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「それでは、次の試験内容をお伝えしたいと思います」
結局、僕たちは合格した。他のパーティーがどんな魔物を討伐したのか具体的には全くわからなかったけど、見た感じドラゴンなんてやばいものを討伐したところはないみたいだ。そもそもドラゴンが生息しているところに向かおうにも時間的に厳しそうだ。僕たちはイフの力を借りたわけだし。
「合格できてよかったですね」
『ま、あれ誰かから買い取ってもセーフだったみたいよ』
「それは知りたくなかった情報だよ」
ということは、他にどこかから買い取ったパーティーがいたということなのか? いや、僕たちがそう受け取られていても何もおかしくない。それでも合格したということは、財力も一つの判断基準になっているということなのだろうか。僕たちは本当にドラゴンを倒してるんだけどさ。
「次の試験では、皆様全員にバトルロワイヤルを行っていただきたいと思います」
「え?」
いきなり? 僕たち全員で殺し合いをするということなのかな? まあさすがにみんな日本人だから殺すまでいくことはないだろうし。僕はさりげなく高山たちを探す。あ、いた。高山たちの顔色はお世辞にもいいとは言えないけど、それでもここに来ているのはやる気はあるみたいだ。僕たちにボッコボコに倒されてもなおこうしてここにいるのはすごいな。
「さて、どっちに転んでるかな」
「俺たちのお節介がね」
水希も気がついたようで僕にこっそり耳打ちしてくる。ここで腐るかそれとも生き残る道を選ぶことができるのか。見ものだね。
『昔のあんたらも似たようなものじゃない』
「はいはい」
「わかってるって」
イフの茶々に僕たちは反応する。だから、僕たちは戦ったわけだしさ。ほんと、あいつには感謝だよ。おかげで奢ることなくこうして今の僕たちがいるから。
「さて、細かな説明を始めます」
そしていつものあの男性がルールを説明している。ルールとしては、一次試験に合格した人たちが全員まとめて戦う。殺すことは得に禁止しないが、周囲からの評価はかなり落ちるので気をつけること。脱落の条件は決められた範囲外に出ること、意識不明になること、死亡することの三つ。そして終わった時にパーティーの半分以上が残っていれば合格。同じパーティーで共闘はもちろん問題ない。また、異なるパーティーと協力することも当然問題ない。
「なるほどね。まあ殺すなんてことはないだろうし」
「それだけが救いだぜ」
「あー、あの時は確かにひどかった」
「あんたらは経験したことあるんだっけ」
50年前に僕たちは一度これと同じようなルールの戦いをしたことがある。それは、殺し殺されるなんてことは当たり前のところだった。その時に、僕とそれから水希は初めて人を殺したんだと思う。人を殺すという決して戻ることができないところに僕たちは落ちていってしまった。さすがにここで誰かがそんなことをする人はいないと思う。
「それでも気をつけたほうがいいな」
「ああ、俺たちが一応見回っておくか」
水希の言葉に美希も咲夜もうなづいている。僕たちがこっそりとフォローをして回ればきっと、なんとかなるだろう。そんな時、アリスが思い出したかのように言った。
「妾は……最初に脱落するか?」
「それだとアリスが役立たずだって思う人がいるんじゃない?」
「今更その程度の悪評なぞ気にしてられぬ」
「それはそうだけど」
「ま、私たちも悪口なんて気にしないしね。ユナちゃんはどう?」
「私ですか? 私は……ケイ様がいれば、問題ありません」
「う、うん」
なんだろう。なんだかものすごく重い気がする。アリスの気にしていることは自分が魔族だとばれることを避けるためにすぐに逃げて、戦闘面は僕や水希がなんとかする。条件としては僕、水希、美希、咲夜の4人が残っていれば問題ないからね。あ、ということは。
「アリスも、どうする? 戦わなくても問題ないよ?」
「いえ、わたしはできることなら戦いたいです。少しでも戦って皆様に追いつけるように頑張りたいです」
「そっか」
「あっ」
ユナちゃんの言葉を聞いて、僕はユナちゃんの頭をよしよしと撫でる。本当にいい子だ。いい子すぎて自分たちと一緒に連れていることに罪悪感を覚えるぐらいに。というか、水希から遠ざけたい。
「柏木、お前こんないい子がいるというのに……いや、お前じゃだめじゃね?」
「斉藤くん、いくら柏木くんが危ない人だからってユナちゃんが決めたことだから」
「ちょっと待て、お前らの僕に対しての評価おかしくないか?」
『あんたも似たようなものでしょうが』
「ほんと、男どもは情けないわね」
「こればかりはお姉ちゃんのいう通りだな」
「わ、私はケイ様と決めていますので」
ユナちゃんの言葉を聞いて僕、水希、咲夜の三人は顔を寄せあわせる。
「おい、これ一番まともなのがアリスというオチがないか?」
「ありえるな。ものすごい皮肉だが」
「でも人間が一番最低な種族だっていうのは割と当たり前だよ」
『私から見たら人間も魔族も何も変わりないわよ』
『イフ、それ言っちゃだめ。でもアリス。あんたが一番まともよ』
「……」
ねえ、その沈黙が非常に怖いんだけど。何? 比較対象がアレすぎて一番まともだとか言われても全く嬉しくないとかそういうことなのか?
『あんたら平気で物騒な方向に進むでしょ……ユナはけーだけだからまだ救いがあるわよね』
「なんか積極的になってない?」
「美希様からアドバイスをいただきましたので」
この話はこれ以上突っ込むのをやめよう。美希が絡んでいるというのであれば、絶対にロクなことにならないことが確定している。
「ねえ圭? あなた変なこと考えていないでしょうねぇ?」
「め、滅相もございません」
『けー、貸し一つね』
その言葉の意味は、要は脅しだよね。僕の心を読んでそれを暴露することを控えたってことだよね。まあ、それを甘んじて受け入れるしかないんだけどさ。黙っていてくれたことは本当にありがたい。
「それでは今から開始したいと思います。参加者たちは移動をお願いします」
「さて、いきましょ」
僕たちは流れに身を任せて進んでいった。案内された場所はかなり開けた場所だった。一次試験を合格した人たちはぱっと見で60名程度。そこそこ合格できているという感じだ。
「さて、作戦とかはある?」
「うーん、共闘とかしても問題ないみたいだからさ、咲夜と美希は二人で戦うか? それで僕と水希は単騎で戦い敵の数を減らす感じで」
美希が僕に質問してきたけど僕としてはこれくらいしか言うことができない。そして、水希がアリスに質問していた。
「そうだな。アリス、シルフリードを俺につけることはできるか?」
「む? できなくはないが、どうするつもりだ?」
「細かいサポートというかさ、何人か、名前と容姿を教えるから万一俺の剣戟で巻き込むようなら伝えて欲しいんだ」
「残って欲しい奴らがいるのか?」
「柏木が気にしてる奴らもだし、他にもね」
『私は、構わないわよ』
「助かる」
シルフィの言葉に、水希は素直にお礼をいう。あー、じゃあ僕もイフに何かしらのサポートを期待してもいいのだろうか。
『さっきの貸しで私が指定するやつを倒すこと』
「相変わらず容赦ねえなお前」
期待した僕が馬鹿でした。そんなことをするやつじゃないっていうのはわかっていたのにね。
「ちなみに誰?」
『え? 水希』
「わかった。潰す」
「はっ、お前に俺が勝てるかっての」
「……アリスちゃん多分あの二人が暴れ回るからアリスちゃんの痕跡は残らないわよ?」
「うむ、妾の身を案じているということにしておこう」
僕も、イフも、それから水希も、みんなそんな気なんて一切ないけどね。そんなことを思いながらみんなで言い合っているときだった。僕たちに全員に聞こえるようにひとつの声が響いた。
「それでは、第二試験、開始いたします!」




