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「やっぱりドラゴンにしようか」
「柏木くんも結局そっちの意見なの?」
戻ってきて待っていた咲夜たちに開口一番そう言ったら咲夜に速攻で突っ込まれた。まあ、戦う前は反対していたのに戻ってきて賛成と意見が変わっていたらそりゃ突っ込まれるよね。
「下手なことしたら目立つからやめようって話じゃなかったっけ?」
「全部吹き飛ばせばいい」
「それは……そうだね」
「咲夜様!?」
『じゃあ早速呼ぶわね』
「ま、待ってください」
話がまとまったとばかりにイフがドラゴンを呼び出そうとしたらユナちゃんが止める。何か問題があるっけ?
「もしかして、何か倒したい敵がいるの?」
「い、いえそういうわけではないのですが」
美希が思ったことを聞いている。まあ、ユナちゃんやアリス倒したい敵がいるというのならばそっちを優先しても問題ないか。ただ、時間を気にする必要があるけど。
『ここならドラゴンを呼び出してもなんとかなるわね』
「なら、さっさと終わらせようか」
「わ、わかりました」
ユナちゃんは何かまだ言いたげだったけれど、言おうとしていた言葉を飲み込んでくれた。不安そうにしているから、何か声をかけたほうがいいだろうね。
「何かあったら僕が守るから心配しないで」
「は、はい!」
「おー、大胆」
「爆発しろ」
「美希……やっぱいいや」
「え? 咲夜?」
「「まあ、妥当だな」」
「何が言いたいのかな?」
美希のその微笑みを見て、僕も水希も黙り込む。だってなんか怖いのだから。でも、おかげで僕がユナちゃんに言った言葉が有耶無耶になった感じがするのでそれは良しとしよう。つい、声をかけてしまったけど冷静に考えたらかなり恥ずかしいし。
『いい? けーの恥ずかしい発言はあとで散々からかうからさっさと喚びたいんだけど』
『これは私もよ喚んだほうがいいのか?』
「シルフィまで喚んじゃったら面倒にならない?」
『面白いからやりましょ。どうせ魔力は全部けーのだし』
「ちょっと待って」
イフだけならともかくシルフィ分もってなるとちょっと魔力が心配になってくる。多分間に合うのは間違いないのだけどそれでも気にしながら戦うとなれば戦い方も変わってくるし。
「柏木、さっきはしゃぎすぎたな」
「うるさい」
『焔』しか使っていないとはいえ、そこそこの焔の玉を生み出しちゃったから消費も大きかった。あ、でも水希が頑張ってくれたらそれで問題ないか。
「水希、お願いね」
「わかったよ……お前はユナだけ守っとけ」
「……はい」
早速いじられた。でも言ったのは僕だし水希にはさっきのことで借りがあるので甘んじて受ける。そして僕たちのほうで話が済んだと思ったのか、イフは準備を始める。
『あ、ちなみにどれくらいの強さがいい? 強め? 天変地異クラス? 古龍? どれ?』
「あの、どれも強そうなのですが」
「さすがに妾も言わせてもらうが古龍とかはやめたほうがいいと思うぞ」
「これは二人に賛成せざるを得ないね」
なんで天変地異クラスを喚び出しても平気だと思ったのだろうか。倒すことはできるだろうけどあたりに与える影響が相当やばいぞ。これに関しては僕たちの意見は一致している。そして一致しているのがわかったイフはかなりつまらなそうに、
『しょうがないわね。スタンダードにレッドドラゴンでも呼ぶわ』
「それって普通なのでしょうか?」
「まあ、イフにとっては普通だよ」
「ケイ様たちの感覚が時々わからなくなります」
「大丈夫よ。慣れないのが一番いいから」
美希がユナちゃんを励ましている。そしてその言葉を聞いたユナちゃんは気になっていたことは全部聴こうという感じで咲夜に質問した。
「あの、そういえばどうしてゴブリンの位置がわかったのでしょうか?」
「ん? あれは僕の魔法。近くにいる存在を感知することができるんだ」
「そ、そうですか」
「咲夜がいると本当に便利なんだよね」
『あ、ならもう少し強いのを』
「それはダメ」
なんですぐに強いのを呼び出そうとするのだろうか。まあこういう奴だから仕方がないよね。イフはもう待ちきれないというようにさっさと喚び出した。
『それじゃあ、いくわよー』
イフのその言葉とともに、僕たちの前の地面が輝いて、そこからそこそこ大きめの赤色のドラゴンが現れた。……もしかしてあの時のドラゴンの子供が成長したとかじゃないよね。
「みんな、頑張って『英雄の集い』」
「水希、頑張れー」
「わかったよ『力影』」
咲夜の援護を受けながら水希がドラゴンに接近する。レッドドラゴンは炎系の耐性がそこそこ高い。だから僕の魔法は少し入りにくい。無理矢理は可能だけど、ここは水希に任せるのが一番無難だろうね。
「『焔』」
水希の放った斬撃がドラゴンの羽にあたる。そこを狙って焔の玉をぶつけていけばドラゴンが苦しみの声を上げる。
「『天の世界』」
最後に美希が風の刃を作り出して切り裂く。羽をもぎ取られたことでドラゴンは飛ぶことができなくなった。そして水希は逆に高く飛び上がって頭めがけて叢雨を振り下ろす。
「ギャアアアアアア」
「わ、私は何をすれば」
「ん? 試しに攻撃してみる?」
「いいのですか? 『光絢爛』」
ユナちゃんの光魔法がドラゴンに命中して苦しげな声をあげる。うん、なかなかいいダメージが入ったんじゃないだろうか。
「ギャアアアア」
「きゃっ」
「『焔』」
怒ったドラゴンが僕たちに向けて火の玉を放ってくる。それを僕は焔で作った壁で防ぐ。そして僕たちに攻撃したということは水希から目を逸らしたということで、
「『狭間斬り』」
「『天の世界』」
水希の切り込みでドラゴンの前足が消し飛び、美希の放った風で無事だった方の前足に傷がつく。
「咲夜も何か攻撃する?」
「え? そうだなぁ『地割れ』」
ドラゴンが立っている地面が陥没してドラゴンの耐性が崩れる。咲夜唯一の攻撃魔法ではあるがそれもどちらかといえばサポート系になるんだよね。あれで体勢が崩れたので、
「『力影』」
「『天の世界』」
「『光絢爛』」
水希、美希、ユナちゃんの三人の魔法がドラゴンに命中する。その攻撃を受けて、ドラゴンはゆっくりと地面に倒れこんだ。イフの奴、なんだかんだでそこまで強くない奴を喚んでくれたみたいだな。
『アリスは参加しなくてもよかったの?』
「妾が魔力を使えば気づかれる可能性がある……ドラゴンを退治したというので目立つというのに下手に顰蹙を買うようなことはしたくない」
「アリスちゃん」
「妾が魔族であることは紛れもない事実だからな」
「それも全部返り討ちにしてもいいけど」
「アリスちゃんが魔王の娘ということがバレるのは避けたいのよね」
美希の言葉はまあ正しいよね。目立つだけならともかくアリスを守る為ってなればかなりの数戦わないといけないし、ここでばれちゃったら……うん、きっと、クラスメイトを殺すことになりかねない。それはできるのならば避けたいところだよね。
「いざとなれば殺すけど、できれば避けたいな」
「斉藤くんの言う通りだね。覚悟はしておくけど、ないほうがいい」
「なんか、すまぬな」
「いいよ。別に」
アリスが申し訳なさそうに言ってくるが、それはもう仕方がない。それに、この問題の根底にあるのは僕たちの中での優先順位だけの話だから。だから、問題ない。僕はクラスメイトよりもアリスを選ぶ。それだけの話だから。
「それじゃ、戻りましょっか。ドラゴンを倒したし」
「そうだね」
水希が首を切り落としてくれているのでそれを持ち帰る。さすがに女子たちには持たせるわけにはいかないので僕と、水希、咲夜に……この三人で順番に運ぶ。さて、多分合格するだろうから次の試験はなんだろうね。




