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ブクマ、評価、ありがとうございます。
「それじゃ、始めようか」
「そうだねっ『焔』」
試験開始の合図が出た瞬間に僕は焔を拳にまとって水希に向かって殴りかかる。それを読んでいたのか、水希は攻撃を避けて、そのままカウンターで切り裂いてくる。
「あれ? あいつらってパーティー同じじゃないか?」
「嘘だろ? 仲間割れか!?」
ここに来る途中にまとまって行動していたのをみられたのか周囲からそんな声が聞こえて来る。このルールで仲間同士で戦うなんてことは普通は考えられないからね。でも、そんなこともあるのがこの世界だ! と言ってみる。
「『力影』」
「『焔』」
水希が剣を振って、僕に向かって斬撃を飛ばしてくる。それを広げた焔で防ぐが、それによって水希を一旦視界から外してしまった。そのせいで水希の行動を見逃してしまう。
「あぶなっ」
「ちっ」
後ろから急接近してくる気配があったので、慌てて飛びのいて自分がさっき出した焔に突っ込んだ。こういうときに突っ込んだら大抵相手は追撃してくることが少ない。
「お前焔に突っ込むとかアリかよ」
「みんな怯んでくれるからね」
「そりゃ怖いよ。だってお前の焔やべえんだもん」
後ろから突っ込んでいたのはやはりというべきか水希だった。そして焔に突っ込むことはためらってくれたので、僕は体勢を立て直すことができた。
「あいつら……本気で戦ってるのか?」
「マジかよ。それならここで一人潰して置こうぜ」
「あの人たちを自由にさせたらやばいよ」
そして僕と水希が本気で戦っていることが分かったのか、遠巻きに僕たちをみていた人たちが標的を僕たちに定めた。
『……よし。引っかかったわね。けー、全員を焼き払いなさい』
絶対にいま思いついたことだよね。僕が注目されていることに気がついたのか、イフがそんな無茶を言いだしだ。いや、無茶なことはいつものことだし今更だ。でも、焼き払うって……どうするかな。
「『焔』」
「ん?」
地面を強く蹴る。そうすることで、僕は空中へと躍りでる。そして水希にめがけて別の魔法を発動させる。
「『不知火』」
「おまっ、マジかよ」
「え?」
「ぎゃああああああ」
狙い的中。僕が高く飛んだことで、攻撃のチャンスだと思った周囲の人たちが水希の近くに寄ってきていた。まあついでに僕に集中しているだろうと思って水希も狙ったんだろうけど。
「『狭間斬り』」
「あー」
黒い焔で埋め尽くされたと思ったら、すぐに空間が切られて、そのまま焔が全て消し飛ばされる。
「なんで消し飛ばすんだよ」
「お前俺ごと燃やしてただろうが」
「だってちょうどよかったんだもん」
「ふざけんな」
僕の言葉を聞いて、水希は怒ったように反論してくる。水希の周囲では何人かが焔に焼かれて倒れていた。でも、すぐに水希が消しとばしたことでギリギリだけど意識があるのか、立ち上がってくる。
「くそっ」
「騙された」
「いや、騙してないから」
「『天の世界』」
「ぎゃあああああ」
「ん?」
仕切り直しというか、みんなが立ち上がってそんな悪態をついてきたけど、漁夫の利を利用しようとしたのはそっちだし僕たちに文句をいうのはさすがに筋違いだと思ってしまう。そんなことを思っていたら風が吹いて全員が吹き飛んだ。
「これ以上怪我を負わせるわけにはいかないでしょ?」
「まあ、そうなるか」
「というか、美希お前一人だけ咲夜の援護をもらってないか?」
「え?」
飛ばしたのは美希の魔法。そして僕は水希の言葉を聞いて、僕は咲夜たちの様子を確認する。確かに、言われてみれば咲夜の方から魔力が流れている気がする。
「ずるいぞ咲夜。僕にも援護お願い」
「え? いや……」
「私にだけしとけばいいの」
「横暴だ」
「何か文句あるかしら」
咲夜に頼んだのに美希に断られてしまった。咲夜は苦笑いしながらも僕に魔法をかけてこないので、僕たちを助ける気ではないのだろう。
「えー、お前の援護があったら柏木をぶっとばせるのに」
「へえ? 水希は一人だと僕を倒せないのかー」
「は? 倒せるに決まってるだろ。ただ言い訳ぐらいは用意しておいてやろうと思ってね」
「勝った後の心配とか取らぬ狸のなんとやらだよ」
売り言葉に買い言葉。僕と水希はお互いに言葉を掛け合う。お互いの実力なんて嫌という程わかっている。実力は拮抗しているから咲夜の援護があった方が勝つのは目に見えているしね。
「はいはいっと『天の世界』。ユナちゃんも攻撃する? 今なら圭たちに攻撃しても私が許すわ」
「え? わ、私は別に大丈夫です」
「そう」
美希の方に近づいていた他の生徒たちを美希は全員吹き飛ばしている。そしてユナちゃんにも同じように聞いているけど、ユナちゃんはそれを断る。人に攻撃できるってなかなか難しいからね。あたりを見渡してみれも、動けている人と動けていない人がいる。
「余所見してて大丈夫か? 『力影』」
「お前に譲ってたんだよ」
水希の放つ斬撃を焔で受け止める。さっきみたいに広げて壁のようにすれば水希の姿を見失ってしまう。だから斬撃の軌道をそらすことに専念する。逸らすことができれば避けることができる。
「なるほどねぇ」
「はっ」
拳に焔を集めて、そのまま水希に殴りかかる。水希に近づいた瞬間に焔を広げて水希の体に当てる。それも見抜かれていたのか、かわす動きを取られていたけど、躱せないくらいに焔を展開したので少しだけ当てることができた。
「ちっ、少しだけ当たったか」
「! 危な」
当てたと思っていたら死角から刀を振られていた。というかさっきの僕の攻撃が当たっていたのは水希がこうして攻撃をするためだったのかよ。体をひねろうにももう殴ってしまっている関係上、動かすことは難しい。できることといえば、
「相変わらずお前の『焔』は優秀だよな」
「お前の目も似たようなものだろ」
水希の持っている最強の能力、『水神の遊び』。近接戦闘に特化したことで手に入れた力。いわば、相手の行動を予測して、未来を見ることができるというものだ。水希が集中すればするほどにその精度は研ぎ澄まされていく。この力によって、僕の拳の軌道及び、絶対避けることができない攻撃を仕掛けることができたのだ。
水希のこの能力のことは知っていた。だから保険として自由に動かせる焔の玉を少しだけ用意しておいた。それを操作して叢雨の軌道に合わせたので僕は切られることなく次の動作に移ることができる。
『けー、はやくこんなやつさっさと倒しなさいよ』
「いやいやいや、本気の水希を倒すには今の状態じゃ無理だって」
『まあ、仕方がないわね』
「それでもやれることをするよ。『不知火』」
「『狭間斬り』」
「ちっ」
水希に向かって不知火を飛ばすも、付近の空間を全て切られて防がれる。やっぱり遠距離攻撃はちょっときついか。正確には遠距離の特大攻撃だけど。
「やっぱそうなるよね」
「これ結構キツイんだよ」
焔の玉を一度にたくさん操作する。水希の『狭間斬り』は連続で使用することができない。それが唯一の弱点。まあ、実戦では要所要所で使うし、そもそも相手に命中すれば相手は死ぬからね。だから、こうしてタイミングをずらして攻撃していけば、水希の防衛手段は限られる。
「なめんな」
「イフ、ちょっと力貸して」
『やだ』
「お前が助けてくれないとコントロールできる数が足りないんだけど」
僕自身の魔力では限界がある。それにイフが助けてくれないということは僕の使える魔法にも限りがある。それに、さっきの攻防で警戒しながらも隙をうかがっている人たちがいるし……。
「はぁ、いつものように、一つ一つやっていくか」
僕はその思いを込めて、水希に向かって焔の玉を大量にぶつけていった。




