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「そこまで! 残りのパーティーが2つになったために第二試験を終了いたします」
「え?」
残りのパーティーが2つということは、あの少女はソロで行動しているということなのだろうか。珍しいな。そして、ソロでここまで残っているのはすごいな。僕たちが暴れまくったせいで生徒たちは集中していたみたいだし。
「あなたも残ったの? すごいね」
「もしかして、あなたたち一つのパーティーなのですか?」
美希がその残った少女に話しかけている。ここは僕たちは一旦離れたほうがいいだろうね。同性が話しかけたほうが色々と都合がいいだろし。
「なあ、あの子誰かに似てないか?」
「え? あー確かに」
水希に言われてよくよく見たら確かに誰かに似ている。でも、明らかに日本人っぽいし知り合いがいたとしてもなんらおかしくない。黒目黒髪でちょっとモチモチっとした白い肌。二重まぶたでパッチリとした目など、典型的な日本人だと思う。
「そうよ。というか、あなた私たちと同級生よね? 無理に敬語は使わなくていいわ」
「えっと、私17なんですけど」
「なら大丈夫よ。私たち……みんな17だから」
「私、65なんですけど」
「妾は72だな」
『私は確か3000ぐらいよ』
「今は17ってことにしておいて」
ここは形でも合わせておかないと。というか実年齢を言ってしまったら人間じゃないことがばれてしまうって。それからイフ、お前は姿を隠しているから問題ないよ。それからシルフィ、これに加わらなくていいから。……加わらないでください。ツッコミは辛いので。後ろで僕たちが騒いでいるのを無視して美希は少女との話を続ける。
「私は阿藤美希、あなたは?」
「私は、湊優璃です」
「え?」
「!?」
『あら』
少女の言葉を聞いて、ユナちゃんを除いた僕たちは動きを止めてしまった。だって、その名前に聞き覚えがあるからだ。あいつがいつも言っていた。自慢の妹だって。自分にはもったいないくらいの素敵な妹だって。そして僕たちの硬直を見て、少女は、湊さんは不思議そうな顔をした。
「私の名前を知っているのですか?」
「あ、その。お兄さんいるわよね? 湊鈴鹿」
「兄を知っているのですか!」
美希がその名前を出した瞬間に湊さんは美希に向かって詰め寄ってきた。
「そ、そうよ。知ってるわ。もしかしてあなたは、鈴鹿の妹さん?」
「はい。もしかして兄の彼女とかですか?」
「いや? 私はそこの咲夜の彼女……そうね。あなたには話をしておく必要があるわ」
「え?」
「この後、時間ある? もしよかったら私たちの部屋に来て欲しいの」
「わ、わかりました」
ここでは誰が聞いているかなんてわからないし、美希のこの判断は何も間違っていない。それに、あのいつもの男性が僕たちのほうを見て、
「最終試験は明日、残りのパーティーは2つですので、その2パーティーで戦ってもらいます」
そう宣言した。つまり最後はお互いに肉弾戦ということか。あーということは僕たち6人で湊さん一人と戦うっていうこと? さすがに絵面的にアウトな気がしてならない。まあ、その時はその時で誰が戦うとか細かいのを話し合っておけばいいか。
「それじゃ、戻りましょ? 大丈夫。何もしないわ」
「は、はい」
僕たちは湊さんをうながして自分達の部屋に戻る。周りの人たちから注目されていることはわかったけれど、それらを全て無視して僕たちは進んでいく。湊さんはいきなり注目されて戸惑っているけど、まあ、僕たちの攻撃から一人だけ生き残っているからそれも当然だよね。
「さて、と。どこから話せばいいかしらね」
「あの、どうしてそこの人たちも」
部屋に戻ってきて開口一番、美希がそう話し出した。部屋の中にいるのは僕たち6人と湊さんを合わせて7人が一つの部屋に入っている。
「こいつらも鈴鹿のことを知っているわ。そうね。まずは、自己紹介をしておきましょうか」
美希の言葉に合わせて僕たちはそれぞれ自己紹介を始める。
「私はユナともうします。エルフの国のものです」
「妾はアリスじゃ」
「この世界の存在。それから皆さんはクラスメイトと一緒にこの世界に喚ばれたのですね」
「あなたは違うの?」
「はい」
薄々分かっていたけれど、湊さんはたった一人でこの世界に召喚されたみたいだ。見慣れない制服の時点で察するべきだったけど、どうやらこの国が召喚したのだろう。
「あの、あなたたちはどうしてこの世界の存在と仲がいいのですか? それに兄は、1年前に失踪しています。なぜ知っているのですか」
「うん、それなんだけどね。私たちは1年前にこの世界に召喚されているの」
「え? ……あ!」
「そう、この世界の時間軸で50年前に召喚されたとされる5人の勇者、それが、私たち4人と鈴鹿よ」
美希の言葉を聞いて湊さんは信じられないといった表情をしている。だって僕たちの言葉が正しいとするならば自分の兄は一度この世界に召喚されているということだから。そして自分の兄は失踪ということになっているのに僕たちはここにいる。
「もしかして、兄は」
「死んだよ」
「!!」
「口を挟ませてもらうが、妾の知り合いが殺した」
「ど、どうして」
「圭」
「わかってる」
アリスから言葉をかけられるけど、その意味はわかる。アリスは自分の存在を伝えるつもりだ。それがアリスなりの謝罪なのだろう。そして正体を伝えたことでパニックになる可能性が有る。だから僕に一度確認したのだろう。
「妾は魔族じゃ……鈴鹿たちは魔王を倒すために妾たちと戦い、その戦いで鈴鹿は死んだ」
「まぞ、く?」
「ああ」
「なら、どうして、どうして一緒にいるの? それに、どうして皆さんは兄を殺したこいつらを許しておけるの!!」
「それが鈴鹿の願いだから」
「!」
僕たち4人の声が一つに重なる。湊さんは僕たちに向かって聞いてくるけど、僕たちのハモった言葉を聞いてたじろぐ。あのとき、自分の死を悟った鈴鹿は僕たちに最後の願いを伝えた。復讐のために殺すな、と。その願いは果たされたかどうかわからない。でも、その言葉の意味を痛感しているからアリスを殺そうとは思わない。
「わ、私は」
「優璃が望むのなら明日、妾が一騎打ちをしてもよい。鈴鹿の憎しみをそこで果たすことができよう……それに妾の正体がわかれば、妾を殺そうとも誰も文句は言わぬ」
「え?」
「圭たちも、何も言わぬだろう」
湊さんは目に見えて狼狽している。それをアリスは僕たちが何も言わないことだと思ったけれど、それはきっと違うだろう。
「アリス、お前を殺すことに狼狽えたんだよ」
「む? 妾が憎いのなら、殺すことも容易いだろう?」
「それは」
アリスのものいいを聞いても、湊さんは言葉に詰まっている。うん、やっぱり、鈴鹿の妹だよ。こうなると分かっていた。
「殺せないんだろう? 人型とかそういうのに関係なく」
「!」
「憎しみのために殺すのは次の憎しみを受けることになる。それに、まだ、アリスの事情を話していないからね」
「それが関係あるのか?」
僕の冷静な言葉を聞いて、湊さんはかなり驚いた表情をしている。そしてアリスはどうして僕がそんなことを言い出したのかわからないというふうに聞いてきた。
「あるよ……美希」
「ええ、優璃、次にアリスの話をするわね……いや、私たちの過去の話もついでにするわ。長くなるけどしっかりと聞いてね」
そして、美希は語り始める。僕たちの50年前の旅について。




