その勇者が人間を導くにふさわしいかどうか確かめるために最後まで魔王を貫いた。
「父上は最強だった。だからこそ、魔王として君臨し続けた。傲慢でもあったが」
「まー、自分より強い奴がいたらそれだけで終わりだもんね。魔王の計画」
「俺たちだって鈴鹿がいなければどうなっていたか知らないし」
「あはは、あの魔王様最後自爆して僕たちもろとも殺すことができたよね」
僕たちの全力をもってしても防ぐことができなかっただろう。純粋に戦ってきた年季の差が出てきてしまっている。僕たちがいかに強かろうとも所詮は一年ぽっちしか戦っていないからね。それにもともと平和な国で生活をしていたわけだし。
「そんな」
「父上が亡き後、人間たちは魔族を奴隷にした。もともと魔族の奴隷はいたがその数が膨大になった。統率者を失って混乱したところをつけ込まれて」
「ならこいつらはどうして」
「今度こそ、自分たちの行った行動の責任をとる」
「まあ、鈴鹿の願いとそれから魔王の願いを叶えるってことだな」
「そういうことだ。だから妾たちはカストルを殺す……今のことを聞いてお主たちは何を思う?」
「……」
「私たちは」
アリスの言葉を聞いて二人は悩む。どうするのかな。僕たちに協力してくれるのか、それとも、カストルの忠義を全うするのかな。
すみません、ちょっとドタバタしててしばらく更新が開くと思います




