34
新章開始です
「やっとついた」
「予想以上にかかったわね」
『はぁ、大変だった』
「うるせぇ」
「柏木、お前もう少しイフの手綱握っとけ」
「無理」
僕たちはしばらく旅を続けていてやっと、英雄の国、シャルミナに到着した。到着したのはいいのだけど、僕、水希、美希、咲夜の4人はかなり疲れきった顔をしている。その理由は簡単だ。
「お前、なんで急に『つまらない』って言ってドラゴンとか呼び出すの? しかも僕の魔力で」
『だって、面白いでしょ?』
「「どこがだよ」」
イフの言葉に僕と水希の声が重なる。全くもって面白くないんだけど。ほとんど僕と水希で対応していたから僕たちの叫びは最もだと思う。
「ケイ様、水希様、お疲れ様です」
「ありがとう」
『退屈しなかったからいいでしょ』
「まあ……うん」
それはそうなのだけどさ。ところどころいい感じで敵が出てきてくれて退屈しなかったのは事実だ。でも、そんなところで退屈を紛らわしたくなはなかった。普通に水希たちと話していても退屈が紛れていたと思うのだけど。
「まあまあ、僕としては勘を少し戻せたから問題なかったよ」
「連携の復習もできたし良かったんじゃない?」
「わ、私も皆様の戦闘をみれて良かったです」
順に咲夜、美希、ユナちゃん。そんな風に肯定的に言われてしまっては僕も水希ももう、何も反論する気が起きなかった。そして僕たちは目の前に集中する。さて、と。国の国境というかこの世界では魔物に襲われるということを危惧しているので国の周囲は基本的に壁で覆われていることが多い。そしてところどころに扉があってそこに門番が立っている。
「これ、普通に入って大丈夫か?」
『いっその事獣の国から来ましたって言いましょうよ。入ったほうが面白そうだから協力してあげるわ』
「それが無難か」
嘘はついていない。だからある程度はゴリ押すことができるだろう。それに精霊が手伝ってくれるのであればさらにごり押しが可能だ。というか、イフ、お前それでいいのかよ。僕と水希が代表として門番に話しかけにいく。精霊が必要だから僕かアリスは必須だけどアリスは無理なので僕は確定で、そしてそのついでで水希が選ばれた。
「む? 貴様ら、何者だ」
「あー僕たちこの度獣の国に召喚された勇者候補なのですが」
「確かに我々はそういうものたちを募集している。だが、貴様らが本物なのか」
『私がいうから間違いないでしょ?』
「む……ま、まさか」
イフが具現化して門番に姿を見せると、目に見えて門番がうろたえた。どうやら精霊という存在は知っているみたいだ。有名だしね。
『ちょっと私への扱いについて議論したいところだけど、今は置いておいてあげるわ……それなら話は早いわ。私は精霊、イフリート。そしてこいつらの言葉が正しいことを私が証明してあげるわ』
「わ、わかりました。上に伝えてきます」
そう言って僕たちは許可を得て英雄の国の中に入る。そして養成機関まで案内された。そしてすでに話が通ってあったのか、養成機関の前に一人の初老の男性がいた。
「獣の国の転移者様たち、ようこそいらっしゃいました。ここでは魔王討伐のために様々な国のものたちが凌ぎを削っております。皆様の中に魔王を倒すことができる勇者が現れることを祈っています」
「……わかりました」
その言葉に従って僕たちは中に入る。グラウンドみたいな場所があって、そこに僕たちのクラスメイトたちが互いに競い合っていた。
「あれ? あれって柏木?」
「あ、斎藤くん」
「美希ちゃん」
僕たちの姿を見て、気がついたみたいに僕たちのほうを向いてくる人がいた。今まで合流するなかで出会ってきた人たちだ。なかには僕と水希に好戦的な目を向けている人もいるけど……今はスルーすることにしよう。
「えー、こちらは獣の国に召喚された皆様と故郷が同じものたちです。これにて、魔族の国以外の5つの国の勇者候補が出揃いました。明日の朝に集会を行いますので、それまで今まで通り自由になさっていてください」
さっき出会った初老の男性がここにいる全ての人たちに聞こえるような声で言い放った。それを聞いて少しだけざわめきが発生したけれども、すぐに収まった。
「それでは、皆様の寝るところをご案内します」
僕たちはそのあと、寝るところを案内された。学校みたいな感じで僕たちの寝床が全て用意されている。まあ、正確には大きめの建物があってそこの部屋を割り当てられたって感じだ。
「それで俺たちが一緒の部屋になったというわけだな」
「まあ、三人だからね」
「でも、なんだか懐かしいね」
僕と水希、それから咲夜の三人だ。昔もこの三人で同じ部屋に泊まったことがある。さすがに美希と一緒に泊まるわけにはいかなかったからね。そういう意味では今はアリスやらユナちゃんやらがいるのは非常に助かっているのかもしれない。
「……なんでイフもいるんだ?」
『え?』
『私もいるわよ?』
「なんでいるんだよ」
てっきり美希たちの方にいるのかと思っていたのに。前はそうだったじゃないか。そしてどうしてシルフィまでいるんだよ。
『前はね〜美希が一人だったから行ってたけど絶対にこっちの方が面白いじゃない』
『私は少しアリスが私のことを忘れて見た目相応に振舞う時間が取れたらなって』
「お前ら同じ精霊か?」
いや、でも前半の内容だけ聞いたら変わらないのかな? どちらも相手のことを……イフはちょっと語弊が生まれちゃうけど思っての行動だし。
「ん? お前らってことはイフ以外にもいるのか?」
『あれ? 私の姿見れてない?』
『アリスから魔力もらってないの? 私はずっとけーからもらってるけど』
だからイフの姿を水希たちは見ることができるわけだ。そして他の人には全部イフが魔力操作して見ることができる人とできない人とで分けている。具体的には僕と一緒に行動している存在は見ることができるという感じだ。でも、シルフィは違うみたいだ。僕はイフと契約しているから普通に話をすることができるわけだけど。
「まあ僕がいるから問題ないよ。シルフィの言葉をきちんと伝えるから」
『そうね……ねえ、イフ。ちょっとだけ魔力ちょうだい』
『いいわよー、けーシルフィと擬似的な契約をして』
「わかってるよ。水希、叢雨貸して」
「ああ、いいぞ」
僕は水希の持っている叢雨を手に取ると、そのまま僕の指先を少しだけ切った。そしてそこから血が流れ出す。
「はい」
『ありがと』
そしてその血をシルフィが飲む。これで擬似的に契約をすることができて、魔力を渡すことができるようになったわけだ。
「あ、見えるようになった」
「というか契約ってそんな感じなんだな」
「体液ならなんでもいいんだろ?」
『そうね。だから血をもらったわ……あら、あなたかなりいい魔力を持っているのね』
『でしょー、私が鍛えたから』
「お前ためらいなく魔力を吸い取るだろうが」
そんなことを言い合いながら、僕たちは特に外に出ることをしないで、ゆっくりと過ごしていた。明日に細かい説明があるだろうから、それまで待つことにした。咲夜は少しだけ自分のクラスメイトのことを心配していたけど、そこまで面倒をみる気はないし、多分大丈夫だろう。ここにくるまでにある程度は教えたし。




